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09 選ばれた理由《わけ》

「ふぅ……」

額から流れ落ちる汗をぬぐいながら、一息入れる。

黒い岩盤に走る、赤いライン。吹き付ける熱風――僕は今、火山地帯にいる。


「おそらくこの辺りなんじゃが……」

リリンさんも一緒に。


何故、僕らがこんな場所にいるのか?それは3日前に遡る――



「……」

夜。僕は未だ、自分の身に起こった出来事が信じられずにいた。何度も手を開閉し、見つめる。

突然手に入れてしまった、あの強大な力。魔物の群れをものともせず、一瞬のうちに薙ぎ払ってしまえるような力に、恐れに近い感情すら抱いていた。

そして、それ以来使えなくなってしまった『発光』。両者に因果関係があることは何となく感じている――が、なぜ僕なのか。

力を持つに相応しい人間ならば、僕でなくともいるはずだ。

そう、例えばベリルのような。

強さ。意志。知性。どれをとっても、僕は彼に勝てやしない。

それなのに、何故僕が選ばれてしまったのか――そんなことを考え、ふさぎ込んでいると。


「おーい、開けてくれぃ」

リリンさんの声がした。

「うわっ」ドアを開け、驚愕する。彼女の上半身が丸ごと見えなくなってしまうほどの量の本を、彼女は持ってきたのだ。

今にも崩れ落ちそうなそれのいくつかを僕が持ち、机に置く。

「あー、疲れたのじゃ」

大きく息をして言うリリンさん。そんな彼女を見つつ、僕は1冊、本を手にする。

分厚く、そして古めかしい感じのする本。その表紙には、古代文字らしき字が書かれている。

学者でない僕にそれを解読することはできなかったが、小さいころに本でこんな文字があったようなことは記憶していた。


「どうしたんですか、いったい」

これらの本を僕のもとに持ってきた理由が気になり、尋ねてみる。

「おぬしが変わったあの姿について調べたくての。手当たり次第残っておった文献を引っ張り出してきたわけじゃ」

あの戦いの最中、村に向かっていたらしいリリンさん。彼女は、僕が元の姿へと戻る瞬間を目撃していたのだ。

その時は僕自身が混乱していたこともあり、深く追及することはなかった。が、やはり気になってはいたようだ。

僕自身、この力が何なのかはぜひ知りたい。長命なエルフ族の村に残された資料ならば、何か手掛かりとなるかもしれない。僕もまた、彼女の調べものに付き合うことにした。

――とはいえ、古代文字の解読ができない僕は、サポートに回るほかないのだが。



「む!」

それから数時間が経過した後。リリンさんの様子が変わる。どうやら何か見つけたらしい。

入れかけていた飲み物を置き、駆け寄る。

「もしや、これではないか?」

彼女が指さしたのは、本に書かれた一節。

「何て書いてあるんですか?」

僕は尋ねる。


『真の勇気を持ちし者 輝きとともに進化せん』――このように書かれているらしい。


『進化』とは、おそらくあの姿のこと。そして『輝き』。これは『発光』のことを指すのだろうか?

しかし、僕の中では1つ、納得できないことがある。『真の勇気』――この一節だ。

「何が納得できぬのじゃ?」リリンさんが不思議そうに尋ねる。

僕は言った。

「真の勇気、なんて僕には相応しくない」と。

昔から臆病で、いつもベリルの後ろをついて回っていたこの僕に、『真の勇気』なんて言葉は似つかわしくない。

それなのに――「待った」

あれこれ考えていると、リリンさんが問う。「お主はなぜ、あの姿になった?」と。


「それは、これを使って――」僕は短剣を取り出す。

「違う」彼女が遮り、「お主はなぜ、それを使おうと考えたのだ?」続けた。

「それは……」

目を閉じ、あの時のことを思い返す。

もう、故郷で起こったような惨劇を見たくない。そして、目の前の少女を守りたい。

そのことで頭がいっぱいになり、無我夢中でトリガーを押した。

そこまで思い返すと、はっと気が付いた。

「誰かを守りたいという心。それは真の勇気ではないのか?少なくともわしはそう思うが」

リリンさんが、僕の気付きを代弁する。

「誰かを守る……」

僕は短剣をじっと見つめ、呟く。この力が与えられた理由がそれならば、何も迷うことはなかったのだ。

「ありがとうございます、リリンさん」

僕は彼女に向き直り、深く頭を下げる。

そんな僕に、にっこりと笑いながら彼女は頷く――その時だった。短剣が突如として光を放ったのは。

慌てる僕らをよそに、剣先から細い閃光が放たれ、壁に何かを映し出す。


「これは一体……」

それは、世界地図だった。だが、気になる点がある。

赤。青。緑。黄。4つの色のクリスタルが、所々に浮かんでいる。


「ふむ……」

何かを感じ取ったのか、リリンさんが立ち上がり、地図の一点を指さす。

赤いクリスタルの映し出されている箇所――確か、活火山で有名な地域だ。

「何かわかったんですか?」

「いや、確かここには竜人族の村があったはず……」

竜人族。その単語に、僕は驚きを隠せなかった。思わずリリンさんに詰め寄る。

「それって、おとぎ話じゃなかったんですか!?」

「近い、近いぞハジメ……」

「すいません、つい興奮して」

というのも、竜人族は伝承には存在するものの、いまだ誰も姿を見たことのない種族だったからだ。僕も幼いころ、本で読んで思いをはせたものだ。


「まぁ、数百年前からずっと、人間との関りを絶って暮らしておる種族じゃからのう……しかしなぜ」

「僕、行ってみます!」

「待て」

好奇心が勝り食い気味に言う僕を、リリンさんはたしなめる。

「わしも行こう。お主だけではおそらく見つけられんからの」

「本当ですか!?ありがとうございます!」

僕は彼女の手を取り、言った。

「お、おう……」

そう答える彼女の頬が赤いような気がしたのは、何かの気のせいだろう。

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