優しい少年
とある世界のとある国で一人の少年が暮らしていました。
少年はとても優しい心の持ち主で貧しい暮らしでも人を思いやる心を持っていました。
ある日の事です。
少年は傷ついた老婆を目にしました。
道行く人は誰も助けてはくれません。
老婆はとても汚い恰好でしたから、みんな見て見ぬふりをしていたのです。。
困っている老婆に近づくと少年は優しく声を掛けます。
「どうしたの?大丈夫?」と
老婆が返事をする前に少年は傷の手当てを始めました。
「こんな物しかないけど・・・。」
そう言うと自分の服をビリビリと破り傷口に巻きました。
老婆はビックリして声も出ません。
どう見ても少年はお金もなければ、その日食べる事もやっとだと思うくらい貧しそうに見えたからです。
やっと老婆が口を開きました。
「どうしてこんなに優しくしてくれるのか?」と
手当てが終ると少年は老婆にこう言いました。
「みんなが少しずつ優しくなれば、僕は良いと思うんだ。」
老婆は少し微笑みながらお礼を言いました。
「どうもありがとう。」
「おばあさんも誰かに優しくしてあげてね。」
そういうと少年は人ごみに消えていきました。
少年は困っている人を見つけると助けていきます。
お腹がすいて倒れている人を見れば自分の持っている食べ物を渡し、寝るところのない人には自分の部屋を与え、迷子で泣いている子がいれば寂しくない様に側に寄り添っていました。
少年は目に映るすべての人を助けようとしました。
しかし少年がいくら頑張っても一向に困っている人はいなくなりません。
道行く人はあちらこちらで同じ話をしています。
「この国はもうダメだ。王が変わらないと増々酷いことになる。」
それを聞いた少年は王様に会おうと考えます。
「帰れ!帰れ!!ここはお前のような者が来る所ではない!!」
少年は酷い汚い恰好で、すぐに門番に追い返されてしまいます。
「どうしたら王様に会えますか?」
門番は乱暴な口調で
「この国で何かの一番になるか、犯罪者になれば会えるだろうよ!」
少年はその言葉を聞いて考えました。
自分が出来る事で国で一番になれる物を色々思い浮かべます。
学者や商人は学校にも行っていないので無理だし、武芸者もこの細腕ではなれそうもありません。
どうすれば一番になれるのか一生懸命考えましたが思いつきませんでした。
そこで少年は犯罪者になれば早く王様に会えると考えました。
少年は盗みをしようと考えました。
しかし、優しい少年は誰かが困る事が出来ません。
誰にも悲しまなくて済む犯罪はないのか考えましたが、どんなことをしても悲しむ人がいます。
このままでは王様に会うことは出来そうもありません。
困っている人を無くしたいのにあまりに少年は無力でした。
道の片隅でうずくまって途方に暮れていると綺麗な恰好をした女の子が前で立ち止まりました。
すると銅貨を一枚、目の前に置いていなくなりました。
少年は追いかけて返そうとしましたが少女に声をかける事が出来ませんでした。
銅貨を握りしめると涙がこぼれ落ちてきます。
ポロポロ、ポロポロと悲しくないのに涙が止まらないのです。
その日を境に少年は優しさを捨てました。
優しいだけでは誰も救えない事を知ったのです。
月日は経ち
優しさを捨てた少年は、青年になり犯罪者になっていました。
盗みを繰り返し手に入れた金銭は全て困っている人に分け与えていました。
いつしか、一人、二人と仲間が増え気づけば100人を超える盗賊団になっていました。
青年はもう食べるのに困らなくなっていました。
ある日の事いつもの様に盗みに入ると罠に掛かり捕まってしまいました。
牢屋に入れられ数日が経ち王様の前に呼ばれました。
王様の隣で文官が罪状を読みあげます。
「罪状・・度重なる窃盗の罪により死刑。」
「最後に何か弁明があれば発言を許す。」
どうしても王様に聞きたいことが青年にはありました。
「どうして・・・この国で一番偉い王様は困っている人や貧しい人をそのままにしておくのですか?」
すると王様は言いました。
「小さな虫を踏んずけて君は気にするのか?」と
確かに気にはしません。
言われて青年は納得しました。この国はもう終わりなんだと。
青年の処刑が行われる日、処刑場には国中の人が集まりました。
青年が連れてこられると集まった人々は一斉に拍手をしました。
青年の近くに居た人は感謝の言葉を叫んでいます。
「あの時助けてくれてありがとう!俺も少しだけ人助けしてる!!」
老婆と一緒にいる女性が何か叫んでいる。
「ここに集まった人は貴方が助けた人がまた誰かを助けそうして集まった人たちよ!!」
大きなギロチンに繋がれると青年は目を閉じました。
叫び声や拍手で騒がしいはずなのにとても静かに思えました。
青年は静かに言いました。
「優しさをありがとう。」