表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/7

一回目

 それは春の陽がふりそそぐ、眠たくなるような陽気の日のことでした。


「こんにちは、かみさま! きょうもとってもきれいなおぐしですね!」


 とある山に生えた、小さくはないけれど、それほど大きいわけでもない桃の木に宿った桃の木の精――近隣に住む人々からかみさまと呼ばれている――は切れ長の目をはたりと瞬きました。

 はつらつとした笑い顔を木の精に向ける子どもは、ここに来るまでに取ってきたらしい草花を両手いっぱいに抱えていました。

 その草花の束を桃の木の根元にばさりと置くと、かみさま! と木の精に抱き着こうとして避けられ、桃の木に激突しました。


「いたい……」

「………」


 うるうると目を潤ませて木の精を見た子どもですが、木の精はどこ吹く風。むっつりとした顔で騒がしい子どもを見ていました。


「もう! かみさまはいっつもつめたい!」

「……」


 子どもがじだんだを踏んでも木の精はただそこに立っているだけでした。


「かみさまはみらいのおよめさんにつめたい!」

「……嫁などいないが」

「います! わたしです! るりがかみさまのみらいのおよめさんです!」


 木の精は目を閉じてるりの主張を黙殺しました。るりはめげずに木の精の袖をひっぱります。


「るりが! かみさまの! およめさんに! なるんです!」

「……おまえはいくつになるのだったか」

「ことしでいつつになりました!」


 片手を元気よく広げたるりに、木の精は細く長くため息を吐きました。

 信心深い両親に育てられたるりもまた信心深く育っていました。しかしどこでどう間違ったものか、いつからか木の精のお嫁さんになると決めていました。

 人と(あやかし)は寿命も住む世界も違うものです。夫婦になり添い遂げる者たちはいませんでした。


「子どもの戯言だな……」

「ざれごと? おままごとですか?」

「……おぬしも成長して大人になれば好きな相手が変わる、ということだ」

「しつれいな! かわりませんよ!」


 るりは鼻息も荒く、木の精につめよりました。


「わたしはずーっとずーっと、かみさまが好きですよ!」

「……そうか」

「あー!! しんじてませんね! かみさまったらひどい! およめさんをしんじないなんてっ!」

「……だから、嫁などいない」


 終わらない問答に、木の精は頭痛を覚えました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ