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駅家さふらん

道沿いにあるそれはちょっとした砦だった。

建物は10軒ほどだろうか。歴史の授業で習った高床倉庫とログハウスの中間のようなものが綺麗に並び、それを木の柵が囲んでいる。


「道と同じで柵の周りも草木がないな。」

「畑はすこしあるみたいよ。」


ヘーセの指差す方をみると家庭菜園ほどの畑があった。まだ距離があるからなんとも言えないが、建物の数の割に畑が少ない気がする。


「疑問があったら聞くのが一番よ!」

「それもそうか。」


異世界でのファーストコンタクトに俺はワクワクした。




「ようこそ、駅家さふらんへ。ここは帝国の保護下にあるよ。」

「おお!言葉が通じる!ここは未来の日本だったのか!?」


たぶんチートってやつだろうが、異世界人が日本語を話していることに驚いた俺は『猿の◯星』風のリアクションをとってしまった。

集落の門番らしき人は困った顔をしている。


「ごめんなさいね、この人遠くに行っていたから母国語が懐かしいのよ。」

「そうでしたか。どうぞゆっくりお休みください。帝国は旅人の安全を保障し、逆らう者には容赦しません。」


門番はなかなか物騒なことを笑顔で言った。俺はいまさら彼が槍をもっていることに気づいてビビった。ヘーセがとりなしてくれなかったら危なかったかもしれない。


「ふふふ、怖がりすぎよ。帝国は〜、っていうのは公務員の挨拶みたいなものだから気にしなくても大丈夫。この辺は獣やモンスター以外の危険は少ないし、兵隊さんもゆるふわよ。」

「ゆるふわな公務員の兵隊かぁ。」


たまたま空いていた宿の個室に転がり込んでから、ヘーセに気になったことを尋ねた。


この辺りを支配している帝国は、道路整備に熱心で兵隊は荒っぽくなく、しかも公営宿屋が無料というだいぶ穏やかな国らしい。


「でも食事は有料だから、飢え死にしたくなかったらこの駅家で仕事をしないといけないわ!」

「Excelなら得意だよ。」


残念ながら、PCを使った仕事はなかった。

日給制で素人にも出来そうな仕事は街道沿いの草むしりだった。


「駅家さふらん、第3位責任者として『草むしり』を依頼します。魔法袋を貸し出しますのでこれが光るまで草を刈って来てください。帝国は労に報い、盗人を地の果てまで追うでしょう!」


門番よりも飾りが派手な兜を被った兵士から依頼を受けて、俺たちは再び門から出た。夕飯までに稼がないといけないので忙しい。


「頼まれたのはあの辺りだな。」

「それほど草はなさそうだし、楽な仕事ね!」


実際、楽な仕事だった。

芽吹いたばかりの細長い草をぷちぷちと取っていく。あまり根を深く張っていない草ばかりで助かる。


「この世界にはタンポポみたいなしぶとい雑草はないのか?素手でこれだけむしれるのはだいぶイージーだぜ。」

「あの道に使われている石から魔力を感じるわ。だぶん、金剋木(ごんこくもく)ね。」

「それで草木が弱っているのか。」


また俺の脳内に知識が流れ込む。

どうもこの異世界の魔法は五行思想で動いているらしい。五行思想は『ポ◯モン』と似ているが微妙に相性の組み合わせが違うので面倒だ。


「なら、平太郎には魔法以外のスキルを身につけてもらおうかしら!やっぱり男の子なら剣とか弓とか憧れるんじゃない?」

「うーむ、今は腹が減って頭が回らないな。夕食の時にでも考えるよ。」


俺はにこやかなヘーセに背を向けて草むしりに励んだ。だが、内心はそれほど穏やかではない。


ーー世界のどこでも使えると思ってPCの資格を取っだが、ゲイツやジョブズも異世界までは手が回らなかったか。


改めていうまでもないが、俺はだいぶ内気で保守的な男である。良い学校に通い、良い会社に入れば上手くいくと思ってきたし、上手くいくというのは命を削るように生きなくても良いという意味だと思ってきた。


スピリチュアルな体験を経て、ヘーセのことは信頼しているし感謝もしているが、できれば彼女の望むような戦いと冒険の日々ではなく平和と安寧の生活を営みたい。


ーー公務員のゆるふわふわな兵士として雇ってもらえないかな?


個人の力より、組織の力である。

すぐには決断できないが、多少ヘーセの顔を立てて武器の扱いを覚え、それから帝国とやらに雇ってもらうのは悪くないかもしれない。

俺は農業とかの経験はないからな。できれば、バイトの経験を活かせる接客業か事務仕事がいい。


「ちょっと!平太郎!あなたの袋、もう光ってるじゃない!たくさん入れてもお給料は変わらないんだから余りは私の袋に入れて!お願い!」

「はいはい。」


日が沈むまでに俺たちは草むしりのノルマを終えた。ついでにこの世界での方針も決めた。


俺は異世界でも安定志向でいくぞ!

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