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死にたがりは国に行く

 

「四人とも、無事か!」


 いまだ収まらない大火事の中、まだ頭を強打した後遺症で少しフラついたまま四人の状態確認を急いでいた。


「……えぇ、なんとか」

「少し腕の負傷が」

「自分も蜘蛛共の脚で飛ばされましたが、治癒魔法で軽症にまでは」

「自分も大丈夫です!」


 四者四様だが、とりあえず生存している四人全員が負傷までで済んでいることに安堵する。

 そして、その四人の返答を聞いたサウルは四人を除く最後の一人の生存者にして、おそらくこの現状を作り出した可能性が最も高い生存者に目をやる。


「君、か」

「……こんにちは」


 巻いている布が燃え上がっているにも関わらず顔色一つ変えずにそこに立っているのは、マーナが保護し幌馬車に送ったはずの青年だった。


「マーナの術が消失したのか。まぁ、当然か……」


 サウルがふと地面を見つめる。無数の死骸が転がるそこには、当然マーナのぐちゃぐちゃになった亡骸もあった。


「詳しいことは後で聞きます。僕がなんでここにいて、そのマーナって人が僕に何をしたのかも。でも今はこの火事をどうにかしませんか」


 ワンテンポ遅れて、サウルが返す。


「私だって、できることならば今すぐにでもこの火を消したい。だが、その手段が今の我々にはないのだ。ここまでの広範囲の大火事になると私の能力でも手に負えん。とても恥ずかしい限りだがな」


 実際、マーナの連発した魔法により、火の手はかなりの範囲に広がってしまっている。

 今いる自分たち以外にこの森に入ってくる人は滅多にいないので、一般人の被害が少ないが不幸中の幸いだった。


「…では、僕とあなたでひとつ。取引をしませんか?」

「なに?」


 突然の申し出に思わずサウルは眉をひそめる。

 サウルと青年以外の四人も、2人の動きをじっと待っていた。

 その結果少しの間、炎が上がり続ける音だけが戦場跡に鳴り続ける。

 本来ならば自分たちで解決すべき問題をどうにもできない悔しさと、それに付き添うように現れた自責の念で胸を満たしていたサウルは、燃え盛る炎から紅い目をした青年にゆっくりと目を移す。

 そして、青年の目を見てはっきりと言った。


「話を聞かせてくれ。この一帯を完全に鎮火してくれたなら、私のできる限り君の要望に応える事を誓おう」


 それを聞いた青年は、いつの間にか少しオレンジ色に染まり始めた空とそれを全て灰にするような業火を背に、一瞬呆気にとられたような顔をしてすぐに笑った。


「…何がおかしい」

「いやいや、さすがに怪しすぎるし乗ってくれると思ってなくて。しかも取引の内容も聞いてないのにすぐに報酬を提示してくるんですもん。これでもし、僕の要望がやばかったらどうしたんですか。」


 少しニヤついたような呆れたような顔をしながらそれは大丈夫なのか、と指摘する。

 まあ、そんなに頭のおかしい要求を青年がする気はさらさら無いのだが。……今のところは。


「怪しいと思ったのも事実だ。だが、できると確信しているから君も取引を提示してきたのだろう?あと、あまり当てにはしたくないが、私の父はかなり国の中でも地位が高いんだ。私に無理でも最悪父が何とかしてくれるだろう。もちろん、極力自分で叶えるようにするとも」


 少し苦い顔をしながら青年の指摘を流すサウルに青年は微笑する。そのままの顔で青年はサウルに言う。


「まあ今はいいですよ。取引成立。今は僕がやる番です。少し見ていてください」


 言葉の途中で青年は目を閉じる。

 ゆったりとした表情を浮かべ、尚も燃えている布を風にはためかせながら。

 青年が集中している間にサウルは、他の4人に1匹ずつでいいので蜘蛛の素材を採るよう指示し、サウル自身も別の蜘蛛を解体しようとしていた。

 サウルがナイフを蜘蛛の死骸に刺したと同時。

 青年がその目を開く。

 瞬間、青年を起点として一斉に周りの明かりが円を描いていくように消滅していった。

 焦げて黒くなった木々や酸によって樹皮が溶けた木が急に姿を現し、沈み始めている太陽の光がよりはっきりと分かるようになる。

 ーその光景に、5人はしばらくの間、開いた口が塞がらなかった。

 その唖然とした表情を見ながら青年は大きな欠伸をするのだった。


  ▲▼▲▼▲▼▲▼


 少し時間が流れ、日も暮れて森を夜が包んだ頃。

 青年を含めた6人は、ランプを点灯させた6台の幌馬車に乗って調査団達の本拠地のある都市へと向かっていた。

 ちなみに、サウルと青年が1台に2人乗っているがそれ以外の4人は全員1人だけで1台の馬車に乗って進んでいる。

 特に会話の無いまま森を抜け、川を渡り、平野を馬車で駆けていた。

 会話が無い、というより「話す相手がいない」の方が多いのだが、相乗りしているサウルと青年の場合、サウルが青年にある種の畏怖や敬意を持ってしまったせいというのが大きい。

 その沈黙が、一つの呟きによってついに途切れる。


「……そうだった」

「ん?」


 サウルの小言に、青年が反応する。


「まだ聞いていなかった。貴方の名前はなんというのですか?」

「名前……か」


 いつの間にか敬語呼びにされた青年への問い。

 それはこちら側の世界に来てから1度も考えたことも無かった自分の名前。まさか他人に聞かれて初めて考えることになるとは思ってもいなかった青年は、自分の名前を少し慌てて考え始める。


(どうするか……元の世界の名前そのまま出すのは論外……かといって変に名前考えるのもめんどくさい……)


 一瞬途切れた静けさが、再び馬車を包み込む。

 少しの間考えた結果、青年が出した答えは、


「ハル。ただのハルだ」


 ー結局、元の名前の一部を切り抜くという安直な案を採用したのだった。


「ハル殿、か。私の名はサウル・ネルグレス。改めて貴方に感謝を。貴方がいなければきっと我々はあの惨状に散っていた事だろう」

「こちらこそ、行く宛てなど無かったのでそちらの帰還に同行させて頂くのはとても助かります。ありがとうございます」

「そして急ではありますがハル殿。話は変わるのですが、先程の取引……そちらの要望は決まりましたか?」


 馬車の手網を操りながらハルに取引の報酬を尋ねるサウル。

 あ、忘れてた。という表情のハルを見て苦笑いを浮かべ、ハルに向けていた目を再び前に向ける。


「大丈夫大丈夫、もう考えてある。言い忘れてたなーってなっただけだ」

「……では、ハル殿。貴方の望む報酬は、何ですか?」


 1拍置いて、ハルは返す。


「君たちの国の国王と、話をさせてくれ」


 国王、というワードが出た瞬間にサウルの顔面が完全に硬直する。

 しばらく止まったサウルの頭は、とてもぎこちないロボットのような動きでハルの方を向く。

 悪い笑みを顔に貼り付けたハルが振り返って自分を見たサウルに対して、よろしくね?と言わんばかりの圧をかける。


 ……サウルのハルに対する敬意が恐怖に変わった瞬間だった。


 そして、サウルに対してのせめてもの救いなのか、気まずい雰囲気になった馬車1台と他5台は、ちょうど目的地が眼前に迫っているのだった。

 まだ暗いにも関わらず、街中に灯された明かりによって建物が見え始めたハルは悪い笑みを消し、同時にサウルの顔にも心なしか少しだけ余裕が出来たような表情が浮かぶ。


「ハル殿。既に見えていますでしょうが、改めて紹介させて頂きます。我らが慧明統一国・アルツヘイムにおける中央都市、グランヘイムです」


 6台の馬車はその速度を徐々に落とし、グランヘイムに突入するのであった。

一応ハルがリスポーンした所もアルツヘイムの領地っていう設定です

設定あやふやで申し訳ない。

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