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異世界ラジオのつくりかた ~千客万来放送局~【改稿版】  作者: 南澤まひろ
第4章 異世界ラジオのまなびかた、ふたたび
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第102話 異世界からのおくりもの①

「へえ、ここが〈らじおきょく〉なんだね」

「前に来たときはなかったけど……それだけ時が流れたってことなんでしょうね」


 夕暮れで染まったラジオ局の前に立つ、水色の髪の女の子と長い銀髪の女性。

 ふたりはガラス越しに見えるわかばシティFMのスタジオを眺めながら、ぽつりと言葉をこぼした。


「それはそうよ。ここができたのは18年前だから」

「18年……それじゃあ、ボクたちが知らないはずだ」

「わたしたちが来たの、その倍以上も前だもの」


 ふたりのかたわらに立つ母さんも加わって、3人で懐かしそうに笑いながら言葉を交わす。


「……やっぱりあれだ。チホさんってサスケによく似てるよな」

「どういう意味ですか」

「メガネをかけた姿がさ。王妃様とミイナ様がエルティシア様とピピナちゃんに似てるからかもしれないけど」

「ああ、そういう意味でなら……まあ」


 もし『性格的に似ている』とかアヴィエラさんから言われたら、そこのベンチに頭を打ち付けるところでしたよ。

 確かに、王妃様――サジェーナさんとミイナさんの姿はルティとピピナにそっくりだ。もちろんフィルミアさんとリリナさんとも似ているんだけど、凛とした雰囲気やいつも楽しそうに笑みを浮かべているところはルティとピピナに色濃く受け継がれている。

 それでもって、その娘さんふたりはというと、


「…………」

「がたがたがたがたぶるぶるぶるぶる」


 ルティは緊張で顔を強張らせて、お子様サイズなピピナはなぜかその後ろに隠れて、ガタガタと震えていた。


「なにもそこまで緊張しなくても」

「し、仕方ないではないか。我が初めて〈らじお〉に出た場へと連れてこられたのだぞ……」

「かーさま、ちょっとまえのこととかけはいでわかるですよ。きっとこのあいだのばんぐみのことだって」

「おいおい、そんなわけ――」

「ミイナ、ふたりは本当にここで仕事をしてたの?」

「間違いないよ。右側の席にルティとサスケくんがいて、左側の席の奥にピピナが座った気配がある」

「へえ、そんな感じで座ってしゃべってたのね」

「えー……」


 冗談だろ、と続けようとしたところでのミイナさんの発言に、思わず情けない声が出てくる。そういや、リリナさんも初めてこっちに来たとき俺の気配を察知してたし、ミイナさんもそうやってうちの店へ来たんだっけか……恐るべし、妖精さん一族。


「いつもどおりでいればいいんですよ~」

「左様です。ピピナ、もっと胸を張っていいのだぞ」

「しかし」

「でもー」


 フィルミアさんとリリナさんが、それぞれ自分の妹たちをなだめる。

 このあたりはやっぱりふたりのお姉さんだからなんだろうけど、ルティとピピナが緊張する気持ちもわからなくはない。自分が仕事していた場所を見られるなんて、授業参観にも等しいだろうし。


 昨日の放送から明けて、今は月曜日の夕方。突然やってきたサジェーナ様とミイナ様を連れて、俺たちはみんなでわかばシティFMの前へと来ていた。

 サジェーナ様は青いワンピースに白いカーディガンを羽織って、ミイナさんは黒地に青や赤でペイントされた半袖のTシャツの上にオーバーオール姿。耳も精霊さんの力で丸く見せかけて羽も隠してるから、ふたりとも外国人にしか見えないんだけど……ミイナさんだけは、どう見ても俺たちと同年代かちょっと下ぐらい。もっと言ってしまえば、リリナさんよりも子供っぽく見える。


「シローやチホから話に聞いていたけど、〈らじお〉ってこういうところから伝えてるんだね」

「そっか……ルティたちは、こういう場所をヴィエルに作ろうとしてるのね」


 その上、サジェーナ様も興味津々って感じでスタジオを眺めている。まさか、レンディアールの王妃様と精霊さんがラジオ局の見学に来るだなんてなぁ……

 あまりにも突然な出来事に、俺は昨日の真夜中にあったことをふと思い出していた。


 *    *    *


「それでは、あたしたちの娘、息子やその仲間たちのラジオ番組の始まりと」

「わたしたちとチホとの再会を祝して」

「かんぱーいっ」

「「「かんぱーい!!」」」


 リビング脇のダイニングで、麦茶が入ったコップで乾杯する3人の女性。

 ひとりは、我が母親で薄橙色のパジャマ姿な松浜智穂。

 もうひとりは、肩まである銀髪と赤い瞳が特徴的なドレス姿の女の人。

 さらにもうひとりは、長い水色の髪の先を緑色のリボンで結んで、透明な羽をはためかせている妖精さん。


「はー……」

「な……なんか、とってもなじんでますよね……?」


 そんな3人が無邪気にはしゃぐ姿を、俺と有楽は麦茶のコップを手にしたまま呆然と見守っていた。


「お母様が、なぜチホさんと……?」

「さ、サスケよ。そなたは母様とチホ嬢が顔見知りだと知っていたのか?」

「知らないって。俺もたった今知ったんだから」


 レンディアールの王女様姉妹もうろたえ気味で、隣のルティに至っては俺の手をくいくいと引っ張ってまでこそこそたずねてくる始末。


「でも、とってもなかよしさんですよね。ねーさまはしってたですか?」

「私も聞いたことはないな……サジェーナ様は、25年ぶりの再会と仰っていたが」

「25年となると、こっちじゃピピナちゃんとリリナちゃんぐらいしか生まれてないよなぁ」


 精霊さんの娘さんたちなピピナとリリナさんも、ただただ困惑するばかり。アヴィエラさんが言うとおり、俺らが生まれるよりずっと前の出来事なんだろうけど……


「なんとかわいらしくてきれいな方々……撮影です、撮影しましょう」

「はっ! あ、あたしも。あたしも撮影しますっ!」

「おいコラ」


 魅入られたように、テーブルの上へコップを置いた中瀬が代わりにスマートフォンを手にしてふらふらとダイニングへ向かう。それを追うように、有楽もパジャマのポケットから小さなデジカメを取り出してダイニングへ向かった。


「あいつらったら、まったく……」

「でも、ふたりとも本当にきれいよね」

「まあ、それは確かに」


 赤坂先輩が言うとおり、ふたりともきれいだしかわいらしいのも確かだ。

 ルティとフィルミアさんゆずりの銀髪を肩まで伸ばしている王妃様は、白地にオレンジ色の生地をポイントとしてあしらったドレス姿。背も俺より少し小さいくらいで、すらっとした姿からは気品を感じる。

 もう一方の精霊さんはピピナとリリナさんの真ん中ぐらいの背格好で、腰まで届く水色の髪を引き立たせるような青いドレスを身にまとっている。背中の羽もふたりのお母さんらしく、ひとまわり大きめに見えた。

 それだけに、手にしている麦茶のコップがどうにもミスマッチで。


「久しぶりだね、こっちの〈ムギチャ〉を飲むのも」

「わたしも。向こうでも研究してるけど、なかなかこの深みが出せなくて」

「ジェナも相変わらずね。やっぱり研究三昧?」

「研究だけじゃないわよ。ちゃんと料理とかもしてるし」

「農作業もだよ」


 交わす会話も、現実離れした容姿からは想像もつかないぐらい俗っぽいものだった。


「すいません、こちらに目線をいただけますか?」

「あれっ、もしかして〈かめら〉かな?」

「カメラと電話が合体したようなものです」

「〈デンワ〉と合体……こっちの世界の人たちは、相変わらず変わったものをつくるわね」

「はーいっ、わらってくださーい」

「いぇい」

「ぶいっ」

「ぴーすっ」


 その上ポーズまで手慣れてるし! この人たち、やっぱりこっちに来たことがあるよ!


「ありがとうございます、ありがとうございます」

「あの、よかったら撮ったのを見てみますか?」

「そんなこともできるの?」

「はい、こんな感じに」

「どれどれ……わっ、ボクたちがいるよ!」

「本当、チホもミイナもわたしも描かれてる」


 中瀬が差し出したスマートフォンを、王妃様と精霊さんが揃ってのぞき込む。そのキラキラした目は、やっぱりレンディアール家とリーナ一族なんだなと思える輝きを放っていた。


「ねえねえ海晴ちゃん。今度ケーキをサービスしちゃうから、あとで3人分の写真を印刷してくれない?」

「それはとても魅力的ですが、今回は3人の再会のお祝いということで私から贈らせてください」

「あらまー、うれしいこと言ってくれるわね。こうなったら1週間分サービスしちゃいましょう」

「っ!?」


 珍しく真面目に応対していた中瀬が、母さんからの甘言でこれまた珍しく驚きの表情を浮かべた。でも、今の中瀬の提案はそれに値するぐらいのファインプレーだったと思う。


「〈シャシン〉かあ。チホのお父さんに撮ってもらったの、今でも大事にしてるわよ」

「ボクも。ジェナといっしょに、部屋に飾ってるんだ」

「ありがとう。ジェナ、ミイナ」

「あの、母さん。母さんって、もしかしてレンディアールの王妃様と精霊さんと――」

「昔なじみ、ってとこかな?」


 うわ、この人即答したよ!


「わたしは、レンディアール王妃のサジェーナ・フェリア=ディ・レンディアールです。いつも、娘のフィルミアとエルティシアがお世話になっています」

「ボクは、ミイナ・リーナ。リリナとピピナのお母さんだよ」


 きれいな仕草で、ルティとフィルミアさんのお母さん――サジェーナ様がおじぎをする。その隣に立つピピナとリリナのお母さん――ミイナさんは、なぜかえらそうにえっへんと聞こえそうなぐらい大きめな胸を張ってみせた。


「あの、どうしてお母様とミイナ様はこちらへいらっしゃったのですか~?」

「どうしてもなにも、久しぶりにヴィエルへ里帰りしてみれば時計塔がもぬけの殻なんだもの。ミイナにお願いして探ってもらったら、ここにたどり着いたのよ」

「ピピナとリリナがずいぶん行き来してたからかな。その気配のおかげで、楽に来ることができたよ」


 気配って……と一瞬呆れそうにはなったけど、そういえばリリナさんもピピナの気配を追ってこっちに来たんだっけ。だったら、母親のミイナさんもできておかしくはないか。


「ルティとミアからの手紙でニホンへ行ってたのは知ってたけど、まさかここだったなんてね……ほんと、久しぶりに来たわ」

「それでは、母様もニホンへ来たことが?」

「ええ。ミイナといっしょに、しばらくの間この家へ泊めてもらってたの」

「こ、ここでですか!?」

「そうよ。25年ぐらい前、あたしが高校生のときにジェナとミイナがここに泊まったのよね」

「ヴィエルのリンゴ園が嵐に遭ったとき、ジェナが必死になって覆いをかけようとしたら風に煽られてハシゴから落ちそうになってね。それで助けようと力を使ったら、逆にこっちの街へ落ちちゃって」

「あのときはほんとに驚いたわー。予備校の講習で夜遅く帰ってたときに、いきなり空き地に何かが落ちてきたんだもの。近寄ってみたら、銀髪の女の子と背中に羽を生やした妖精さんでしょ? すぐにお父さん――ああ、佐助のおじいちゃんね。おじいちゃんを呼んで、いっしょにうちへ連れて帰ったの」

「あの時シローおじさまに作っていただいた〈ぐらたん〉の味、今でもよく覚えてるわ」

「久しぶりにシローと会えると思ったんだけどなー。ちょっと残念」


 懐かしそうに言うサジェーナ様と、言葉以上に寂しそうな笑みを浮かべるミイナさん。そのふたりから揃って詩郎じいちゃんの名前が出てきたってことは……本当に、この家に来たことがあるんだ。


「だったら、どうして母さんはルティたちがレンディアールの関係者だって知っても何も言わなかったんだよ」

「昔のジェナは王妃様じゃなくて姓も違うし、ミイナから妖精さんはたくさんいるって聞いてたし……それに、楽しんでる息子たちの間に割り込んむのも無粋じゃない」

「その割には、ずいぶんルティたちと遊んでるよな」

「佐助が学校に行ってる時は、あたしの管轄だもん」

「さすがはチホ」

「うん、あの頃と全然変わってない」


 堂々と言い放つ母さんを見て、サジェーナ様もミイナさんもこくこくとうなずく。うわー、ホントにふたりとも母さんのことをよくわかってるよ。


「だから、チホ様は私とピピナの正体を知って驚かなかったのですね」

「そういうこと。あたしだって、ついさっきまでふたりがミイナの娘さんだなんて知らなかったけどね」

「あの、かーさまとジェナさまはきょうきたんですか?」

「こっちに来たのが夕方前ぐらいだったわね」

「ピピナとリリナの気配を追ったら、懐かしいお店が見えてびっくりしたよ。しかも、中に入ったらあの時よりちょっと大人になったチホがいてさ」

「何気なく入ってくるんだもの。ドアベルが鳴って顔を上げたら懐かしいふたりがいて、夢じゃないかって思ったぐらい。それでみんなのことを話したら、あたしの部屋で待って、放送が終わってからびっくりさせようって話になったってわけ」

「か、母様……まことにお好きですね……」

「ふたりとも、ほんとあいかわらずです……」


 呆れたような、ルティとピピナの言葉。短い言葉なのに、それだけでサジェーナ様とミイナさんの性格がうかがい知れる。


「サスケくん、カナさん、ルイコさん」

「は、はいっ」


 と、サジェーナ様は俺たちの名前を呼ぶと、無邪気な笑顔から一転して優しい微笑みを向けた。

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