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異世界ラジオのつくりかた ~千客万来放送局~【改稿版】  作者: 南澤まひろ
第4章 異世界ラジオのまなびかた、ふたたび
108/170

第100話 0:00 [新]異世界ラジオのつくりかた③

 これまで赤坂先輩の番組でジングルを収録したり、響子さんの番組に生出演したことがあるふたりだけど、今ラジオから流れているのは純粋に俺たちの手で作った番組。それが俺たちだけじゃなく若葉市の、そしてインターネットを通じて日本のどこかで聴いてくれている人たちがいるかもしれないっていうんだから、感慨深いものがあるんだろう。

 俺が初めてわかばシティFMでラジオに出たあと、オンエアしたものを録音で聴いたときもこんな感じだったのを思い出す。


「やっぱり、とっても不思議ですね~。こうしてルティとピピナちゃんが目の前にいるのに、ふたりの声が〈すぴーかー〉から聴こえてくるんですから~」

「フィルミア様もそう思われますか。ここに、来週からは私とフィルミア様の声が加わるかと思うと……緊張と楽しみで、鼓動が高鳴りますね」

「あたしも来週が楽しみだなぁ。大暴れなリリナちゃんも、それをかわいい迫力で止めるフィルミアさんも」


 来週からの出演になるフィルミアさんとリリナさんには、有楽が期待を寄せている。特にリリナさんは有楽に個人レッスンをしてもらっていたり、有楽所有のドラマCDやアニメで勉強していたりとこの番組に対してとても熱心な姿勢を見せていた。

 ……実は有楽がマニア仲間を増やしたいだけじゃないかって疑ったのは、あとで反省しておこう。


「ありがとう、海晴ちゃん。とても自然に仕上がってるよ」

「ホントだね。いいじゃないか、ミハル」

「いえ、まだまだです。でも……褒めてくださって、ありがとうございます」


 それでもって、中瀬は赤坂先輩とアヴィエラさんのお姉さんコンビから声をかけられていた。実際に仕上がりが自然に聴こえてるし、俺たちの演技を活かした効果音をつけてくれている。これでからかったりしたら、バチが当たるぐらいだ。

 少しの間、みんなで雑談しているうちにテーマ曲が終わってBパートへと入っていく。自然と話し声は止んで、聴こえてくるのはルティとピピナがもぐもぐと何かを食べている音。現実での『はまかぜ』から、物語では赤坂先輩の家でふたりが空腹を満たすシーンへと舞台を移していた。

 このあたりも当時の出来事を参考にしながら、ピピナが加わったことでアレンジもほどこされている。


『〈赤坂瑠依子の【若葉の街で会いましょう】。通りすがりの身ではあるが、我、エルティシアが可憐な声に祝福を捧げよう〉』

『〈ピピナは、ピピナ・リーナですっ。ピピナも、おねーさんのこえがだいすきですよっ!〉』

『っ!?』

『ほんとーでした! ピピナとルティさまのこえがきこえてきたですよっ!』

『〈本日最後を彩るジングルは、とても可愛らしい外国人の女の子・エルティシアさんとピピナさんから頂きました。今もスタジオの前で聴いてくれているエルティシアさん、ピピナさん、わたしの声を祝福してくださって、本当にありがとうございます。この祝福、大事にしますね〉』

『なんと……我とピピナの声が聴こえただけではなく、ルイコ嬢から礼を言われたぞ!』

『よかったですね。赤坂せんぱ……えっと、赤坂さんも喜んでましたよ』

『エルティシアさんの声もピピナさんの声も、とてもあたたかかったですからねー』

『ほんとーですかっ? ピピナとルティさまのこえ、あったかいですかっ!?』


 ふたりが食べている最中に差し込まれるスタジオ前の回想シーンなんかも、ちゃんとルティだけじゃなくピピナにも台詞が割り当てられていた。俺たちがやっているラジオのことをたずねたりするときもピピナから問いかけてきたりするし、ふたりで補い合っていく形になっている。

 ラジオのことを、そして日本のことを何も知らないルティとピピナに、俺と有楽が教えていって赤坂先輩が補足していくって段取りだ。


『楽しきものですね、〈らじお〉というのは』

『ええ。ルティさんとピピナさんは、あまりラジオを聴かれないんですか?』

『いえ。(わたくし)の国には、〈らじお〉というものがないのです』

『えっ? ら……ラジオが、ないんですか?』

『そーです。きっと、ピピナたちがいたせかいとこのせかいだといろんなことがちがうんだとおもうですよ』

『いやいや、ちょっと待って。だったら、ルティちゃんとピピナちゃんはどこから来たっていうの?』

『ルイコ嬢たちは〈レンディアール〉という国の名をご存じでしょうか』

『レンディアール……? 聞いたこともないな』

『やっぱりです』


 さすがに当時話したことをそのまま覚えているわけじゃないし、物語を進める都合もあるからいろんな話を削ったり付け加えたりしている。声優やアナウンサー志望っていう現実での有楽と俺の目標を後回しにしてもらって、空いた分をルティとピピナへのラジオの説明やこうしたファンタジー的な会話へとまわされていた。


『我とピピナは、街へと遊びに行こうとしたところで賊に追われてしまってな。すんでのところで、ピピナが操る魔術によってレンディアールからこのニホンへと逃れてきたのだ』

『魔術って、ファンタジーじゃあるまいし』

『〈ふぁんたじー〉……いま、げんそーってばかにしたみたいにいいましたねっ!? じゃあ、ピピナがそのまじゅつをさるすけにみせてあげるですよっ! おいでっ、ぴりぃ!』

『ぴぃぃぃぃぃっ!!』


 ぼわんって爆発したような効果音とともに聴こえてきたのは、ピピナがアヴィエラさんから購入した魔石――『呼石』で呼び出すことができるヒヨコ・ピリィの鳴き声とばさばさとした羽ばたき。さすがにリアルタイムで収録したわけじゃないけど、


『ぴっ! ぴっ! ぴぃっ!!』

『いてっ! いてっ! 痛いって! な、なんでヒヨコが突然出てくるんだよっ!』

『ふーんだっ、さすけがまほーのことをばかにしたからいけないんですっ』


 中瀬のおかげで、俺の悲鳴とタイミングよく合わせて実際につっつかれているような感じに編集されていた。

 もちろん、ピピナがピリィにお願いして鳴いてもらったものだから実際につっつかれたわけじゃない。それどころか、俺が向こうに行くと本人――いや、本鳥から膝の上へ飛び乗ってくるんだから、仲がいいほうだとは思う。


『信じてはもらえぬかもしれないが、我とピピナはこういった出自だ』

『ぴっ!』

『ヒヨコを出すって、手品師じゃねえんだぞっ! もっと見栄えのいいマシな魔法があるだろうがっ!』

『そ、それは……ピピナ、まだしゅぎょーちゅーだから、これくらいしか……』

『だから、こんな初歩的な――』

『ぴーっ!! ぴぴぴぴっ!!』

『いてっ! いたっ! やめっ! やめれっ!』

『はー……じゃあ、ふたりは外国じゃなくて、異世界から来たってことなんだね』

『そういうことになる。その、唐突でいささか信じがたいとは思うが……』

『でも、こうして実際にヒヨコさんを呼んでもらったわけですし』

『そうそう。こうして不思議な魔法を見たら信じるしかないよっ』

『実際痛いしな!』

『ぴりぃ、そろそろやめるですよっ。さすけもこーさんしたんですから』

『ぴっ!』

『こ、降参してねえけどありがてえ……』


 情けない声を上げて、ラジオドラマの中の俺がピリィとピピナに降参してみせる。

 この第1話での俺とピピナとの関係は、最初の頃みたいなちょっとぎくしゃくした感じに設定してもらった。先輩としては最初からみんな仲良くって考えていたみたいだけど、はじめのうちは仲が悪めなほうが物語がスイングすると思ったからだ。

 演じていてこんな頃があったよなぁと思い返していたことが、こうしてリアルタイムで聴いているとまた蘇ってくる。あのケンカ友達みたいな関係も、今の信頼関係へと繋がっているはずだから。


『それで、ルティちゃんとピピナちゃんはこのままレンディアールへ帰っちゃうの?』

『そうしたいのは山々なのだが、なにぶんピピナの魔力が……』

『こっちへとんでくるのにひっしで、ほとんどすっからかんなんですよ……こうしてにほんごをはなしたり、ぴりぃをよんだりするのはちょっぴりだけでいーからつかえるんですけど』

『じゃあ、しばらく日本にとどまるということですよね。もしよかったら、しばらくこの部屋へ泊まっていきませんか?』

『いいのですか?』

『今は、わたしがひとりで住んでいますから。さすがに、野宿というわけにもいかないでしょうし』

『むむぅ……確かに、ルイコ嬢の仰るとおりですね』

『ルティさま、ピピナもいーとおもうですよ。るいこおねーさん、とってもやさしいひとですから!』

『ピピナもそう言うのであれば……ルイコ嬢。しばらくの間、よろしくお願いいたします』

『よろしくおねがいしますですっ!』

『ええ、喜んでっ』

『それと、恥を忍んでもうひとつお願いがあるのですが……その、我に〈らじお〉のことを教えてはいただけないでしょうか』

『ラジオのことを、ですか?』


 そして、物語は第1話のラストへと差し掛かっていく。ラジオに興味を抱いたルティが、行動に移す場面だ。


『我らの世界には魔術がありながらも、こうして声のみで交流を図るという手段はありません。とても複雑な技術かとは思われますが、是非とも学び、できることならばレンディアールへと持ち帰りたいのです』

『でも、機械とか電気とかないんだろ。それじゃあ、ラジオをやるにも一苦労なんじゃないか?』

『それは、我の一族だけが持つ力で切り拓いていこう』

『力……って、どうしてカバンから石なんて取り出してるんだ?』

『しばし、待つがよい』


 会話が途切れてからひと息おいて、呪文を唱えるようにして大陸公用語をつぶやくルティの声が聴こえてくる。赤坂先輩が練り込んだ、この物語ならではのルティの役割がこの呪文に込められていた。

 精霊たちへの、感謝と願い。日々の食事前に口にしているその言葉をなぜ呪文代わりにしたかというと、


『サスケ、先ほどの〈らじお〉を聴く機械を使えるようにしてはくれまいか。砂嵐のような音の場でな』

『あ、ああ』

『……うむ、ここだ』


 小さくつぶやいてから改めて呪文を唱えると、俺たちの声に被さっていたホワイトノイズがすうっとかき消えていく。そして、


『サスケ、聴こえるか?』

『〈サスケ、聴こえるか?〉』

『なっ、ど、どうしてルティの声がラジオから!?』


 ラジオから流れたように加工されたルティの声に、物語の俺は大きく驚いてみせた。


『我が一族の魔術は、対外的に力を発するものではない。こうして自然にあるものを介して、新たな存在へと変化させるための術なのだ』

『つまり、それってラジオも作れるってことですか?』

『そういうことになります。今のは、さきほどルイコ嬢が教えてくれた仕組みを我なりに解釈し、この石へと流し込んで〈声を送り出す力〉を与えてみました』


 戸惑う赤坂先輩へ、ルティがきっぱりと答えてみせる。

 今回の物語を作るのにあたって、どうしても避けたかったのはマニアックな話題だ。あくまでもラジオの中から『番組作り』に重きを置きたかったこともあって、無電源ラジオとかミニFMの送信キットとかの『出したらキリのない話題』は封印することにした。

 その代わりにと白羽の矢が立ったのが、アヴィエラさんが持つ魔石作りの魔術。今アヴィエラさんが作っている送信用の石をヒントにした赤坂先輩が、許可をもらった上で作中のルティが持つ魔術に設定したらしい。


『そんなことができるんだ……』

『とーぜんですっ! だって、ルティさまはレンディアールのおひめさまなんですからっ!』

『へっ!?』

『こ、こらっ、ピピナ!』

『る、ルティちゃんが異世界のお姫様っ!?』

『ど、どうしましょう。こんな小さな部屋に泊まってもらったら失礼にあたるんじゃ……』

『そんなことはありませんっ! こらっ、みだりに我らの正体を明かすなって言ったであろう!』

『ご、ごめんなさいですっ! ルティさまのとおといちからをみてたら、ついっ!』


 ルティに叱られたピピナが、あわてて謝ってみせる。ルティの正体がわかったのを出会って数時間後に変えたのは、12話分しかないラジオドラマの時間がそもそもの原因。

 本当ならじっくりと行きたいけどそうも行かないし、来週の第2回にはリリナさんの乱入シーンだってある。今のうちに話を進めておかないと、スムーズに進まなくなっちまうしな。


『てことは……俺たち、異世界のお姫様にラジオを教えるのか!?』

『そういうことになるですねー』

『えっ、ええっ!?』

『そ、そのことは、ひとまず置いてはくれまいか……今の我はいち生徒なのだから、ふたりにはよろしく頼みたい。ルイコ嬢も、ご指導ご鞭撻のほどをよろしくお願いいたします』

『ピピナからもおねがいするです。みんなとはなしたことがいろんなひとにきこえるの、とってもおもしろいからおしえてほしーですよっ』

『ど、どうします?』

『あたしは、どっちかっていうと面白いんじゃないかなーって』

『そうだね。わたしたちのラジオが違う世界に広がるのは面白そうだし、なによりリスナーさんからのお願いだもん。わかりました。ラジオをルティさんのピピナさんの世界へ伝えるお手伝い、ぜひさせてください』

『ありがとうございます、ルイコ嬢!』

『ありがとーです、るいこおねーさんっ!』

『先輩がそう決めたなら、俺も手伝います』

『あたしもっ! 異世界のお姫様と魔法使いさんとラジオができるチャンスですから!』

『それじゃあ、明日からすこしずつラジオのことを学んでいきましょう。ルティさん、ピピナさん、これからもよろしくお願いします』

『我らこそ、よろしくお願いいたします!』

『おねがいするですよっ!』


 赤坂先輩が優しく答えると、ルティもピピナも元気いっぱいにお礼を言った。

 これが、第1話の結末。ラジオのことをいくらか教えてもらって、それに興味を持ったルティとピピナが学ぼうとするっていう、みんなとの出会いをぎゅっと詰め込んだお話としてまとめられた。

 でも、ドラマ自体はもう少し続く。


『こうして、ニホンという異世界へ飛ばされたお姫様のエルティシアと魔術師のピピナは、異世界で出会った仲間たちといっしょに〈らじお〉という不思議な文化を学ぶことになりました。この先どんな風に〈らじお〉を学んでいくのか……それは、次回のお楽しみに』


 ピピナの返事から数秒おいて、落ち着いた女性の声でナレーションが入る。

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