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異世界ラジオのつくりかた ~千客万来放送局~【改稿版】  作者: 南澤まひろ
第4章 異世界ラジオのまなびかた、ふたたび
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第93話 異世界少女とラジオ局と⑤

 ひととおり番組の紹介が終わってからは、そのままフリートークへ。響子さんは手元のメモを見ながら、流れるようにして俺らへどんどん話題を振っていった。


「じゃあ、ピピナさんとエルティシアさんは幼なじみで」

「そーです。ちいさなころからあそんでくれて、いまもらじおのことでいっしょにおべんきょーしてるですよ」

「こちらで何もわからない私を助けてくれて、とても感謝しております」

「息も合ってるし仲良しさんだし、これは面白いコンビが誕生したわね!」


「わざわざ都内で収録してるんだ。じゃあ、終わったあとなんてへとへとじゃない?」

「この間の1回目と2回目の収録なんか、へとへとどころか栄養補給って言って近所のピザ食べ放題に駆け込んでましたよ」

「あれはおいしかったですねー」

「夜の収録なので、どうしてもお腹がすいてしまって……」

「わかる。わかるけど、マイクにお腹の音がのったらもう致命的よー」


「あの、〈とーく〉の秘訣というのを教えてはいけないでしょうか」

「いきなり核心を突いた質問だなぁ……そりゃまあ、トークはキャッチボールみたいなものだから、自分だけがしゃべらないようにすることかな。しゃべったら反応を待って、しゃべったら反応を待ってって感じで」

「なるほど」

「べんきょーになるですねー」

「って、メモまでとるほど!?」


「そういえば、佐助くんって今日は半ドンだったんでしょ? 期末テスト、どうだったの?」

「へっ?」

「それは気になりますね」

「とってもきになるです」

「わ、わかりませんよ! まだ終わったばかりだし! つーか、ルティもピピナもなんでじっとこっちを見るのさ!」


 そんな感じで、番組のことやルティとピピナのこと、俺たちとの出会いのことや何故か俺の期末テストのことまでいじられたりしてトークは進んでいった。最初は緊張気味だったルティも言葉によどみがなくなってきたし、ピピナも響子さんとのトークを楽しんでいた。

 でも、それももうすぐ終わりの時間を迎える。自動放送システムが、残り3分のカウントダウンを示しているからだ。


「さて、そろそろ締めの時間なわけですけど、最後に3人からお知らせはありますか?」

「はいっ。じゃあ、俺からはふたつほど」


 締めの段階に入ったところで、俺は響子さんからの振りをすぐに受けた。まずはアシスタントの俺がやって、締めをルティとヒピナにやってもらうほうがいいだろう。


「毎週土曜日の午後2時からの4時までは、30分刻みで若葉北高校、紅葉ヶ丘大学附属高校、若葉総合高校、そして俺たちがいる若葉南高校の4校がそれぞれ番組を放送しています。音楽あり、ガールズトークあり、学校情報あり、ラジオドラマありの4番組なんで、もしよかったら聴いてみてください。ああ、今年中学3年生な受験生は参考になるかもしれませんよ! 多分!」

「なるのかなぁ?」

「なりますって! 多分!」


 自分でも効果が怪しいと思ってるから、『多分』を2回重ねとく。


「それと、『好き放題』と『異世界ラジオのつくりかた』のディレクターをやってる赤坂瑠依子先輩の番組『赤坂瑠依子 若葉の街で会いましょう』は、土曜夕方5時からの放送です。この番組でもリスナーさんからの飛び入りジングルを募集してるんで、我こそはと思ったら土曜の夕方にわかばシティFMの前まで来てみてください」

「エルティシアさんとピピナさんが佐助くんたちと出会うきっかけになった番組だもんね。毎週若葉市のいろんなところを取材して新しい発見を伝えてくれる番組だから、ぜひぜひ聴いてみてください。それじゃあ、続いてエルティシアさんのほうから」

「はいっ」


 響子さんから振られるのと同時に、ルティがぴんと背筋を伸ばす。視線をテーブルの上へ落としているのは、放送直前に書いた走り書きの原稿を読もうとしているからだろう。


(わたくし)たちの〈ばんぐみ〉『異世界ラジオのつくりかた』は、先ほども申し上げたとおり、日曜深夜24時からの放送です。異世界からやってきた私とピピナが目の当たりにした〈らじお〉という未知の存在を、この世界に住むサスケとカナとルイコさんがいちから優しく教えてくれる番組なので、〈らじお〉に興味を抱いている方はぜひとも聴いてみてください」

「ラジオでラジオのことを学ぶ番組って、ネットラジオではあっても地上波ではなかなかないからねー……最近流行りなライトな要素も加わって楽しそうなので、ぜひとも聴いてみてください」


 淀みなく、それでいて自然に原稿を読み終わったルティに御満悦そうな響子さん。そんな俺も、最初の不安がどこかへ吹っ飛んでいくぐらいの安定感をおぼえていた。


「最後に、ピピナさんからはなにかありますか?」

「んーと、ピピナはルティさまとおなじとゆーか……あっ」


 問いかけに首をかしげていたピピナが、なにかを思いついたかのようにぽんと手を叩いた。


「えっと、らじおはとってもたのしーですから、たくさんたくさんきくといーですよっ。いっぱいらじおをたのしんで、みんなでもっともっとらじおをたのしくしちゃいましょー!」

「おおー、これは素晴らしい締めですね!」


 ピピナの元気いっぱいな呼びかけに、音が割れないようにと小さく拍手をする響子さん。なるほど、これは確かにピピナらしいいいお知らせだ。


「その素晴らしい締めをいただいたところで、そろそろ2時台の締めのお時間です。本日の呼び込みゲストは、新番組『異世界ラジオのつくりかた』からパーソナリティのエルティシアさんとピピナさん、そしてアシスタントの松浜佐助くんでした。3人とも、今日は本当にありがとうございました!」

「ありがとうござまいしたっ」

「ありがとうございました」

「ありがとーございましたっ!」

「CMと時報のあとは、若葉市からのお知らせを挟んでテーマメール『今、旬な一品』をお届けします。メールアドレスは、smaradi@fm888.jpn。すまらじ、あっとまーくえふえむはちはちはち、どっとじぇいぴーえぬまでどしどし送ってください。SNSのハッシュタグ『#すまらじ』でもお待ちしてますよー!」


 メッセージ用の告知を読み上げて、響子さんがマイクのカフを下げる。そのままミキサーの音量も下げていくと、帰って早々に聴いた中華料理屋のCMが天井のスピーカーから流れてきた。


「みんな、おつかれさまでしたっ!」

「おつかれさまでしたー」


 元気いっぱいな響子さんのあいさつに、思わず両手を机につけて頭を下げながら応える。たった15分ではあるけれども、目の前でベテランの番組回しが見られたのは本当に参考になった。


「おつかれさまですよー!」

「……………」

「ルティさま?」


 元気いっぱいなピピナにの横で、ルティはうつむいたかと思うとそのままずるずると机の上へ突っ伏していった。


「る、ルティさまぁっ!?」

「お、おい、ルティ。大丈夫か?」

「……んでしまった」


 机の上に散乱した銀髪の隙間から、くぐもったような声が聞こえてくる。絶望というか、なんというか……


「はじめのほう、思いっきり言いよどんでしまった……」


 後悔をこめて言いながら、首だけをぐるりと起こしてから両手を顔にあてた。


「お疲れさん。でも、初めての生放送にしては上出来だったと思うぞ」

「そうそう。エルティシアさん、初めての生放送にしては80点をあげてもいいぐらいよ」

「えっ。エルティシアさんって、初めての生放送なの?」

「はい。ルティもピピナも、初めての生放送なんです」

「ピピナさんも! へー……」

「はじめてだったけど、とってもたのしかったです!」


 ルティをなだめる俺と大門さんの言葉に、響子さんが驚きの声を上げる。

 そりゃまあ、特にピピナのことは驚くだろうなー……初めてなのに、ラストであんなアドリブをかましたんだから。まあ、ピピナのことだから意識してやったんじゃなくて面白そうだからやったんだろうけど。

 それに、さっきも言ったとおりルティも初めてにしては上出来だと思う。俺が桜木姉弟の番組で初めて生放送に出たときなんてボロボロもいいところだったし、最後のほうは堂々と言えていたんだから十二分に合格点をあげてもいいぐらいだ。


「ルティさまも、たのしかったですよねっ」

「それは、確かに楽しかったが……」

「だったら、いまはたのしいことをおもいかえしましょー。はんせーは、あとからでもできるですっ」

「うむ……それは、そうかもしれないな」


 ゆさゆさとルティの体をゆするピピナが、なんだか大人に見える。って、実年齢は俺や有楽の倍以上だってんだから、俺らから比べればずっと大人でいいのか。


「楽しかったなら、はなまる合格点をあげてもいいぐらいかな」

「生放送にはこれから慣れていけばいいんだし。まずは楽しくやれたってことが大事だぞ」

「楽しかったというのは確かだ。この気持ちを、忘れてはいけないということなのだな」

「そういうこと」


 ようやく体を起こしたルティに、もう一度大門さんと俺で言葉をかける。まずは、自分が出た番組を楽しむこと。これは桜庭姉弟や赤坂先輩、山木さんや響子さんから教えられてきた、ラジオに対するいちばん大事な気持ちだ。


「キョウコ嬢、ありがとうございました。緊張をほぐすようにゆったりしゃべっていただいたことで、平静を取り戻すことができたように思います」

「わたしのおかげじゃないよ。エルティシアさんにトークを聞く余裕があったから、途中から落ち着けたんじゃないかな」

「それでもです。目を配りながらの対話といい、ひとりひとりへ会話を振る技法といい、私が目指すべき姿勢を多く学ぶことができました」

「あ、あははは……なんだかくすぐったいわね」

「それだけ、響子さんから学ぶことが多いんですよ。ねえ、松浜くん」

「はいっ」

「よ、よしてよ! あたしよりも山木さんとか平塚さんとか、ここにはもっとお手本になる人がいっぱいいるんだからさっ!」


 ルティに続く大門さんと俺からの攻勢に、目に見えて響子さんがうろたえる。でも、実際に学ぶことが多いからこその同意なんだから仕方ない。


「きょーこおねーさん、きょーこおねーさん」

「な、なにかな? ピピナちゃん」


 そんな響子さんは、奥の席で手を挙げているピピナに助けを求めるようにして話に応じた。


「きょーこおねーさんのこと、きょーこせんせーってよんでもいーですか?」

「えっ」

「きょーこおねーさんは、ルティさまとピピナにとってらじおのせんせーのひとりですから。だから、きょーこせんせーですっ!」

「ええっ!? ちょ、ちょっとピピナさん、先生はだめっ。先生はだめだってっ!」

「なるほど、響子先生か」

「響子先生のラジオ教室……あら、パーソナリティ育成としてもいいかもしれないわね」

「ちょっと真知やん! なにを不穏なことを考えてるのかな!?」

「いいじゃないてすかー。エルティシアさんとピピナさんに続いて次世代育成! って感じで」

「それはいいかもしれないけど! しれないけど! 先生はダメっ!」

「えー」


 年上なはずの響子さんが、年下の大門さんに翻弄されている。そうか、響子さんはこういう扱いが苦手なのか……なるほど、木曜が休みのときのメールのネタになりそうだ。って、いかんいかん。今はそんなことを考えてる場合じゃない。


「ほらっ。もうすぐ3時5分なんだから、この話はおしまいっ!」


 自動放送で『市役所のお知らせ』が始まってしばらく経ってるから、次のコーナーまで余裕がない。確かに、そろそろ退散しなくしちゃいけない時間だ。


「申しわけありません、キョウコ嬢。ピピナが突拍子もないことを」

「それは別にいいんだけど、不意打ちは苦手なんだよ……」

「わかりました。ですが、私もキョウコ嬢のことは先生のひとりだと思っておりますので」

「ひとりって、他にも先生がいるの?」

「はいっ」


 響子さんからの問いに、ルティがきっぱりと答える。


「ルイコ嬢とヒロツグ殿にマチ嬢。そして、サスケとカナも我にとって〈らじお〉の先生です」


 続いて出てきたその名前は、とても聞き慣れたもので。

 そして、その中に俺がいることがうれしくて。


「なるほどね」


 にまっと笑って視線を俺へと向けた響子さんに、


「佐助くん、ずいぶん勉強熱心な子を連れてきたね」

「ええ。俺や有楽にも負けないぐらい、すごく熱心です」


 自信を持って、そう言うことができた。


「それじゃあ、夏休みは木曜になったらここへおいで。もちろん番組は見に来ていいし、終わったら1時間ぐらいはフリーだから、ラジオのことでわからないことがあったら教えてあげるよ」

「まことですかっ!」

「ほんとーですかっ!」

「こんなに熱心だったら、あたしも本望。このあとも番組は続くから、またロビーで見ていていいしね」

「はいっ、ぜひとも聴かせていただきます」

「きょーこせんせーのおしゃべり、ちゃんときくですよっ!」


 ルティもピピナも、うれしい気持ちを隠そうとはしない。だったら、俺も感謝の気持ちを隠したままにするわけにはいかない。


「あの、響子さん。本当にありがとうございます」

「佐助くんもいつでもおいでよ。もちろん、神奈ちゃんもね」

「はいっ」


 ベテランパーソナリティからのありがたい申し出に、一度だけじゃなく二度も頭を下げる。

 これもきっと、ルティとピピナの熱意のおかげ。

 ふたりがいたからこそ、大門さんと響子さんっていうふたりの心強い先生を得ることができた。


 まだまだ、異世界でのラジオ作りは課題が山積みだけど。

 日本でしっかり得たことをレンディアールで活かしていこうって、そう力強く思えた。

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