04「とんでもない出会いと、興味」
ギルドの店内で冒険者リストを呼んでいたカレン。
次第に、眉間に皺が寄る。
(あんまり、良い人いない……?)
リストには色々な冒険者が載っているが、正直ピンとこない。
酷い記載の冒険者もいる。剣の腕に自信あり、と書かれているが、冒険の実績は近場の藪で宮廷一軒分の草刈りができる、とか。火炎魔法が得意、と書かれているが、火力はどんなに冷たい雪解け水も沸騰させられる、とか。
ある程度腕も実績もありそうな冒険者は長い間旅に出たきり行方知らずだったり、既に傭兵団にスカウトされた記録だけ残っていたりと、散々だ。
「う~ん」
なんだかなあ、と頭を捻った後、ちらりと周囲を見てみる。
女将からは、自分の目で、と言われたが、わいわいと酔っ払い達が談笑している様子しか見えない。
「おい、新しい勇者が決まったって御触れが出てただろ? どんな奴か知ってるか?」
と、傍から聞こえた会話に身を固くする。紛れもない、私のことだ。少し緊張する。
「さあ。初代の時のように、王宮が決めたんだろ? じゃああれだ、あの~、なんとかさんみたいな宮廷騎士だろ」
それは私の父です! アラン・ルステール!
「今回は名前の公表も無しと来た。何か訳あり勇者なのか?」
「そりゃああれだ。二代目が敵前逃亡して、セントアリアスの名を汚しちまったからだろ」
「ああそうか、ソイツのせいでこの街も襲われたからな。もう一年以上は経つか」
「……」
そう、セントアリアスの勇者はカレンで三代目。初代は父だった。
では、二代目はどうなったかと言うと、魔神教団の本拠地まで進んだらしいが、そこで敵前逃亡したのだ。魔神の復活に怖気づいたらしい。
その敵前逃亡の愚をセントアリアスの市民は非難し、二代目の勇者は姿を消した。セントアリアスの国としても、二代目のことはもはや存在したことしか認定していない。
どんな人物だったか、それはカレンもよく知らない。
宮廷騎士団だった時に、選定された二代目勇者を遠目から見た程度。今の自分とそう変わらないくらいの、若い男の子だった気がする。
名前はえっと、確か、ソー……
「よ~う、冒険者をお探しかい?俺なんかどうだい」
ぼうっと考え事をしていると、横から声を掛けられた。
見上げると、坊主頭に傷のある冒険者が酒で酔った顔で立っている。
「んんん? なんだ、子供じゃねえか」
「む……。子供じゃいけませんか?」
「ああ? しかも、女? おいおい、冒険者を探してどこへ行くつもりだい? お花畑か~? そうか、お花摘みか!」
ギャハハと酒臭く笑ってきたその冒険者に、とりあえずカッチーンときた。
「あなたのような貧弱な腕前では到底敵わないような相手のいるところよ!」
「んだと?」
「あなたのような腐った酔っ払いの三下じゃ役不足だから、あっち行っててくれる?」
「なっ、こんガキッ!」
「きゃ!」
すわった目から、露骨に表情を歪めたその冒険者が、カレンの左腕を掴み持ち上げる。
その拍子に、落とした冒険者リストが向かいに座っているフード男のワインをひっくり返してしまった。
「……」
こぼれたワインがテーブルから服に垂れるのを避けるため、フードの男はおもむろに立ち上がる。
「は、離しなさい!」
「へへ、なんだ。口だけかい、お嬢ちゃん。冒険者の真似事なんてしてねえで、お家でお父ちゃんの花畑でも手伝ってな。おっと、お父ちゃんは女の子にお使いさせるくらい臆病で、外には出れないか~?」
「っ! お前ぇっ!」
父を持ち出しての侮辱に、ついに撃鉄が下ろされた。
腰の短剣を一瞬で引き抜く。その剣身は、彼女の身体が帯びた青白い光に包まれている。
もう後は、この冒険者の腕を折って制圧するのみ!
その瞬間だった。
目の前の冒険者が消える。
いや、違う、飛ばされた。立ち上がっていたフードの男によって、蹴り飛ばされた。
「え?」
いつの間にか目の前にはフードの男がいて、
シャアアン! という美しい音を響かせ、腰の剣を抜いた。
「あ……」
抜かれたフード男の長剣、男のくたびれた身なりには似つかない、見たことの無い美しい剣だった。
青い握り、水色と濃紺の鍔飾り。そして、白銀の剣身からは何故か七色の光が零れているように見える。
この間一瞬だが、「きれい」とカレンは思った。
そんな思いとは裏腹、スローモーションのように七色の剣が振り下ろされてくる。
死を感じた本能が無意識に短剣を構えた。
パッキイイィィン!!
気が付いた時には、目の前に七色の長剣の刃があった。
そして、カレンの手には真っ二つに折られた、自分の、短……剣?
「ああああーーーー!!!!」
カレンの大絶叫。
店内の視線が集まる。が、カレンは色々それどころではない。
「えええ? 嘘? うそうそ! 何で!? 私の、短剣……っ!」
「え? あ……いや」
セントアリアス一番の鍛冶職人によって打たれた短剣で、生半可なことでは折れない業物、しかもカレンは本能的に僅かながらの「破力」まで通していた。
加えて言うと、父の持っていたものと同じように打たれた長剣と対となる短剣。カレンにとって愛剣の一つとなるべきものだったのに。しかも、まだ一回も使ってないのに!
たった一振りで叩き折られた剣を涙目で抱えるカレンに、当の剣を折ったフードの男は何故か、自分が行ったことにむしろ戸惑ったような様子を見せていた。
「む、う? ……いや、なんというか……。すまん、失礼する」
テーブルに硬貨を置き、逃げるように立ち去る。
「……あ! ちょ、ちょっと!」
「なんだいなんだい? 何の騒ぎだい?」
「パ、パメラさ~ん! 私の、私の短剣が……!」
「どうしたんだい? 折られちまってるじゃないか。誰にやられたの?」
「誰にって、それは、七色の、剣の、えっと……」
ふと、段々冷静になり、手元の折れた短剣に視線を落とす。
何だったんだろうか、あの男、あの剣。
間違いない、こっちが短剣で防がずとも、あの振り下ろされた剣は寸止めされただろう、こっちが受けた分、剣の位置は遠かっただけ。
自分の未熟な悪い癖で、カッとなると剣に錬力か破力を込めてしまう。
そうしたこの短剣を、こうも容易く叩き折ったあの剣、そして、あの剣筋。
……っていうか、私の短剣!
「パメラさん、リスト、返します! 私、ちょっと出てくる!」
「え? おい、ちょっとカレン!」
そう言うや、カレンは店を飛び出た。
・・・