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第6話 異世界のリスナーさんが、またひとり①

「なるほど」


 ルティと有楽に連れてこられた場所を見上げて、自然と納得させられる。


「確かに、こりゃあ『塔』だわ」

「で、あろう」

「ここをそう表現したかぁ」


 俺のつぶやきに、満足顔でうなずくルティと苦笑いする有楽。それと対照的に、


「ここが……?」


 赤坂先輩はというと、納得いかなさそうに首を傾げていた。

 そりゃそうだ、先輩にとって馴染み深いところがそう言われてるんだから。


「瑠依子せんぱい、ここしかないですよ」

「だな……ここしかないです」

「どういうこと?」

「だってここ、『タワー』マンションじゃないですか」


 ルティから『塔』と呼ばれていた場所。そこは『わかばシティFM』から徒歩1分ちょっとで、ウチの喫茶店から徒歩3分ぐらいのところにある、20階建てのタワーマンションだった。


「えー……」

「ちょっ、せんぱいっ! なんでかわいそうな目であたしを見るんですか!」

「違うっ、違うのっ、そうじゃないの。だって、自分が住んでいるところが『塔』なんて思ったことなかったから」


 ここの住民である先輩につられて見上げると、マンションの上空はすっかり真っ暗で星も少し輝いていた。

 結構前に建設されたマンションではあるけど、この辺りにある他のマンションは10階建てぐらいのが多いこともあって、今でもよく目立つ存在になっている。

 そして、俺や有楽を始めとして『わかばシティFM』全体がお世話になっている場所でもあった。


「ここが住まいだと……? ルイコ嬢は、どこぞの貴族か大賢者の御息女なのですか?」

「ちがいますっ!」

「瑠依子せんぱいは、どっちかというとお姫様って感じかも」

「ほほう、確かにそのような気品が――」

「だーかーらーっ!」


 さっきからファンタジーワードが飛び交っているせいか、あんまりサブカル知識が無いらしい先輩は半ばヤケに言い放った。


「はいはいストップ、ストップ。ルティ、ここは何百人の人がたくさんの部屋に分かれて、家賃……まあ、住むための金だな。それを払って住んでいるんだ」

「ふむ。敷地を高くすることで、土地そのものは狭くても住まう場を多くしているのか」


 感心するように、ルティが高くそびえ立つマンションを見上げる。まさか、ここまでピュアな反応をするとはな。


「だが、入れないのでは意味がないのではないか」

「そこはだな。あの、赤坂先輩」

「なぁに?」


 あ、ちょっといじけてる。そんな姿もまた可愛い。


「どうやって入るのか、ルティに見せてやってください」

「ん、そうだね」


 気を取り直した先輩は、バッグからカードホルダーを取り出すとその中から一枚のICカードを抜き出した。


「いいですか、ルティさん」

「はいっ」


 それをエントランス横にあるカードキーのパネルへかざした瞬間、


「おおおおおお!?」


 静かな音を立てて、自動ドアがゆっくりと開いた。


「なんなのです、今のは!?」

「魔法の鍵、みたいなものですね」

「魔法……魔術ですか!」


 先輩のおどけた言葉に、目を輝かせて興奮するルティ。まあ、本当に異世界から来たならイチから説明してもわからなさそうだから、ひとまずはそれで済ませたほうがいいのかもしれない。


「じゃあ、入りましょうか」

「はいっ」


 先輩とルティに続いてマンションの中へ入ると、小さなフロントやラウンジがあって、まるで小さなホテルみたいな造りになっていた。


「ルティさんは、どうやって下に降りてきたんですか?」

「階段があったので、降りてそこの扉から。とても長き階段でした」

「屋上の非常階段、ですか……大変だったでしょうね」

「かなり」


 大真面目にうなずくルティだけど、そっか、エレベーターじゃなくて非常階段と来たか……20階からじゃ、吹きさらしで怖いだろうに。


「でも、今の時間じゃ暗いから、エレベーターを使って行きましょう」

「〈えれべーたー〉とは?」

「乗ればわかりますよ」


 にっこりと笑う先輩は、またびっくりさせようと考えてるみたいだ。


「松浜せんぱい」

「ん」

「ルティちゃんのこと、どう思います?」

「どう思うって、なぁ」


 こそっと有楽に言われて、キラキラとした目で先輩を見上げているルティを見やる。


「本人の言うとおりじゃねえのか」

「ですよねぇ」


 言いながら首をかしげると、有楽もうなりながら首をひねった。

 まだ小学生だった頃、江戸時代から現代日本にタイムスリップした侍のドラマを見たことがあるけど、それ以上にピュアなルティの反応を見てると信じるしかなくなってきた。

 ……ああ、『ピュアな反応』といえば、


「ほぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」


 エレベーターが上へ昇るときの感覚で、めちゃくちゃ可愛い反応をしていたのもまたピュアだった。


『20階です』

「はいっ、着きました」

「な、なんなのだ、この箱は」

「ここに住んでいる人を、それぞれの階に運んでくれる機械ですよ」

「機械ですと……ここは、機械と魔術が入り乱れる世界なのですか」


 降りてからも震えてしがみつき続けるルティの頭を、赤坂先輩は落ち着かせるように優しく撫でる。有楽も近づいて、反対側をちょいちょいと撫でていた。


「あとはちょっと階段を上がれば、屋上ですからね」

「そんな馬鹿な」

「本当ですよ」

「ほんとだよー」

「むぅ」

「まあまあ、行けばわかるから……って、なんで両手を頭にのっけてるんだ」

「サスケも、我の頭を撫でるつもりなのだろう」

「やらないやらない」


 手をぱたぱたさせて否定しても、ルティはじとーっとした目つきで手をどかそうとはしなかった。まったく、出会って間もない女の子にそんなことをする度胸なんてないのに。

 結局、ルティは赤坂先輩と有楽の間で手を繋いで階段を上り始めたけど、それでもやっぱり不安そうにあたりをキョロキョロと見回していた。


「じゃあ、行くわね」


 階段を上りきったところで、先輩がまたカードキーを取り出す。それをパネルにかざせばドアが開くのはエントランスと同じだけど、こっちは自動ドアじゃなくてドアノブを回して開ける方式。その向こうは、一面が夜の闇に包まれている……ってわけじゃなく、植物が植えられた庭園の中心にある灯りが、ほんのりとあたりを照らしていた。

 屋上の(へり)は高いフェンスで囲われているし、夜でも歩きやすいように作られているらしい。


「ここだ」


 相変わらずあたりをキョロキョロと見ていたルティが、ぽつりとつぶやく。


「確かに、我はここに降り立ったのだ」


 そのままふらふらと灯りの中を歩いていくと、その先に縁とは違ってさらに頑丈なフェンスで囲まれている場所があって、


「あ、あの、ルティさん。なんでそっちに行くんですか?」

「友が、そこで待っているのです」


 その向こうは「わかばシティFM」の電波送信用の施設のはず。

 今でこそ夜の暗がりで見えにくくなってはいるけど、フェンスで囲われている上に建物自体も鍵がかかっていて、さらに建物の上に昇ってフェンスの鍵を開けないと送信塔には行けないようになっているんだけど……


「ピピナ」

「…………」

「ピピナ、我が戻ってきたぞ」

「ルティ、さま?」


 暗がりの向こうから聞こえてきたのは、とても小さな声。


「土産を持って来たぞ。こっちへ来るといい」

「おみやげですかっ!?」


 その声が、いきなり俺たちがいるほうに近づいてくる。いや、もしそこに誰かいたとしても、フェンスから出られるわけが――


「ほらっ、パンだ」

「パンっ! パンですっ!」


 って、なんでルティのそばから聞こえてくる!?


「今、用意するからな」

「はいですっ!」


 子供っぽい女の子の声『だけ』は聞こえてくるけど、その姿は見えない。でも、ルティのそばにいるのは確かみたいだから、


「きゃあっ!」


 スマートフォンの電源ボタンを押して、バックライトを懐中電灯代わりに照らしてみたら、


「はあっ!?」

「えっ、ええっ!?」

「かっ、かわいいっ!」


 てのひらサイズぐらいで青い髪の女の子が、透き通る羽をぱたつかせながら宙に浮かんでいた。


「これって……妖精?」

「なにするですか、このぶれーもの!」

「あいたっ!?」


 って、羽でローリングビンタ!?


「いきなりぴかっとしたとおもったら『これ』あつかいだなんて、ぶれーにもほどがあるですよ!」

「いやいや、なんだよお前! いきなりビンタとか!」

「落ち着いてくれ、ピピナ! サスケも、申し訳ない」


 ぷんすか怒ってる妖精もどきとにらみ合おうとしたら、ルティが必死になって割り込んでくる。じゃあ、ルティの言う「友」ってのは、まさか……


「なんなんですか、ルティさま。こんなおばかなニンゲンをつれてくるなんて」

「お馬鹿だなんて言うのではない。彼は、我の恩人なのだ」

「おんじん?」


 ルティの言葉に、妖精もどきが疑わしそうにジロジロと俺を見る。


「はんっ」

「やんのかコラ、このチビ」

「おうおう、やるよーいはできてるですよっ」

「やめいっ! やーめーれっ!」


 必死で止めようとするけど、ルティさんよ、鼻で笑われりゃ宣戦布告もんだよ?


「説明っ! ちゃんと説明するからっ!」

「わ、わかったよ」

「んー、わかったです」


 涙目のルティに言われちゃ、さすがに止めざるをえない。目の端っこで見えてるヤツのあかんべーは気にしない。うん、気にしないぞ。

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