死にたがりは世界を見る。
不定期すぎた。
青年が虚ろな瞼を開くと、そこは幻想的な景色が広がる洞窟だった。
天井、地面、外壁の所々に仄かに青白く発光する鉱石が偏在し、都会にいるだけでは絶対に見ることのできない景色を演出していた。
―が、瞼を開け立ち上がった青年は現状の思考を放棄させられていた。
ただ何も考えず、周囲の幻想的な景色に目もくれずに死んだ目をして、自殺した際に汚れた制服のまま、歩を進め続けるのだった。
一方その頃、青年が生まれ落ちた洞窟には、20人程度の調査団が目と鼻の先まで近づいており、その中には、青年の思考を奪った術師も紛れていた。
森の草木を分け、進み続ける一団は険しい顔をして洞窟へと向かっていくのだった。
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何も考えられないまま、歩き続けて30分ほどが経過しただろうか。
先程までの幻想的な景色は外部に進んでいくと共に見えなくなり、入れ替わりに真っ白な糸が至る所に張り巡らされているようになっていた。
緩い上り坂になっている洞窟を歩き続け、遂に青年の前に淡く日の光が差し込んだ。
入れ替わりに増えていった白色の糸は、進んでいく中でだんだんと壁面を覆う割合を増していき、遂には洞窟の壁をほぼほぼ見えなくする域にまで広がっていた。
しかも、どうやらその糸には粘り気もあったようで床にまで侵食してきた糸が青年の歩く速度を徐々に遅くしていた。
ゆっくり、ゆっくりと、しかし確実に光が強くなっていく。
暗がりの中にいたせいで眩しすぎるくらいに光が広がると洞窟の外へと青年は最後の歩みを進める。
そして、洞窟の陰から出た彼の眼前に現れたのは……
ー剣や槍、更には銃を向けた兵隊達だった。
洞窟を完全に包囲する形で武器を構えた調査員達は明らかに「想定していたものと違う」という目で足の下部が溶け始めていた青年を見ると、各々困惑の表情を浮かべ、得物を降ろす者もちらほら現れていた。
「術式の対象は本当に彼かい?マーナ」
「えぇ……確かに目の前にいる彼です。黒目の中に術式を刻まれた証となる印が浮かんでますから」
マーナと呼ばれた女性は端正な顔立ちに淡い水色の髪をポニーテールで纏め、他の団員と同じ灰色のローブを着用していた。そんな彼女は、青年の目を見て間違いない、と念を押した。
「そうか……了解した」
それだけ言って、マーナと話していた銀色に光る鎧を着込んだ団長と思わしき男は声を上げる。
「総員、計画を一部変更する」
それを聞いた調査員たちは一斉に男の方を向く。
それと同時に、困惑した声がピタリと止み一時の静寂か訪れる。
「マーナの術式の対象は確かに彼だ。よって、ひとまず彼を回収し、保護する。医療班は彼が目を覚ますまで彼の容態を注視しておくこと。その後魔術班で洞窟の中に火炎弾を放つ。あの害虫共を炙り出し、奴らを叩く。青年の回収と火炎弾の準備が終わり次第、作戦を実行する。各自、作戦に備えよ!」
「「ハッ!!」」
激励にも近い伝達で困惑が吹っ切れた調査員達を銀色の鎧の男が眺めた後、しばらくして自らも準備に取り掛かろうとすると、男の元に再びマーナが不満げな表情をしながら寄ってくる。
「団長、正気ですか?ここの森には人間に害の無いどころか、友好的な生き物だっているんですよ?火炎弾の行使を許可するなんて……万が一火が燃え移ったらどうなるか」
「その点は問題ない。俺の方で対策はしておく。絶対にその事態は引き起こさせやしない。それに、新しい兵器のデータをとっておけば工房や研究所は大喜びだ。あいつらに1枚貸しを作れるいい機会だ」
男の言葉を聞いて合理的だと思いながらも、不安を拭いきれないような表情を浮かべマーナは男に背を向け、準備に取り掛かる。
「ひとつ聞きたい」
青年の元へ向かおうとしたマーナを団長と呼ばれた男は引き止める。マーナが振り返ると、団長本人も準備を始めながら問いを投げかける。
「あの青年……どう見る?慧眼のお前だ。何か分からないか?」
マーナは横目で青年のいる方を見ながらワンテンポ考えて、苦し紛れに言う。
「さぁ……ただ、あの制服はどの国でも見たことはありませんし、そもそもここ一帯は立ち入り禁止区域に指定されているのであの洞窟から出てくること自体がイレギュラー。見当もつきません正直お手上げですね」
話題となった青年の方を向いたマーナは少し残念そうな表情を一瞬浮かべた後、スタスタと洞窟のある方に小走りで行ってしまった。
その姿を見届けて、男は作戦の準備に精を入れ、同時に部隊の準備も整うのを待つのであった。
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(全く……あの団長さんも、冷たいというかなんというか……にしても、実際あの子はなんであんな所に……神様の思し召し……なんてね)
先程の会話からそう経っていない頃、男から言い渡された作戦と問に対する回答に少しの不満を覚えながらも団長の元から医療班によって洞窟からは500mは離れた仮設キャンプに運ばれた青年の元に向かっていた。
作戦を変更しないと戦闘に参加はしない、と一思いに言ってしまいたかったが、合理的だと思ってしまった自分もいる上に、マーナには戦力として大きな意味を自分がもっている自覚があった。
そのため自己の離脱は団の面々に多大な負担をかけるものだとわかりきっているので言い切ることも出来ないのが痛い点だ。
少し足を早めて医療班の4人に囲まれた青年の元に急ぐ。木々の間にキャンプが見え、更に足を早くする。
キャンプを構成しているテントの中のひとつに入り、中で容態を簡易検査していた4人と顔を合わせる。
「皆さん、お疲れ様です。えっと……名前がわからないや。彼の容態は?」
そう言われて4人の中の1人が1枚の髪を手渡す。
そこには青年の状態をまとめられており、一通りの報告書のようだった。マーナはそれを受け取ると、スラスラと読み進めていく。
(どれどれ……。黒髪黒目か……中々珍しいね……。?外傷が……無い、上半身も服が汚れているだけ。下半身も糸の酸で足が溶け始めているだけ……。これも多少治癒をかけてどうにかなる程度……。靴が溶けただけにしてもアイツらがウヨウヨいるっていうのによくこんなに綺麗な体を保ったまま洞窟から出てこれたな……よっぽど運が良かったんだね、君は。とりあえず、グランヘイムに着いてからしっかり事情を聞かなきゃだね)
「我、其の束縛を解かん」
青年に手を当て、マーナは傀儡化の魔法を解除する。
仄かな光が青年の閉じた目の中から浮かび、砕け散った。
「とりあえず、傀儡の呪術は解いたからじきに目を覚ますはずよ。とりあえず私は前線の様子を見てくるから、彼のことはよろしくね?」
4人はこくりと頷き、それを見たマーナはテントを出ていき、洞窟の方向へ向かうのだった。
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前線に到着し、改めて標的が住処としている洞窟を観察するマーナ。
洞窟の口は完全に色が真っ白になり、その糸が余すことなく張り巡らされているのがよく分かる。
中からは地球で言う硫黄のような強烈な臭いが洞窟の周囲に漂い、鼻を刺す。
準備命令から15分ほどが経過し、戦闘班、魔術班も大方の用意が整い始めた。
あと少しで洞窟内にひたすら火炎弾や炎系統の魔法を撃ち込む制圧戦が始まる。
マーナは少し考えた後に気づいた。というより、あるひとつの質問に至った。
(もし……まだ彼以外に人がいたら……!?)
もしそれが是だった場合、自分たちはなんの罪もない人を知らなかったとはいえ見殺しにした上で一方的に焼却することになる。
マーナはそれを考えた途端に冷や汗が止まらなかった。切迫した顔つきで洞窟内部に対して探知の魔法をかける。
すると、考えていたような最悪の事態は起こらないような結果が返ってくる。結果として、人間の反応は一切無かった。
しかし、マーナの緊迫した表情はやわらぐことはなかった。
人間ならざるこの洞窟の主とその群れと思われる大量の反応が映し出されたのだ。
そしてこの結果は、魔法を使った自分しか感知できていない。
最悪の予感を纏った地鳴りが、洞窟から響いてくる。当然、他の調査員たちは準備に手一杯で全くこれに気付いていない者がしかいない、という事実が更にマーナを震えさせる。
「総員!今すぐ洞窟に注目!臨戦態勢を取れ!魔術班は直ちに詠唱を開始せよ!」
「!? 戦闘班!至急迎撃陣形を取れ!射撃班も魔力弾を込め終わったモノを各自装備!何時でも撃てるように!」
緊急事態が起こったことを全力で吠えたマーナは全力で走り始め、所定の位置に着く。団長も切迫した表情とマーナの言葉からその意味を理解したようで、細かく指示を飛ばす。
それを聞き、団員たちも慌てずに武器を構え、指示通り戦闘態勢を取ったり洞窟から距離を取ったりと様々な行動を取る。
ーしかし、それは全て手遅れであった。
地鳴りは10秒も経たないうちに激化し、すぐにマーナ以外にもわかるようになる。
直ぐにそれは姿を現した。ワゴン車1台をすっぽりと覆えるほどの巨大な体躯。
近くで見ると、オニキスのように真っ黒で光沢のある目。大抵の装甲なら貫いてしまうほどに凶悪な細長い8本の脚をキチキチと言わせながら動かして、醜い魔物は調査員達の前に姿を現した。
「来るぞ!《狂酸骨蜘蛛》だ!」
その叫びと同時に先制攻撃と言わんばかりに、狂酸骨蜘蛛達の腹の先から真っ白な糸が一斉に発射され、粘度が高い以上に厄介な性質を持ったそれは洞窟周辺の足場を劇的に悪化させた。
それに負けじと、調査員達も迎撃を始める。
魔法による火炎の塊。風の刃。人が1人閉じ込められるほどの氷塊、そして団長が使用を許可していた火炎弾も、準備が完了した銃身全てが撃ち放れ、弾丸の中の「形を持った炎魔法」が蜘蛛達の体を貫き、燃やし尽くす。魔法や弾丸は狂酸骨蜘蛛を捉え、確実なダメージを与えていくが、
「ひっ、ひぃぃぃ!!グッァアァa○@&……」
「オォァアァ…………くっそ、がぁ……」
当然、調査団側の被害も甚大であった。
狂酸骨蜘蛛の糸。それは名前の通りとんでもない酸性を宿していた。その強さはおよそ王水の数十倍。
結果、糸に少しでも触れると服を着ていようがその点からどんどん溶けてゆき、最後には体全体を溶かし尽くすという事態を招く。しかもそんな代物が時速50kmは出ているであろう速度で大量に飛んでくるというサブオプション付き。
前衛を担当していた戦闘班は、中々に善戦を繰り広げるも、狂酸骨蜘蛛の圧倒的な数に物量で押されていっていた。
最初は前衛の調査員が全員生きていたからこそヘイトが向いていなかった魔術班の面々にもわずかに糸塊が飛んでき始めている事実が、更に調査団員達を恐怖の渦中へと引きずり下ろす。
その恐怖に包まれている者の中には、自分も魔術班として魔法を行使し、蜘蛛を葬っていたマーナも含まれていた。
その景色は初陣であったマーナに忘れがたい地獄を次々と刻み、精神を削っていく。
酸によって全身がドロドロに溶けていく仲間の死に様が。
死にたくないと必死にもがき、顔面を貫かれる同胞が。
その両方を食らい、もはや人型を無くしてしまった亡者が。
「あ、ぁあ……この身、魔に喰らわれようとも!!炎華の花畑!!」
既存の魔法を自らがアレンジして威力を増強したモノの中にマーナの得意分野である呪術を組み込み、著しく破壊力を増したマーナの最高火力魔法は、詠唱者から魔力をごっそりと奪い取り、それに見合う量の醜物の殲滅と共に周囲を焦土へと変貌させる。しかしそれは半狂乱の中で放たれた、蜘蛛以外のことを完全に考えられていない一撃であり、
「止せ!そこまでの炎を出されると、俺でも制御が効かない!お前が懸念していた通りになるぞ!」
前衛部隊の数少ない生き残りである団長が叫ぶが、もうとっくのとうに遅かった。
木々に炎は燃え移り、洞窟の周囲を炎が包み込む。当然、蜘蛛達にとっても痛手だった。
甲高い音を上げながら絶命していく蜘蛛は何十匹といた。
脚を全て切り落とされて這いずり回る個体もいた。目を潰され、顔を紫色の血塗れにした個体もいた。腹を切り裂かれ、糸と混ざる前の酸の原液を撒き散らして死んでいった個体もいた。
ーそれでも、蜘蛛達を全て殺すには足りない。
圧倒的すぎる数の暴力が、数少なくなった調査員達を追い込んでいく。
まだ産まれてから数日から数週間しか経っていないであろう蜘蛛達も現れるようになり、その小回りの良さとスピードに終始惑わされ、そのまま喉を噛まれて死ぬ者もしばしば。
そしてその魔の手は、マーナにも当然伸びてくる。
文字通り狂い踊りながら自身の体に過ぎた魔法を連発し続け、その度に口から血を流していたマーナは、ついに文字通り蜘蛛の糸にかかってしまった。酸の侵蝕が始まり、苦悶の表情を浮かべ、絶叫を上げる。
そして魔法も撃たなくなったただの隙晒しを、同胞を殺戮した悪魔を、蜘蛛達が見逃すことも無く。
自らの足を溶かされている痛みに悶絶し、地面に転がるマーナの右腕の付け根と、左足の付け根に一体の蜘蛛が1本ずつ脚を突き刺す。真っ赤な血が吹き出し、いよいよマーナの発狂状態が極点に至る。
ーそしてそのまま突き刺した脚をぐるぐると回し、マーナの右腕、左足を生々しい音と生ぬるい鮮血とともに引きちぎった。
「あっ」
断末魔を上げていたマーナは、2本が千切れると同時に静かになった。これには残り8名となった調査団員達も思わず目を落とした。
先程まで活き活きしていた彼女が、こんなにあっさり死ぬのかと。彼女ですら死ぬのかと。
それは、他の調査員達が思考を放棄するのに十分な理由であった。……1人を除いては。
炎の影響を完全に無視しながら、整えられた金色の髪を揺らし、剣に青い炎を纏わせ狂酸骨蜘蛛を切り裂き続ける団長ーサウル・ネルグレスーだけは、冷静さを保っていた。
炎の中、歯を食いしばり鎧を魔物の血で染め敵を討伐する姿は、見る人によっては勇者を想像する者も少なくないだろう。
「周囲に炎が充満してる以上、"蒼炎"に割く力は少なくても済むが……」
独り言を呟きながら、目の前から突っ込んでくる蜘蛛を見つめ脚を切り落とし、両目の間から剣を入れて体を真っ二つにする。
降りかかる酸は、炎で蒸発させて対処。
鮮やかなまでのその動きは、訓練の賜物なのか天性の物なのか。
しかし、今のままでは間違いなくサウル諸共全滅するだろう。
状況としては、現在調査団はなんとか残っている5人で蜘蛛を狩っているが、一方狂酸骨蜘蛛は今見えるものだけでも、小さいのを入れると30はいることに加え、蜘蛛が学習を始めているのかサウルではなく他の調査員達を狙い始めているというのもあってサウル1人ではカバーが利きづらくなってきていた。結果、案外早くその時はやってくる。
サウルが唯一生き残っている術師を助けているべく、接近してきた狂酸骨蜘蛛を戦闘不能にすると、横から鈍い衝撃が胴体から走りだす。鎧がメキメキと音を上げ、その衝撃のゆくままにサウルの体は吹っ飛ばされ、木の幹に激突。鎧越しとはいえ背中から走った痛みはかなりなものだったのか、思わず燃え盛る剣を手放す。
「ッ……!まだ!!」
そう言って叫び、予想外の痛みから閉じていた目を開けたサウルの眼前には、自らを吹っ飛ばしたであろう蜘蛛の前足がサウルに向けて放たれていた。しかも奥を見ると、もう一本の足も保険と言わんばかりにサウルへ向けて突き刺しにかかっていた。
(こんな……ところで!!)
脅威と感じていたサウルが死にかけている、という事を悟ったのか、他の調査員達と相手取っていた蜘蛛達も一斉にサウルの方へと向かう。間違いなくオーバーキルだろう。
四人の調査員達も限界の様子で、サウルに群がり始める蜘蛛を払いのける力など残っていなかった。
炎の中の、全員が終わったと感じた。
戦闘中、決して怯まなかったサウルでさえ来る痛みに備え目を瞑ってしまっている。
ーそう、炎の中の人は。
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狂酸骨蜘蛛と調査団がぶつかる少し前、具体的に言うと、マーナがテントから去っていった5分後。
制服の青年は、その目を覚ました。
「気づかれましたか。こんにちは」
「こ、こんにちは……」
状況が何一つ理解できない。たしか僕は、と思いだしうる最後の記憶を思い出す。
そうして出てきたのはアスファルトと激突した時の痛みと、最後に屋上から眺めた大して綺麗でもない夜景だった。
(僕なんでこんな森にいるの?)
率直かつ当然の疑問である。とりあえずなぜか自分は手術台のような所で寝転んでて4人くらいのローブを人達に囲まれている、という視界からの情報を何とか整理する。
しかも髪の色が全くもって自分の見知った色では無かった点も中々に混乱したポイントだ。
「すいません、ここって……」
「ここはネルーの森。アルツヘイムという国の領土です」
ネルーの森??アルツヘイム??なんだそれ??
青年は聞いたこともないような単語に頭の中が混乱する。知らなくて当然も当然だ。そも地球上じゃないのだから。
一応聞いたことには答えてくれるというのが救いである。
そんな見るからに?が頭上に浮かんでいる青年に、別の班員が質問を投げる。
「そういえば、ちょっと話しはずれるけど、あなたの名前はなんていうの?私はフィイっていうの。よろしくね」
そう言って微笑むフィイ。
……明らかに自分の常識外の事態が起きていることを再認識する。そして、自分も名を名乗るくらいはしておかなくては、という意識によって再び喉を動かす。
「僕の名前は、薙村 遥弥って言います。よろしくお願いします」
「うん。よろしくお願いします」
律儀に返すフィイ。更に、沈黙していた他の医療班も遥弥に話しかけ始める。
「遥弥さん。とりあえず、君の身柄は保護させてもらう。基地に着いたらゆっくり身の上話とか聞かせて欲しい。それまでは、とりあえずゆっくりしておいてくれ」
思わず会釈する。寝転んでいた台から降り、地面に足をつけると、地肌に土の冷たい温度が伝わってくる。
「すいません、僕の靴って……」
「ごめんなさい。あなたの足は簡単に治療できたんだけど。物の再生はちょっと専門外で……」
フィイが申し訳なさそうに返答する。
その答えに遥弥は今日だけで何個できたかもわからない疑問が浮かぶ。
「足の治療……?何を治したんですか?」
その質問にフィイが答えようとした瞬間、テント越しにでも分かるくらいに、外が猛烈に明るくなった。
それが森の木々が燃えているからだということにもすぐに気づいた。
医療班の面々はすぐにテントの外に出て、これに対してどう行動するかを各々の感情を顔にしながら言い合っている
「明らかに演習で見た魔力弾の火力じゃない……一体、何が……」
「考えてる場合じゃない!とにかくこうなってるってことは戦闘が始まってる!しかも相当計算外なことが起こってる……とにかく、治療魔法の準備をして行かなくちゃ!」
どうやら意見はすぐに纏まったようで、4人は救急セットと思わしき箱と、木製のような見た目に装飾品が施された杖を持ってすぐに炎が上がった方へ駆けて行った。
「遥弥さん!とにかくあなたは!このテントの中にいてください!すぐに戻ってきますから!」
ここにいろ、ということを言い残した男性は4人の最後尾に着いて走っていってしまった。
「無業ノ炉心、真醒起動」
誰にも聞こえない声が響いた。
当然、彼らにも聞こえなかった。
だから彼らは不思議に思うだろう。
その場にいた全ての狂酸骨蜘蛛がなんの前触れもなく、糸が切れた人形のようにその場に崩れ落ちたのだから。
訪れるはずの痛みが来ず、目を開いたサウルはその光景に絶句した。
音もなく、光もなく、ただ次の瞬間には全ての個体が息耐えていたのだから。
四人それぞれにお前がやったのか?とアイコンタクトを送るも、全員が驚愕の表情を浮かべ首を横に振る。
今理解していることが、「自分たちは助かった」ということしか無い木にもたれかかっていたサウルは立ち上がり、周囲の状況を確認する。
いまだ燃え続けている草木、様々な死因の人だったモノ。多すぎる蜘蛛の死骸。
生き残った数少ない調査員達4名。
壊滅状態であっても、自分はこの団の長なのだという思いを胸に、サウルは残っている調査員達の状態を確認しに向かうのだった。
リアフレとの賭けに負けたので多分投稿頻度上がります
あと若干タイトル詐欺なのは許して