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異世界ラジオのつくりかた ~千客万来放送局~【改稿版】  作者: 南澤まひろ
第5章 異世界ラジオのひろめかた、ふたたび
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第107話 異世界でのすごしかた②

「それにしても」


 それ以上追求するのはやめたらしいサジェーナ様が、またラジオの方に目を向ける。


「こうして聴くと本物の〈らじお〉としか思えないけど……これも、ニホンでずっと練習していたの?」

「にほんでもれんしゅーしてましたし、こっちでもいっぱいれんしゅーしてたです。さすけがくれた〈らじお〉をほーそーするきかいをつかって、ピピナとリリナねーさまと、ルティさまとミアさまでまいにちそうだんしながらやってたですよ」

「みんなで実際にわかばシティFMとかいろんなラジオ局の番組を聴いて、それをもとにして話し合いながらいろいろ練習してたんです。その結果できたのが、この間サジェーナ様とミイナさんも聴いたあの番組で」

「なるほど、こっちでもニホンでもしっかり勉強してたと」

「あたしたちと遊びながら、いっしょに勉強してたって感じでしたよねー」

「私も、るぅさんたちと遊びながらラジオのいろんなことを知ることができました」


 俺とサジェーナ様の受け答えを補うように、有楽と中瀬が言葉を繋ぐ。

 実際、このふたりは用事がなければよくうちへ遊びに来たり泊まりに来たりしていたし、馬場のじいさんの無電源ラジオ制作講座とか、山木さんのアナウンス講座とかもいっしょに受けたりしていた。


「こちらでの練習では、サスケさんが〈そうしんきっと〉の使い方をルティとピピナちゃんにしっかり教えてくださったおかげで、わたしもリリナちゃんもすぐに扱うことができたんですよ~」

「あんな小さな機械がねぇ……わたしがニホンにいたときにその機械のことを知ったら、きっとみんなと同じようにのめり込んでいたでしょうね」

「つかいかたもかんたんですから、たくさんしゃべりたくなるですよ。ねーさまとおしゃべりしたことが、つぎのひにはいちばのおみせやさんにつたわったりしてて」

「わたしも、リリナちゃんと練習しながらしゃべっていてとても楽しいです~。音楽学校でのお話をしたり、わたしたちの好きな曲について話したりして、それを聴いてくださった方々とも学校でのお話が広がって……サスケさんとカナさんにルイコさんが、楽しんでしゃべっているお気持ちがよくわかりました~」


 声を弾ませたピピナとフィルミアさんが、くすりと笑っていたサジェーナ様へ応えてみせる。

 物見やぐらで受信実験をしたときのように、フィルミアさんとリリナさんは不定期で練習を兼ねた試験放送を行っているらしい。それはピピナもいっしょで、時間に余裕ができたときにはリリナさんとその日あった出来事や雑談を5分から10分ぐらい放送しているそうだ。


「だからといって、フィルミア自身の志学期のことは忘れちゃダメよ?」

「もちろん心得ています~。わたしとしても〈らじお〉を活かして、志学期で得たことを広めていこうかと~」

「……? どういうこと?」

「志学期を発表する場は、中央都市の議場ですよね~。でも、そこでわたしが演奏したり歌ったりしても、席は3000人ぶんぐらいしかありません~。ですので〈らじお〉を通じて街の人たちにも、そして国中の人たちにも聴いていただければと思いまして~」

「まさか、それって〈らじお〉を通じて演奏するっていうこと!?」

「その通りです~。なので、わたしもルティの〈らじおきょく〉づくりをめいっぱいお手伝いしますよ~」


 フィルミアさんはにっこりと笑うと、胸元できゅっと握りこぶしを作りながら宣言してみせた。

 いつものんびりな口調だからおっとりとしたイメージがあるけど、リリナさんの手で投獄されたときに、見ず知らずな俺のところへ真っ先に会いに来たり、有楽の代打でルティといっしょに赤坂先輩のラジオで手伝ってくれたりととても行動力がある人だし、それに――


「大丈夫なの? その、誰ともわからない人たちにも演奏を聴かせたりして」

「大丈夫ですってば~。〈わかばしてぃえふえむ〉を通じて、たくさんの方へ向けて歌を披露したことだってありましたから~」

「な、なにそれっ!? わたし、初耳よ!?」


 突然の暴露に、目を丸くするサジェーナ様。そうそう、赤坂先輩のお誘いでフィルミアさんの歌を流したりもしたっけ。

 あの時はずいぶん恥ずかしがっていたけれども、今はこうして自信ありげに宣言してみせるぐらいにアグレッシブな面を見せてくれるようになった。


「……そこまで意気込みを見せられたら、わたしも期待するしかないじゃない」

「ありがとうございます~」

「で、ミア。そのニホンで歌ったっていう歌はなんなの? それって、もしかしてニホンに行ったら聴けるの?」

「ジェナさん、ジェナさん。そんなに慌てなくても、あたしが持ってますよ」

「えっ」

「俺もあります」

「私もいただきました」


 身を乗り出すサジェーナ様へと緑色のスマートフォンを差し出した有楽に続いて、俺と中瀬も青と黒のスマートフォンを差し出してみせる。


「ど、どうしてあなたたちがその歌を持ってるわけ!?」

「あのっ、その前にっ、どうしてわたしの姿が〈すまーとふぉん〉に映っているんですか~!?」


 揃って差し出した3台のスマートフォンの画面には、フィルミアさんが歌っている姿がアートワークとして映し出された音楽プレーヤーが。おお、サジェーナ様もフィルミアさんもさすが親子なだけあって、慌てた姿がそっくりだ。


「いえ、元々は赤坂先輩が録ってたんで欲しいってお願いしたら、こうして見事に加工したのを渡してくれまして」

「あたしもおねだりしたら、どんどん広めてーって」

「ルイコさんってば~……」

「私は、とてもきれいで美しいと思います」


 さっきの堂々とした意気込みはどこへやら、またまた顔を真っ赤にしたフィルミアさんがしゅんとしぼんだ。それでも中瀬の言うとおり、青空を背にしながら両手を広げて歌ってる姿がとても美しいのには変わりない。


「……その〈デンワ〉で聴けるなんて、本当に不思議よね」

「それもそーですけど、るいこおねーさんがもっているおんがくをならすきかいをつかって、しけんほーそーでながしたりもしてるですよ」

「フィルミアの歌が? ヴィエル中に?」

「まだ無電源ラジオの在庫がないんで市役所と市場や飲食店ぐらいですけど、ちゃんと聴こえてるみたいです」

「このあいだお買い物をしていたら、店のお子さんたちに歌をおねだりされたなんてこともありまして~」

「それって、わたしがヴィエルにいる間に〈らじお〉で聴けたりする?」

「えっと、今聴かなくてもいいんですか?」

「もうすぐルティたちの〈ばんぐみ〉が始まるんでしょう。それに、〈らじお〉で流れたのならやっぱり〈らじお〉で聴いてみたいじゃない」


 不思議そうな表情を浮かべていたサジェーナ様が、片目をぱちりとつむると楽しみそうに微笑んでみせた。そういえば、ルティも同じようなことを言っていたことがあったな。


「では、次は明後日に試験放送を行う予定なので、そのときにでも流しましょうか~」

「頼んだわよ。あと、その〈シャシン〉も残っててたりするのかしら」

「えっと、赤坂先輩がまだ持ってるはずです。言えば、たぶん分けてもらえると思いますよ」

「いい情報をありがとう。……ルイコちゃんから買って、ラフィアスや子供たちにも見せてあげなくちゃ」

「お母様っ!?」

「だって、とてもいい〈シャシン〉じゃないの。手元に置いておきたいぐらい」

「そ……そう言われたら、何も言えないじゃないですか~……」

「もう。フィルミアったら、〈らじお〉や歌のことだと自信満々なのに、こういうことに関してはほんとに相変わらずよね」


 照れるフィルミアさんの顔を抱き寄せて、ぽふぽふと頭を軽くなでるサジェーナ様。それに抵抗することなく、フィルミアさんも頬を寄せてサジェーナ様の肩へと身を委ねていた。

 それから間もなく、無電源ラジオのスピーカーからハンドベルのような甲高い鐘の音がからんからんと響きだした。普段は朝夕の6時と昼の12時にしか鳴らない時計塔の鐘を、ルティが自らICレコーダーを使って時報用に録音・加工したもので、ステレオ録音な上にFMラジオなだけあって、音質もかなりいい。


「ほら、フィルミア。そろそろ始まるわよ」

「は、はい~」


 言われてはっとしたように、フィルミアさんが背筋をぴんと伸ばして女の子座りをしてみせる。ほんのちょっと顔が赤いのは、ご愛嬌ってことにしておこう。


『午前10時をまわりました。この時間からはリリナ・リーナさんに代わって、日本という国からやってきましたわたし、赤坂瑠依子がふたりのお客様を迎えておしゃべりしていまいります』

「ん?」


 さっきリリナさんがアナウンスした順番だと、ルティがメインで進めるはずなんだけど……朝に見せてくれた台本も、そうなっていたよな?


『それでは、早速ふたりのお客様をご紹介いたしましょう。まずはレンディアール国の第5王女であらせられます、エルティシア・ライナ=ディ・レンディアールさん』

『え、エルティシア・ライナ=ディ・レンディアールだ。……よ、よりょしくたのみましゅ……あう』

「……あー」


 赤坂先輩のやわらかい声からルティのガチガチな声へと移り変わった瞬間に、さっき抱いた疑問が一気にして解けた。

 あいつ、思いっきり緊張してるな……しかも、思いっきり噛んでるし。


『続いては、イロウナ商業会館の会長を務めておられるアヴィエラ・ミルヴェーダさんです』

『えっと、あの……あ、アヴィエラ・ミルヴェーダだ。よ、よろしく?』


 そして、ここにもド緊張してる人がまたひとり。

 なんだか、一気に大丈夫なのか心配になってきたぞ……


『今日はヴィエルの街をよく知り尽くしているふたりをお迎えして、事前に飲食店街で集めた街のみなさんがおすすめのお店について話していきたいと思います』

『な、なあ、ルイコ。これってもう聴こえてるのか?』

『はい。ラジオの受信機を持っている方ならもう聴こえているはずですよ』

『うわ、うわっ、マジか……もう聴こえてるのか』

『あ、慌ててはダメです、アヴィエラ嬢。こういうときは深呼吸をして息を整えて……』


 大慌てなアヴィエラさんを、詰まり気味な言葉でなだめようとするルティ。次の瞬間、深呼吸をしているような息づかいが思いっきり聴こえてきて――


『えっと、今はエルティシアさんもアヴィエラさんも深呼吸中なので、もう少々お待ち下さいね』

『……ィシア様、……ィエラ様、お水を……したので、一度飲んで……』


 取り繕うような赤坂先輩と、リリナさんのものらしいささやきまでがスピーカーから聴こえてきた。


「ルティちゃん、ガチガチですね……」

「アヴィエラおねーさんもです……」


 いつも堂々としているルティと覇気にあふれたアヴィエラさんの声はすっかり萎縮していて、それを聴いた有楽とピピナも衝撃を受けていたように呆然としている。


「やはり、いきなり生放送へ放り込むというのはいかがなものかと」

「ルティは経験もあるし、先輩がいるから大丈夫と思ったんだけどなぁ……」

「それはある程度慣れた日本での話です。レンディアールでは初めてのラジオなのに、それを加味しなかった松浜くんのミスでしょう」

「……さすがにぐうの音も出ねぇ」


 言われてみればレンディアールでは初めの生放送なんだし、前にもルティの課題は生放送ってわかってたんだから、いきなりセッティングした俺のミスと言われても仕方ない。

 放送前にも忠告してくれていた中瀬からのド正論に、何も言い返すことができなかった。


「いいわねぇ、初々しいルティもヴィラちゃんも」

「本当ですね~」


 サジェーナ様とフィルミアさんはほのぼのしながら聴いてくれてるけど……こりゃあ、なんとかしないといけないな。

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