二十八回目
それは辺り一面が白く、生き物はみな凍えてしまいそうに寒い、冬のある日のことでした。
長く降り続いた雪はやみましたが、ぶ厚く黒い雲はまだ太陽の光を遮っていて、またいつ雪が降るとも知れません。
「こんにちはぁ、かみさまぁ。今日もきれいなお髪ですねぇ」
「…………おぬしは」
「るりに決まってるじゃないですかぁ。もう、いつまでたっても覚えてくれないんですからぁ」
かぶった笠と蓑にうっすらと雪をつもらせたるりが、体を震わせて笑いました。ぜえはあと肩で息をしているのに器用なことです。
るりが木の精のもとにくるのはずいぶんと久方ぶりのことでした。
「おぬしはいくつになったのだ」
「いやですねぇ、乙女の秘密を知りたいんですかぁ?」
山道で無理をしたのか、るりの息はなかなか整いません。
「ごめんなさいねぇ、かみさま。この天気でしょう、お供え物が用意できなくってぇ」
「…………構わぬ。祠に手を合わせて祈ればよい」
「はあい」
るりは木の根元にある小さな祠につもった雪を払ってから両手を合わせて拝みました。
長いこと、るりは祈りをささげて、うずくまっていました。
それから立ち上がろうとしましたが、寒さのせいかうまく立ち上がれません。仕方なく手をついて木の精の足元まできました。
「かみさま、疲れたのでちょと寝ていってもいいですか?」
「………好きにするといい」
「はあい」
顔をしわくちゃにしてるりが笑い、それから木の精の足元に丸まって目を閉じました。すぐに寝息が聞こえています。
どれだけ疲れていたのだろう、と木の精は疲れて見えるるりを見下ろしました。
ちらり、ちらりとまた雪が降り始めました。
雪が積もる前に起こさねばなるまいな、と木の精はこめかみをもみほぐしました。
起きるだろうか、と木の精は頭痛を感じましたが、けれどるりを起こさず、寝かせたままにしてやりました。