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ヒロインの好きなイケメン主人公と付き合うために手伝ってたらいつの間にか脇役で終わるはずの俺と結婚していただけの話

作者: 荒北 龍



「嫌い」


俺の彼女、荒凪(すさなぎ) 獅子鳴ししなは、いわゆる不良だ。

いつも高校をサボるし、いっつも喧嘩ばっかして、その上強いときたもんだ。

見た目は小さくて可愛いのに、一体なぜこんなふうに育ったのか、獅子鳴を育てた親を一度見てみたい。

さて、そんな獅子鳴は今日も喧嘩した。

しかも今回はクラスの男子と女子を全員で10人も病院送りにした。

そんな彼女の手は痛々しく、拳の皮が剥がれて血が出ている。

こんな細い手足で、こんな小さな手で、どうしてあんな力が出るのか、本当に謎だ。

しかし、このまま放置なんてできる訳もなく、俺は獅子鳴の拳に消毒液で消毒して、薬を塗ってやった後、包帯を巻いてやる。


「痛い、染みる、もっと優しくやれよカス。ほんと使えねぇな」

「はいはい、悪かったな」


獅子鳴の親は大企業の社長で、おそらく今回の獅子鳴が暴れたことも全てもみ消しにされているだろう。

こんなのが何度も何度も繰り返されてるから、ものすごく可愛いのに、周りからは怖がられて、恐れられて、『人喰いライオン』なんて呼ばれてる。

そんな彼女にも、好きな男はいる。

彼氏の俺ではないが。


「なんでお前みたいなのが彼氏なんだよ。目付きは悪いし、顔は怖いし、身長は無駄に高いし、体はごついし。あーあ、すみれくんみたいなかっこよくて優しい美少年系イケメンと付き合いたかった」

「···············悪かったな、目付き悪くて」

「何よ、怒ってんの?」


こちらをニヤニヤしながら見ている獅子鳴。

獅子鳴はよく俺をこうやって他の男、特に本命の男と俺をくら比べてくる。

堇と言えば、この高校で知らない奴はいないってくらいのイケメンで、何度も俳優などにスカウトされるほどだが、全て断っている。

どんなやつにでも優しく、俺や獅子鳴にだって優しく接してくる。

そんな堇に惚れた女など数しれず、獅子鳴もその1人だ。

俺と付き合っているのは、俺が告白した時に「親に彼氏居ないってバレると面倒だから」と言って、仕方なく獅子鳴は俺と付き合うことになった。

どうやら彼氏が居ないとすぐに親が縁談の話を出してきて、何度も見合いに連れていかれるのが嫌だから、高校までの間、俺の事が飽きなければ付き合っていてくれるらしい。


「まぁ、あんたがどうしてもって言うからいやいや付き合ってやってんだ。せいぜい優しい私に感謝しな」

「分かってるよ」

「ほんとに分かってんのかよ」

「あぁ、お前が俺の為に怒ってくれるくらい優しいのは、俺がよく知ってる」

「······························ハァッ!?急に何言ってんだ!」


獅子鳴はブワッと顔を真っ赤にさせながら驚いていた。

実は獅子鳴は今日大暴れしたのは影で俺の事を罵倒していたヤツらだ。

しかも、どうやら俺の机やバッグに泥や水をかけてイタズラをしていたらしく、それを見た獅子鳴がそいつらを俺の代わりにぶん殴ってくれたんだ。

俺は目付きが悪く、身長も高くてガタイが良いというだけで、別に不良じゃないし、喧嘩もそこまでしない。


ただ、よく勘違いされて不良やら警察やらに絡まれて、そのせいで俺は不良だの、怖いだの言われて、教室ではいつも孤立していた。

どいつもこいつも顔が怖いだけで俺を嫌い、拒絶した。


そんな俺にとって獅子鳴は憧れにも近かった。

周りから何を言われても、気高く、美しく、強く

自分に正直に生き、自分の為に生きる。


「··········ありがとな。獅子鳴」

「キッッッモッ!本当に何言ってんのあんた!」


獅子鳴はドン引きしながら、包帯をまだ巻き終わってないにもかかわらず、そのまま俺の手をはねのけ、「自分で出来る」と言って、雑に包帯を巻き、バッグを持ってそのまま保健室を早足に出ていった。

彼女の耳が一瞬いつもより赤く見えたのは、きっと気の所為だろう。





△▽△▽①▼▲▼▲






「今日の飯、あんたが作れよ」

「今日"の"じゃなくて今日"も"、だろーが」


いつからだったっけ。

こいつが俺の家に出入りして、俺の飯を食べるようになったのは。

付き合ってすぐが、もう少しあとか、今となってはそんな事は記憶の片隅にしまって埃を被っている。

だが、そんな事どうでもいい。

慣れてしまえば平気だ。

こいつが俺の家に来て、飯を食って、隣のエレベーター付き高級マンションの自分の部屋に帰って、朝俺が起こしに行く。

最初は彼氏彼女じゃなくて、お母さんと子供の関係としか思えなかったが、今となってはそもそも獅子鳴が俺と好きで付き合っていないとわかっている以上、俺の事は都合のいい使用人程度にしか思ってないのだろう。


それでも、獅子鳴との関係が無くなるより、ずっとマシだった。

キスも、セックスも、手すら繋いだことがない。

傍から見たらこれが恋人関係に見えるものなど、100人に聞けば100人がNOと答えるだろ。


(それでも、そばに居るだけで嬉しいのは俺がこいつに惚れちまったからか)


俺は夕焼けのオレンジ色の光に照らされる獅子鳴の横顔を見つめる。

小学生と見まごうほどの小さな身体に、自分の体の半分以上あるふわふわの柔らかく風になびく金色のロングの髪。

普段の大食いぶりからは想像のできない小さく可愛らしい唇。

鋭く気高い黄金の瞳はどんな黄金にも、宝石よりも美しく吸い込まれてしまいそうだ。

制服のスカートから見える白く艶かしい白い肌。

きっとこの服の下の身体はとても白く、美しいのだろう。


だが、俺が触れることは、触れる事を許すことは未来永劫無いだろう。

だって獅子鳴の体に触れることを許されているのは、堇ただ一人だけなのだろう。


「···············何見てんだよ」

「なんでもねぇ。それより、今日の飯何がいい」

「オムライス一択!」

「じゃぁ帰りは卵と鶏肉買わねぇとだから先帰っててくれ」

「··········いいよ、一緒に行ってやる」

「?卵と鶏肉以外は買わんぞ」

「別にいい。一緒に行きたいだけだし」

「そうか」


珍しいこともあったものだ。

普段からめんどくさがり屋で、俺を手足のように使っていた獅子鳴が、俺と一緒に買い物なんて。


まぁ俺としては嬉しいんだが


「ん」

「?」


すると、突然獅子鳴が俺の方へ手のひらを持ってくる。

俺は獅子鳴の意図が分からず頭の上に?を浮かべながら首を傾げる。

獅子鳴方を見るが、俯いていて髪に顔が隠れて顔が見えない。


「ん!」

「なんだよ」

「手」

「手?」

「手、繋いでやるって言ってんだよ!!」

「は?」


は?

何言ってんだこいつ?

俺と付き合う時『私に触れたら殺す』とか言って俺が少しでも触れようもんなら腹パン一本背負いからの喉潰しで殺そうとしてたやつが突然どうして···············。


俺の混乱した思いがぐるぐると渦巻きながら、唖然としていたが、そんな俺を見て獅子鳴が不安そうに俺の顔を見る


「何だよ。嫌ななのかよ」

「い、いやじゃねぇよ」

「じゃぁ、はい」

「お、おう···············」


そう言って俺は獅子鳴の小さな手を握った。

小さくて、暖かくて、柔らかい手を、俺は壊さないよう優しく握った。

普段この手で多くの人間の骨を砕いているとは想像できないほど、可愛らしいてだった。

多分これは練習なんだろう。

こいつの好きな堇と手を繋いだ時慌てたり拒絶しないよう俺で練習してんだ。

俺はそう思うことで、今の訳の分からない現実を勝手に解釈した。


その時の獅子鳴が、頬を紅く染めながら小さく微笑んでいるように見えたが、顔が紅いのはきっと夕焼けの光のせいだろう。





▲△▲△②▽▼▽▼






「はらへったー!龍也たつやメシまだー?」

「今作ってるから待ってろ」


俺は大きめのフライパンで四人前のオムライスを作っている。

うち3人前は全て獅子鳴が全て食べてしまう。

マジであの小さな体にどうやって3人前のメシが入るのか意味がわからない。

三合炊いて三合全部食うとかマジであの胃の中ブラックホールでも入ってんのか?


そんな疑問を他所に、俺はふわとろの卵をケチャップライスの上に乗せ、ケチャップをかけてやれば、特盛オムライスの完成だ。

出来たてのオムライスの匂いに気づき、スプーンを持って目をキラキラと輝かせながら、自分の元に来るオムライスを待っている獅子鳴に俺はオムライスを持って行った。

獅子鳴の目の前にオムライスを置いてやれば、「早く!早くいただきますするぞ!」と、俺を急かす。

そんなに早く食べたければ、とっとと食べればいいものを、獅子鳴は俺が座り、俺と一緒に「いただきます」と手を合わせるまで、食事に手をつけることは無い。


「「いただきます!」」


こうしてお互い手を合わせて初めて食べ始める。

相変わらず獅子鳴はすごい食べっぷりだ。

俺と一緒に帰って、俺の家に帰ってきて、飯を作ってやって、そして隣のマンションに帰っていく。

こんな関係が約3年続いた。


3年。


明日は俺たちの卒業式だ。

そして明日、俺たちは別れる。

そういう約束で付き合った。

そういう約束を俺は承諾した。

そういう約束を、俺からもちかけた。

俺が約束して、獅子鳴がそれを許した。


だから、俺の飯を食うのも、獅子鳴はこれが最後なんだろう。

明日、獅子鳴は堇に告白する。


俺は偶然、本当に偶然聞いてしまったんだが、堇が女子に告白されている時、たまたま聞いてしまったんだ。


『ごめん、好きな人がいるんだ』

『誰ですか。教えてください。そしたら私、諦められます!』

『····················獅子鳴だ』


それを聞いた時、俺は喜ぶはずだった。

獅子鳴の恋が叶う。

これを直ぐに知らせれば、獅子鳴に教えてやれば、獅子鳴は堇と付き合える。

獅子鳴は好きな奴と付き合あって、幸せになれるのに、きっと俺にみせたことの無いくらい綺麗で可愛い笑顔を堇に見せると思うと、胸がえぐれそうなほど苦しくて、吐き気がして、気分が悪くなる。


俺は獅子鳴の幸せを喜べない。

最低だ。

俺はいつからこんなに小さい男になってしまったんだ。

好きな女の幸せを喜べないほど、小さい人間になってしまったんだ?


「···············なぁ」

「おかわり」

「は?」

「は?じゃねぇよ。おかわり」

「もう食ったのか?」

「そうだよ。だから早くおかわり」


まだ食い始めて1分2分しかたっていなかったと言うのに、皿の上は完全に空になっていた。

三合分の米をこの一瞬で食べきったのかよ。

だが、炊飯器の中に米は無い。

俺は少し考えてから自分のオムライスを獅子鳴に差し出した。


「···············俺のやるよ」

「いいのか?」

「今腹減ってねぇ」

「あっそ」


そう言って獅子鳴は俺の皿をとってそのまま食べ始める。


「何見てんだよ」

「··········いや、なんでもない」


俺はそう言って獅子鳴の皿を洗うためにかたそうとすると、獅子鳴が「待てよ」と言って俺を止めた。

俺は振り向くと、そこにはオムライスを多めにスプーンですくってこちらに差し出していた。


「食え」

「え」

「食え!」

「はい!」


俺は少し躊躇いながらも獅子鳴のスプーンにすくわれたオムライスを食べる。

本当に今日の獅子鳴はどうしちまったんだ?

いつも俺に触れられるのだって嫌がんのに、しかもこれ普通に間接キスじゃ··········。


龍也は頭の中で疑問に思いながらもオムライスを飲み込むと、再びオムライスをスプーンにすくって俺に差し出される。

俺はそれを再び頬張った。


「ふんッ」

「あ、おい、それ俺が口向けたやつ···············」

「うっせぇ。たかが間接キスだろ」


そう言って獅子鳴は俺の使ったスプーンなど全く平気そうな顔をしてオムライスを食べ始めた。

普通に間接キスなのだが、獅子鳴にとって間接キスはノーカンなのだろうか。

どちらにせよ、今日の獅子鳴はどこかおかしい。

明日別れる俺へのせめてもの慈悲なのだろうか。


(···············耳、赤いな)


獅子鳴の耳が、物凄く赤い気がする。






▼▽▼▽③▲▽▲▽





(なぜこうなった?)


今、俺と獅子鳴は同じ布団、同じ安っぽくて生地のうっすい安物の布団で寝ている。

何を言っているのか分からないかもしれないが、俺も何が起こっているのか分からない。

食事が食べ終わり、すぐに獅子鳴は『風呂は私が先はいるからな』と言って、俺が入る前に直ぐに風呂に入って、風呂から出てきて、すぐに隣の自分のマンションに戻ったと思ったら、ピンクの大きめのパジャマ着て「寝る」とか言って俺の引いた布団で寝始めて、俺が別の場所で寝ようとしたら、俺の腕を掴んで「てめぇも一緒に寝んだよ」と言って無理矢理布団に入れられた。

マジで意味がわからん。

しかも獅子鳴は今、俺の腹の上で気持ちよさそうに眠っている。

獅子鳴とて女だ。

その柔らかい胸が俺の胸板に当たっている。

フニフニで、柔らかい大福のような心地の良い感触が鮮明に伝わる。


好きな女の胸が当たれば男などどうならるか、男である俺は一番理解している。

ただいま俺の息子さんが大変お元気状態になってしまっているのだ。

頼む、頼むから俺の息子が治まるまでどうか獅子鳴が起きないでくれ。

俺はひたすらそうやって祈ることしか出来なかった。

もしも獅子鳴に子の事がバレたら···············。


『ゴミ』


「oh……」


俺は神さま仏さまに小声で祈った。


「どうか、どうか獅子鳴よ、起きないでくれ」

「起きてるよ」

「!?」


俺の体からぶわりと冷や汗が滲んだ。

首を上げ、獅子鳴を見ると、上目遣いでこちらを見るふたつの綺麗な瞳に、しっかりと俺が映っていた。


「ねぇ、あんた私で興奮してんの?」

「い、いや··········。それは」

「いいよ」

「···············は?」


俺は突然の獅子鳴の発言に、その「いいよ」が何を意味しているのか分からず、とても変な声が出てしまった。

頭の中でその「いいよ」とはまさかそういう事なのかと、頭の中で疑問がぐるぐると回り続け、俺の視線はいつの間にかブカブカのパジャマの隙間から見える獅子鳴の肌を凝視しながら生唾を飲んだ。


「どういう意味だよ」


俺は確認するように聞いた。

獅子鳴はこちらを見てなんの恥ずかしげもなく


「エッチ、したいんだろ?いいぜ。私の体をお前の好きなようにしていいって言ってんだよ」


と言ってのけた。

聞き間違いでも、空耳でもない。

いつの間にか俺の息が上がる。

心臓が破裂してしまいそうなほど強く脈打ちながら鼓動が速くなる。

そんな俺に構うことなく、獅子鳴は俺の顔に手を伸ばし、顔を寄せる。


少しずつ、少しずつ俺の唇に、獅子鳴の唇が近づいてくる。


あぁ、これ、キスされる流れだ。


と心の中でつぶやく。

俺の心の底から望んだ光景。

夢にまで見た光景だ。

俺が拒む理由はない。

ないはずなんだ。


「ダメだ」


なのに俺は獅子鳴を拒んだ。


「···············なんでだよ」

「お前こそ、今日何があった」

「何も」

「何もなわけねぇだろ!三年も一緒にいるんだぞ!?そんなことも分からねぇほど俺は鈍くねぇ!」


明らかに今日の獅子鳴はおかしかった。

今日の暴力沙汰の事だって、三年になってから俺以外のやつに手を挙げることなんて1度もなかったのに、突然暴れだして、昨日の学校帰りだって一人で帰っちまうし、飯だって食べに来ないで。

今日の朝は普通だったが、どこか上の空というか、今日一日ずっと俺を見つめながらボーっとして。


そして今。

突然俺と肉体関係を築こうとして。

いつもの獅子鳴じゃない。


いつもの獅子鳴は自由で、無邪気で、気まぐれな獅子鳴が、どこかいつもと違った。

苦しそうで、辛そうで、泣きそうで───


「お前のそういう所、ほんっと嫌い」

「獅子鳴···············」

「お前の好きな女が、お前に身体やるって言いながら誘って、一晩好きにしていいって言ってんのに、普通断るかよ」

「そしたらこの先一生、お前と一緒に居れなくなる」

「···············」


もしも俺が今の獅子鳴の言う通り、獅子鳴を俺の好きなようにしたら、もう二度と傍に居れなくなる気がして、獅子のが遠くに行ってしまう気がして怖かった。

今の辛そうな獅子鳴を抱く気にはなれなかった。


「俺は一晩好きな女とセックスするより、好きな奴と一生傍に居たい」

「···············ほんと馬鹿なヤツ」


すると、ボロボロと獅子鳴の瞳から大量の涙が流れ始めた。

無理やり笑顔を作りながら、大粒の涙を零して、痛々しい笑顔を浮かべながら


「昨日、堇くんに告白された」


俺の胸がヅキリと傷んだ。

だが頭の中ではあぁ、そうかと、どこか他人事のように呟いた。


「断った」


再び俺の頭の中は真っ白になった。

獅子鳴は本気で堇の事が好きだ。

この3年間、俺は獅子鳴をずっと見てきて、それが痛いほど伝わってきた。

本気で好きで好きで、大好きで、心の底から堇の事が好きなんだなって、ものすごい伝わった。

それでも俺は獅子鳴の傍に入れるならと、この痛みを三年間耐えてきた。

その痛みが報われないとわかっていても、耐え続けた。


だが、獅子鳴の言葉は付き合ったでも、嬉しかったでもなく、「断った」だった。


その言葉に俺の頭の中は疑問に包まれた。

だって獅子鳴は、獅子鳴は堇の事が好きで、心の底から大好きで───


「私、堇くんの事が好きなのに、すごくすごく大好きなはずなのに、断わっちまった」

「なんで───」

「わかんねぇよ!!」


何かにあたる様に、八つ当たりでもするかのように、獅子鳴は叫ぶ。

獅子鳴の頬からは大量の涙が零れ続けた。

それでも獅子鳴は止まらなかった。


「わかんねぇ、わかんねぇけど、堇くんに告白された時、お前の顔が浮かんだんだよ」

「俺?」


なんで俺なんだ?

堇に告白されて、なんで俺の顔が浮かぶんだよ。

意味わかんねぇ。

普段から獅子鳴の言うこと横暴で、理不尽なことばかりだが、今回のそれは、いつものそれとはどこが違かった。


「そしたら、怖くなっちまったんだよ。お前といられなくなるんじゃねぇかって。堇くんと付き合ったらお前とはもういつもみたいに、一緒にいれなくなっちまうんじゃねぇかって、怖かった」

「なんだよそれ··········。それじゃぁまるで」

「好きなんだよ」


獅子鳴が俺を?


「龍也が、好きなんだよ。いつの間にか、私の頭ん中全部お前に塗り替えられちまったんだよ」


だって、獅子鳴の好きな奴は、本気で好きなのは堇で、獅子鳴にとって俺は使用人とか、都合のいい男でしか···············。


「でも、怖かった。私に龍也は釣り合わねぇ」

「そんなこと···············」


俺が言おうとした途中で口を獅子鳴の手で塞がれた。

獅子鳴左右に首を振って否定した。


「お前は優しくて、強くて、面倒みも良くて、かっこいい。だからきっと私みたいにだらしなくて、龍也の優しさに甘えて、わがままで、言葉使いも汚くて、何も考えないで好き勝手やってやってる私より、ずっといい女なんて沢山いる」

「そんなやつなんているわけ」

「今日廊下で女子が言ってたんだ」


『最近龍也変わったよね』

『分かる!なんか優しくなったよね』

『私なんか龍也タイプかも』

『え、マジ?』

『決めた!私明日の卒業式で告白する!』

『一応応援してるよ』

『うん!』


知らなかった。

いつの間にか俺の評価がそんなに良くなってたなんて。


「確かにまだ龍也の事馬鹿にする奴も、嫌がらせしたりする奴も沢山いるけど、それでも達也のことを好きになってくれるやつだって沢山いる。きっと私なんかよりずっといい女だって「いる訳ねぇだろ!」


だがそれとこれとは話が別だ。


「俺は3年前から変わってねぇ!わがままで、好き勝手やって、甘え上手で、可愛くて、誰の意見も聞かず、自分の意思を最後まで貫く、お前が大好きなんだよ」

「なんで、なんであたしなんだよ!体も胸も小学校の頃から全く成長してない、こんなちんちくりんで、その上わがままばっかな私のどこが好きなんだよ!」

「全部だよ!何もかも好きだよ!お前のその体も、性格も、何もかも好きだよ!好きになっちまったんだよ!!」


何もかも好きだ。

好きで好きで、大好きで

どんなに獅子鳴が自分の悪い所を言おうが、その倍俺は獅子鳴のいい所を言ってやれる。

どんなに自分が俺と釣り合わなくても、俺が釣り合わせる。


「私は逃げようとしてたんだぞ!?お前と今日だけセックスしたら、お前の目の前から消えようとしてた女だぞ!?全部忘れて、お前のことも忘れて生きようとしてた最低な女だぞ!?」「ふざけんな!だったら地獄の果まで追っかけてやる!てめぇが逃げるなら、俺はお前をずっと追いかけ回して、絶対に忘れられないようにしてやる。二度と俺を忘れられるなんて思えねぇようにしてやる!!」


勝手に決めんな。

勝手に逃げんな。

お前が何を言ったって、どんなに嫌がったって俺はお前を逃がさないし、お前を嫌いになんてならない。


「俺はお前のことがずっと好きだ。お前は、どうなんだ」

「ッ!私だって、私だって!!」


涙をボロボロと零しながら、次の一言が出てこない。

たった一言、たった一言なのに、その一言を言う勇気が出ない。

それでも、覚悟を決めて、言わなければならない。

言いたくて、言いたくて、この気持ちに気づいた時からずっと言いたくてたまらなかった。


「私だってすきだ··········。だいすきだよ···············ッ」


獅子鳴は龍也に抱きついた。

その細腕を龍也の首に回し、離れないようピッタリと体を密着させて抱きついた。

そして泣いた。

大きな声で泣きながら、「怖かった」「好き」「大好き」と言いながら大泣きした。

泣いて泣いて、泣きまくった。

俺はその間、獅子鳴を抱きしめた。

泣き止むまでずっと抱きしめた。

気づいた時には、俺も泣いていた。

嬉しくて、胸の中がいっぱいいっぱいで、泣いていた。

ボロボロ、ボロボロと大粒の涙が次々と溢れた。


その夜、俺たちの布団はお互いの涙でびしょびしょになった。





▲▼▲▼④△▽△▽






「そんな事もあったわねぇ。あ、今日堇くんかっこいい」

「おうコラ、恋人いる前で他の男かっこいいとか言うなよ」

「だってかっこいいんだもん」


俺にはあれから1度も言ったことないくせに。

結果から言うと、そこまで俺たちの関係は変わらなかった。

変わったと言えば、獅子鳴が俺と一緒に住み始めたことくらいだろうか。


獅子鳴は親の会社ではなく、自分の会社を立ち上げて大成功して、今では親の会社と大差ないほど大きくなってる。

堇は世界的人気な歌手アイドルで、今では色んな世界の番組に出演している。


俺はと言うと


「そう言えばバイトまたクビになったのか?」

「そうだよ。今月入って五件目だ」

「やっぱ私の会社で雇ってやろうか?」

「それは断る」


未だ就職もできず、バイトを転々としている。

原因は顔である。

顔がやばすぎて笑顔で接客すると10人中20人が店から逃げる。

増えた10人は俺の笑顔を見て怖すぎてプラスで逃げた奴ら。

マジでこの顔どうにかなんねぇかなぁ。


「こんな凶悪顔でなければなぁ」

「···············私は好きだぜ、龍也の顔」

「うぇ?」


もぅ一つ、この生活で変わったことがあったのを忘れていた。


「その凶悪顔、私は好きだって言ったんだよ」


獅子鳴は顔を真っ赤にさせながら、こちらを見てそう言った。


「お、おう。ありがと··········」


獅子鳴はあれから俺の事を好きと言ってくれるようになった。

そして同時に物凄く困ったこともある。


「···············よし、ヤるぞ」

「うん?」

「なんか龍也の顔みたらヤリたくなった」

「あの、獅子鳴さん?今午前11時なんですが?」

「知るか、ヤるぞ」

「え、ちょ、あーーー!!」


なんか襲われるようになった。


次に龍也が目覚めた時には既に翌日の2時になっていたのだが、それはまた別の話。

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― 新着の感想 ―
[一言] 作者とらドラ好きなんかなぁって思いました笑
[良い点] 別に金銭的な利益は得てないからいいと思います!布教大賛成です(`・ω・)bグッ! 同じくこういう話大好きです
[気になる点] とらドラに影響を受けたにしてももうちょっと差別化を頑張った方がいいと思う。
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