自業自得の結果
家族やユノから心配されながらもようやくベッドから出て、普通の生活が許された頃、ミイナ様がやって来られました。ミイナ様は私が癪気体に襲われ倒れる所を目の前で見てしまった影響で、驚きのあまり体調を崩されていたようです。本当に、申し訳ない気持ちでいっぱいですわ。そして、これまでありえない程に失礼を働いていたので、しっかりと謝らないといけません。
今、私とミイナ様は前回と同様に私の家でお茶を楽しんで(いる風にセッティングされて)おります。私は何と話しかけたら良いだろうかと迷っていましたが、覚悟を決めました。
「ミイナ、様。今日はお越し下さって本当にありがとうございます。お体の具合はもうよろしいのですか?」
「え?・・・ええ・・・はい」
「良かったですわ。・・あの、ミイナ様。私、これまで本当にたくさん、ミイナ様を傷つけてきたと思うのです。ワガママで傲慢で・・。本当にごめんなさい。とても反省しています。もう、以前のような事は致しませんわ。信じて頂けないかもしれませんし、許してもらえないとは思いますが・・本当に、ごめんなさい」
とにかく謝ろう、という思いで話すと、目の前のミイナ様は何が起きているのか分からない、といった表情で目を見開いておられました。そりゃそうですよね。ついこの前まで呼び捨てで呼ばれ、一方的に敬語ですらなかったララリアが、まともな令嬢のように振舞っているんですから、意味が分からないですよね・・。
どうしたら良いんでしょう、と思っていると、突然ミイナ様は見開いていたターコイズブルーの瞳から涙を流され始めました。
「えっ?ミイナ様?」
「ふ、、ふぇっ・・・ララリアさまっ!・・ふぇっ、すみません。な、ないて、しまうなんて、ほんとうっにっ・・っ!」
「いえ、構いませんが・・大丈夫ですの?」
「は、はい。すみません・・。あの、驚いてしまって、その、まさかその様な事を言って頂けるとは思ってもいなかったので・・。私こそ、あの日、1番近くにいたのに・・助けられず本当にごめんなさい」
「そんな事・・ミイナ様が気にされる事ではありませんわ。100%私の自業自得ですもの」
「わ、私・・あの時一瞬、あの・・黒い何かがララリア様を襲った時・・『自業自得だ』って・・思ってしまって・・。私は土属性ですから何か少しでも助けになるような魔法が使えたかもしれませんのに・・本当に、ごめんなさい、っ!我に返った時にはララリア様は倒れていて・・どうすれば良いのか分からなくて、叫ぶ事しかできなくて・・・。体調を崩していた事も事実ですが、私が動かなかったせいで今のようなお体になってしまった事を責められるのが怖くて、申し訳なくて・・会わせる顔がなくて・・」
それからミイナ様は俯いたまま、静かに涙を流されていました。きっと罪悪感とか、申し訳なさとか、自己嫌悪とか、色んな感情でぐちゃぐちゃになっているんでしょうね。
「ミイナ様。もう一度言いますが、ミイナ様のせいではありませんわ。完全なる自滅、というやつですわ。だって、あの時の私、最悪でしたもの。ミイナ様には多すぎる程に失礼を働いていますし、謝るべきは私のみですわ。ですから私がミイナ様を責める事などありませんし、ミイナ様がその様に悩まれる必要などありませんわ。欲を言えば、悩む代わりに私とお友達に、なって頂きたいのですけれど・・やっぱり無理ですか?」
「いえ・・いえ!ありがとうございます。私もララリア様とお友達になりたいです」
ララリア・ガーベル、現在9歳。やっとお友達ができました。
そんなこんなで、弟のリグドやお友達のミイナ様とも仲良くやっていけそうだな、と安心していた時、ユノから来客の知らせが入りました。
「ミイナ様以外に私に用のある人なんて・・・・・・・あ!!!」
「お嬢様、お気づきかと思いますが、ハロルド・コスモ様がいらっしゃいました」
「ユノ・・本当に、ハロルド様がいらっしゃったの?」
「はい。実は数日前に公爵家の皆様がいらっしゃるという知らせが来ておりましたが、奥様からお嬢様には当日まで知らせぬように言われておりましたのでお伝えする事ができず、申し訳ございません」
「いえ、良いのよ・・って、え?ハロルド様だけではないの?」
「はい。本日はコスモ公爵夫妻もいらっしゃっております」
ハロルド様とお会いするなんて1年ぶりではなくて?なんて考える暇もなく、コスモ家の皆様が集まっている応接間へと急ぎました。お母様・・、言ってくれれば良いものを・・。でもきっと、それはお母様の優しさですわ。なぜならコスモ家の皆様は今日、私に婚約破棄を申し入れる為に来たんですから。
まあ、余命宣告までされてしまった令嬢など、政略結婚の駒にもなりませんから、婚約破棄の申し入れはある意味当然です。しかし乙女ゲームのストーリーでは、私はこの申し入れを断ります。何と言ってもあの性格ですからね。そう易々と受け入れる訳がないのです。コスモ家も愛のある家ですから、癪気体に襲われた私に同情もしてくださって、気持ちが落ち着くまではこのままでいよう、みたいな約束を取り付けて16歳に至る、という事です。
私自身は無意味な駄々をこねる事などしないと誓っていますし、以前よりは婚約者であるハロルド様への興味や好意も薄れていますが、婚約破棄、という言葉には身構えてしまうものがありますね・・。
1階にある応接間のドアを開けてもらうと、私の両親の座るソファーの反対側にコスモ公爵家の皆様がいらっしゃいました。