十四回目
それは赤や黄に色付いた木の葉が風に吹かれて散っていく、秋の終わりのある日でした。
日の沈んだ空には数多の星がきらめいていました。
「こんばんは、かみさま! 今日もきれいなお髪ですね!」
「………おぬし、は」
「もちろんるりです! あなたの嫁です!」
「嫁などいらん。なぜこのような夜に来たのだ。危ないだろう。家へ帰りなさい」
「もうっ! 素直じゃないんですから! 嫌です! 帰りません!」
「……おぬしはいくつに」
「花も恥じらう二十二ですよ! どうです、花嫁にぴったりだと思いませんか!」
木の精が言葉を言い終える前にるりが先んじて自分の年を答えました。
自信満々のるりに木の精は首を横に振ります。機嫌を損ねたるりの頬が膨らみました。
「お嫁にもらってくれてもいいじゃないですか! 村中の男達から求婚されるほどの美人ですよ、わたしは! お得ですよ!」
「………それならばその村の男達の一人に嫁入りすればよいだろう」
「嫌です! わたしはかみさまのお嫁さんになるので!」
「………前にも言ったが。そんなものは子どもの戯言でしかない。おぬしも時が経てば別の人間を好きに――」
「なりません! わたしはかみさま一筋なので! ぜったいぜったい、ぜーったい、かみさま以外好きになりませんから! 観念してわたしをお嫁さんにしてください!
だいたいわたしもう子どもじゃないので! ちゃんと大人なので!」
「……断る。人など吾から見れば子どもと変わらん」
「もうっ!」
るりは木の精の物言いに怒ったようでしたが、踵を返すことはなく、足取り荒く気の根元に座り込みました。
木の幹に背をあずけて、目を閉じて、腕を組んで、自分は怒っているんだと全身で語っていました。
「帰りなさい」
「ふーんだ! 帰りません! それに今帰ったらわたしは猪か狼の餌食ですよ! いいんですか、お嫁さんが獣の餌になっても!」
「…………おぬしは嫁ではない」
細く長く息を吐いた木の精は頭の痛みを和らげるためにこめかみを押さえましたが、あまり効果はありませんでした。
「夜が明けたら帰りなさい」
「嫌です! 帰りません! かみさまがお嫁さんにしてくれたら考えてもいいですよ!」
どちらにせよ帰らぬ気だろう、と木の精は夜空を仰ぎました。
今夜の星空はひと際美しく見えました。