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異世界ラジオのつくりかた ~千客万来放送局~【改稿版】  作者: 南澤まひろ
第5章 異世界ラジオのひろめかた、ふたたび
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第118話 異世界ラジオのしらべかた③

「母様、リリナから聞かなかったのですか。ラジオをやっている最中は、緊急時でもない限りは突拍子もなく外部の特定個人へ呼びかけてはいけないと」

「そ、それは聞いてたわよ。でも、ちょ~っぴり気持ちがたかぶっちゃって……」

「聞いていたんですね?」

「……えっと」

「聞いていたんですね?」

「……はい」

「聞いていたのに、あのようにはしゃいでしまったのですか」

「……はい」

「はぁ……母様、くれぐれも遵守していただきますようお願いします。多くの人たちが〈らじお〉を耳にする以上、いただいたお便りを読んだり話の流れで出てきたりでもしない限りは『どうしてその人が呼ばれたんだ?』と引っかかりを覚える人も出てきかねないのですから」

「……ごめんなさい」


 紅い皇服に着替えたルティの目の前で、サジェーナ様が見下ろされるようにしてカーペットの上で正座している。後ろ姿でルティの表情までは見えていないけど、硬い声色からして相当怒っているっぽい。


「ルティちゃんって、あんな風に怒るんだ」

「ボク、ルティが怒るのって初めて見たかも」

「今日の視察、ルティがすっごく気合を入れてましたからねー……」


 早朝散歩で俺と番組をやるって言い出して、あれよあれよという間に流味亭での潜入視察の段取りを整えて変装までしていたんだから、こっちまでやる気にさせてくれる気合いの入りようだった。

 俺と同じようにやつあたり気味なところはあるかもしれないけど、そうでもしないと怒りのやり場がないんだろう。


「それでは復唱してください。『今後二度と、はしゃいで特定個人へ呼びかけたりしません』」

「えっと……『今後二度と、はしゃいで特定個人へ呼びかけたりしません』っ!」

「本当ですか?」

「本当です!」

「大地の精霊様に誓いますか?」

「はいっ、ミイナにしっかり誓います!」

「ボクに誓われても困るんだけど?」


 いきなり話題に出されたからか、困惑しているミイナさん。ピピナとリリナさんも受け継いでいる長い耳と透明な羽がへにょんとたれてるのを見ると、本気で戸惑っているらしい。


「では、今後はこのようなことがないようにお願いいたします」

「わかったわ。明日のお昼はおとなしくこっそりと流味亭に――」

「か、あ、さ、ま?」

「じょじょじょじょ冗談よっ! 邪魔しませんっ! 時計塔でおとなしくしてますっ!」


 ルティがずいっと前屈みになりながら、今まで聞いたことがないくらいドスの利いた声でサジェーナ様へ釘を刺した。後ろ姿で顔は見えなくても、この声だけでとんでもなく怒ってることはひしひしと伝わってくる。


「〈らじお〉に出るなとまでは言いません。ですが、今後はあのようなことは謹んでください」

「わかりました……はぁ~。でも、まさかルティがこんなに主張するようになるなんて、お母さんとってもうれしいわ~」

「なっ!? か、母様っ!?」


 しゅんとなって答えたと思った瞬間、サジェーナ様はがばっと立ち上がるとルティのことを思いっきり抱きしめてすりすりとほおずりしだした。


「まことにわかっているのですかっ!?」

「大丈夫よ、ルティが嫌がることはしないから。それ以上に、引っ込み思案だったルティがこういう風に主張してくれるのが、もーうれしくてうれしくて!」

「むぅぅぅぅぅぅぅ!?」

「ジェナ、ジェナ。それ以上やるとルティちゃんが窒息するわよー」

「いくらその洗濯板でも、やっぱり強く抱きしめないほうがいいんじゃないかな」

「なっ、誰が洗濯板よっ!」

「我は洗濯板ではありませぬ!」

「ルティには言ってないよ?」


 しれっと爆弾をぶっ込んでくるのはやめてください、ミイナさん。ああでも、そう言われてみると……確かに親子だね。うん。フィルミアさんも含めて。


「まあ、これで一件落着ってことでいいよね。サスケもルティも」

「ええ、俺のほうは大丈夫です」

「母様がちゃんとわかっているのであれば、我も大丈夫なのですが……」

「その点については、ほんとーに深く反省してます」

「む、むぅ……母様ってば、そうやってごまかしてもだめですからねっ」


 腕の中から抜けだそうとしたルティをしっかりと捕まえて、ルティの身体をくるりと反転させたサジェーナ様が背中越しにぎゅーっと抱きしめる。むくれてみせるルティではあるけれども、顔が真っ赤なあたり満更でもなさそうだ。


「それじゃあ、3人とも入っておいで」

「は、はい~」

「あの、エルティシア様。大丈夫ですか?」

「さすけ、もうおこってないですか?」


 ミイナさんが入口のほうに声をかけると、ドアが開いてフィルミアさんと執事服姿のリリナさん、そしてお留守番をしていたメイド服姿のピピナが入ってきた。

 有楽と赤坂先輩、それに中瀬の姿がないのはスタジオで次の番組をやってるからか。


「ああ、もう怒ってないよ」

「それならよかったです」

「我も一応はな。明日もあるからそこで挽回できるであろうし、今日も少しは〈らじお〉がどう聴かれているかを垣間見ることができた」

「ならばよいのですが。チホ様と母上の行き先を存じておりましたので、サジェーナ様がはしゃいだ時にはさすがに驚きました」

「まあ、今回限りと約束していただいたし心配はなかろう」

「約束したわよー」

「はあ……サジェーナ様は、まことにお変わりないのですね」


 仕方ないなとばかりに、リリナさんがため息をつく。フリーダムなミイナさんとサジェーナ様が相手じゃ、生真面目なリリナさんだと手に余るんだろう。


「サスケさんも、ルティのお手伝いをありがとうございました~。少しは様子が見られたということですけれども、お店はどのような感じでしたか~?」

「お客さんたちみんな、フィルミアさんとリリナさんの声が聴こえてきたとたんにラジオに興味を向けてましたよ。ふたりの声があの時間になじんできているみたいです」

「まあ~……わたしとリリナちゃんの声がなじんできましたか~」

「サスケ殿。その、私の声は客人たちにどうとらえられていたのでしょうか?」


 頬に手をあてて、うれしそうに笑うフィルミアさん。その一方で、リリナさんは少し心配そうに俺へとたずねてきた。


「そのまま伝えてもいいですか?」

「ぜひとも」


 真剣な瞳を向けて大きくうなずくってことは、今の自分の声がどう聴こえているのか気になるんだろう。だったら、包み隠さず正直に言おう。


「この間までと今のギャップ……えっと、印象の差が激しくて、なかなかリリナさんだってわからない人もいましたね」

「ううっ」

「でも、ゆったりとしたフィルミアさんのトークとリリナさんのやわらかいトークが合わさってるってなかなか好評でした。なあ、ルティ」

「うむ。リリナの声だとわからなかった客人へそなたの声だと嬉々として教えていた客人も見られたし、好ましい印象を抱かれているのは間違いない」

「まことですか!」

「だからいったじゃないですか。いまのねーさまは、とってもやさしーってピピナもわかってるですよ」

「そうか……よかったぁ」

「前のリリナからは考えられない喜びかただね」


 ほっと胸をなで下ろすリリナさんへ、母親であるミイナさんがからかうように声をかける。でも、リリナさんはやわらかい表情のままミイナさんのほうを向くとにっこり笑ってみせて、


「以前の私は、自らにも他人にも厳しく律することを強いておりました。それが全て間違いだったとまでは言いませんが、ピピナやエルティシア様を始めとして多くの方へ負担をかけていたのは事実。近頃は心を穏やかにするよう務めていたとはいえ、その心がけが街の方々へと伝わっているのかが心配だったのです」

「リリナってば、やりすぎなぐらいに従者の道を突っ走ってたからねー。でも、その心境に至ったならもう安心してもいいかな」

「ええ。皆様といっしょに〈らじお〉に携わることで、私も自信を持つことができました」


 ミイナさんの安心したような言葉にも、今のリリナさんならではの凛々しさと優しさを兼ね備えた笑顔で素直に応えていた。


「まあ、もっともっとがんばりな。ボクもリリナとピピナの〈らじお〉を楽しみにしてるから」

「はいっ。皆様といっしょに精進いたします」

「ピピナも、ねーさまとみんなとがんばるですよっ!」

「珍しいわね。ミイナがお母さん風を吹かせるなんて」

「うるさいなぁ。娘にべったり抱きついてるジェナに言われたくないよ」

「これもひとつの親子のありかたよー」

「か、母様。だからほおずりはやめてくださいっ」

「ふふふっ。ふたりとも、母親になっても相変わらずなんだから」


 リリナさんとミイナさん、そしてルティとサジェーナ様のやりとりを見ていた母さんがからからと笑いながら感想をぽつりともらす。

 ある程度距離を取ってるミイナさんと、スキンシップが大好きなサジェーナさん。母さんの場合は、どっちかというとふたりをミックスさせたような感じか。

 この3人がラジオ番組を持ったら面白そう……なんて一瞬口から出かかったけど、それこそやりたい放題になりそうだ。うん、ここは飲み込んでおこう。で、代わりといっちゃなんだけど、


「あの、サジェーナ様。初めてラジオでしゃべってみてどうでした?」


 初めてスタジオでしゃべったサジェーナ様へ、番組に出た感想を聞いてみることにした。


「最初はしゃべってることがちゃんと伝わっているのかよくわからなくて、どこまで話していいのか手探りだったかな。でも、ミアとリリナちゃんが導いてくれたおかげで最後まで楽しく話せたわ。サスケくんとルティは、わたしの〈らじお〉を聴いてみてどうだった?」

「俺も、最初っから楽しそうだってのが伝わってきました」

(わたくし)は、このようにはしゃぐ母様の声を初めて耳にいたしました。中央都市での演説などで聞く母様の声はよく通り、まっすぐなものでしたから……やはり、故郷へ帰ってきたからですか?」

「それもあるけど、ただの雑談じゃないのも大きかったわね。ミアもリリナちゃんも聴いてくれている人を意識していたみたいで、最近の街のこととか新しいお店のことまでいろんな話題を振ってくれるから、最後まで楽しくお話できたの」

「そう言っていただけて、わたしも安心しました~」

「身に余る光栄です」


 満足そうなサジェーナ様の姿に、フィルミアさんとリリナさんもほっとした様子。もしトーク番組をやるとしたら、やっぱりこのふたりに任せたい。


「〈らじお〉でしゃべるのって、なんだかくせになりそうね……みんながのめり込むのも、よーくわかるわ」

「しゃべるだけではなく、今後は音楽の生演奏というのも予定しております。近頃は姉様とピピナとリリナといっしょに、日本で購入した〈りこーだー〉なる縦笛でも練習を重ねておりまして」

「なになになにっ、〈らいぶ〉もするつもりなのっ!?」


 ルティが切り出したとたん、サジェーナ様は目の色を変えて食いついてきた。


「か、母様は〈らいぶ〉をご存知なのですか?」

「ご存知もなにも、ニホンにいたときは〈らじお〉でよく聴いていたもの! そう、ヴィエルでも〈らいぶ〉を……それはとっても楽しみね。娘たちの演奏が聴けるなんて」


 うっとりとしながら、サジェーナ様が何度もこくこくとうなずく。音楽の国の生まれなんだし、その上娘さんたちが演奏するとなれば惹きつけられて当然か。


「こほんっ……他にも、朝は体操の指導をしたり、夕方にはヴィエルであった一日の出来事を報じる〈ばんぐみ〉も予定しております。その間の時間は様々な音楽を流して、あとは時折市役所からの告知を流すくらいでしょうか」

「種類は多くしないの?」

「ルイコ嬢がヴィエルの街を歩いた印象を伝える〈ばんぐみ〉や、アヴィエラ嬢と我らが様々なことを話す〈ばんぐみ〉もございますが、それは六の曜日と零の曜日にそれぞれ流します。始めから数が多すぎては、立ちゆかなくなる恐れもありますので」

「なるほど、まずは地固めからってことね」

「そういうことです。各地へと広めてゆくのは、ここで全て整えてからのほうがよいかと」

「いい判断だと思うわ。ああもうっ、ルティったらすっかり成長しちゃって」

「わわっ!」


 相変わらず後ろからルティに抱きついていたサジェーナ様が、緩めていた腕にほんの少し力を込めてきゅっと抱きしめ直した。逃げようとじたばたするルティではあったけど、逃げるんだったら腕の力が緩んでるうちにやればよかったのに。


「お母様、そろそろその辺で~」

「しょうがないでしょ、娘の成長がすっごくうれしいんだから……えいっ」

「きゃっ!?」


 その上、素早く右手を伸ばして止めようとしたフィルミアさんまで捕獲する始末。一瞬驚いたフィルミアさんは、されるがままにサジェーナ様に肩を抱き寄せられていた。


「ミアもすっかりお姉さんになっちゃって。今度の〈らじお〉は、ルティとミアといっしょに出ようかしら」

「よいのですか?」

「〈らじお〉の楽しみを思い出させてくれた娘たちといっしょに〈らじお〉でしゃべるなんて、とっても素敵じゃない。わたしのほうからお願いしたいぐらいよ」

「お母様~……では、ニホンへ向かう前に一度いっしょにやりましょうか~!」

「私も、ぜひ母様と〈ばんぐみ〉をやってみたいです!」

「じゃあ決まりねっ!」


 よほどうれしいのか、笑顔のサジェーナ様がさらにふたりをぎゅーっと抱き寄せていく。ついさっきまでは困惑してたルティとフィルミアさんもうれしそうに笑っているあたり、やっぱりお母さんのことが大好きなんだろう。


「チホ、ミイナ。その次はあなたたちともいっしょにやるわよ!」

「えっ? あ、あたしはいいわよ! あたしは聴くほう専門だから!」

「ボクも別にいいや。しゃべるのはジェナたちに任せるよ」

「えー、つまんないのー」


 あてが外れたって感じで口をとがらせて、きょろきょろとまわりを見回すサジェーナ様。


「あ」

「えっ」


 って、あのー……サジェーナ様?

 どうして、俺のことを見たまま固まってるんですか?


「んっふっふー」


 それと、どうしてにんまりと笑ってるんですか?


「ねえ、サスケくん」

「えーっと……なんでしょうか?」

「今度、ルティといっしょに〈らじお〉の〈ばんぐみ〉を作るのよね?」

「は、はあ。確かにいろいろと計画してますけど」

「だったら」


 両手をぽんって合わせたこの国の王妃様兼、ルティのお母さんは、


「今度、わたしもルティとの練習に混ぜてくれないかしら」

「はいっ!?」

「か、母様っ!?」

「サスケさんなら、きっと頼りになるでしょうね~」

「ええ。きっとよき練習相手になってくださることでしょう」

「「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?」」


 初代パーソナリティのフィルミアさんとリリナさんを味方につけて、さらりと俺たちにとんでもない提案をぶつけてきた。

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