仲良しになりましょう
『ヒロインと仲良くならなくても侯爵家の権力でヒロインを呼んで助けてもらえるのでは?』と考えたそこのアナタ、残念だけどそういう訳にはいかないのです。
光属性の持ち主が私の体の中から癪気体を取り除く場合、大量の光属性特有の魔力の気を体内に流す、所謂、魔力供給をしてもらう必要があります。光属性の方の魔力の気というのが癪気体の弱点らしく、一度に大量の気を体内に流して頂く事で、癪気体が光の魔力に負け、体内から消滅していく、という流れになるそうですわ。そして癪気体が消滅する程の魔力供給が出来るのは100年に1人とも言える程の魔力量を持つ光属性の方のみで、現状ヒロインちゃんしか可能性がない、という結果になります。(まだ出会っていませんが・・)
そんなヒロインちゃんの魔力を私の体内に流して頂く場合、ヒロインちゃんはある意識操作をする事が必要となります。自分の魔力を大量に他人へ流す訳ですから、無意識にはできない、という事です。その意識操作を行う際、前提条件としてヒロインちゃんが私を心から助けたいと思い、私もヒロインちゃんを心から信頼している状態が望まれます。ヒロインちゃんと私、どちらか一方でも気持ちに嘘が入ってしまえば、癪気体を消滅させられる程の魔力を流す事はできません。つまり、私を救ってくださる可能性のある方とは、数カ月から数年に渡って、信頼関係を築く必要があるのです。幸いにもヒロインちゃんは同じ王都魔法学園に通う事がストーリー上決まっていますから、少なくとも学園にいる3年間という時間があります。私はその間になんとかヒロインちゃんと仲良くなり、信頼関係を築かなければなりません。私も自分の命が大切ですから、嫉妬などというもので苛め抜くなど、もっての外ですわ!
本当ならば今すぐにでも仲良しになる為にヒロインちゃんとお会いしたいのですけれど、本当に残念な事にヒロインちゃんのお名前も、何も分からないのです。現状何の手がかりも得られないので、16歳になって王都魔法学園に入学するまでに仲良しになる、という密かな目標はあっさりと砕けましたわね・・。
ああ、そういえば、アーケイン先生に余命宣告までされてしまってから、両親の私への溺愛ぶりに拍車がかかり、弟にますます嫌われてしまったようで悲しいです。3歳下の弟、リグドは私が倒れていた事は知っていますが、癪気体や寿命の事は教えていません。倒れて高熱を出した際はさすがに驚いたのか、起きた時には涙を流して喜んでくれましたが、普段はほとんど交流のない姉弟で、以前から私の傲慢な様子を恐れていたようですわ。今はそんな態度をとる事はありませんが、優しい両親を取られたと思っているようです。私としてはせっかくの弟ですから、仲良しになりたいのですけど、不仲の原因とも言えるものが全てララリア側にあるので今更『さあ仲良しになりましょう!』なんて言い難いですわ・・・。
と、そんな事を両親とユノの過保護ともいえる配慮からもはや定位置になりつつあるベッドの上で考えていると、『コンコン』と部屋のドアをノックする音が聞こえました。そう、ユノまでもが私に対して過保護になりつつあるのです。私としては現状元気ですので早く外に出たいのですが・・。あら、話が逸れましたわ。
「誰かしら?」
ユノに頼んでドアを開けてもらうと、そこには弟のリグドが立っていました。
「リグド?どうしたの?」
「お母様から、リアお姉様はまだ体調が優れないと聞きました。お姉様が元気にならないと、お母様もお父様も悲しんだままです。なので、早く元気になってください」
そう言ってリグドはおずおずと私に花束を渡してくれました。
「まあ・・。バラですの?とても綺麗だわ。ありがとう」
「庭師が作ってくれたので」
「そう、後でお礼を言わなければね。リグドも、心配してくれてありがとう」
私が自分では気に入っているオレンジ色の瞳を優しく細めてお礼を言うと、同じオレンジの瞳をしたリグドは少し驚いたような表情をしました。
「お姉様は・・ご病気なのですか?」
「あら、どうしてそんな事を思ったの?今はベッドの上にいるけれど、これはお母様達が過保護すぎるだけよ。本当はとっても元気なのよ?」
「そうですか・・。お姉様がそんな風に優しい笑顔をなさるなんて、信じられなかったので・・・。よっぽどの事があったのかと思いました」
「私だって笑ったりくらいするわよ」
この子は勘の鋭い子だな、と感じつつも、なんとなく、ふつうの姉弟らしい雰囲気になってきたのではなくて?と思っていると、リグドが何か言い難い事を打ち明けようとしているような表情をしていましたわ。
「リグド?どうかしたの?」
「リアお姉様・・。実は僕、ずっとお姉様の事を避けていました。遠くから見るだけでも何だか恐ろしい存在のように思えてしまって・・。血のつながった姉と弟なのに、お姉様から逃げていたのです。本当に・・ごめんなさい。この前お姉様が倒れられた時、とっても後悔しました。お母様やお父様と違ってリアお姉様の事を何も知らない僕では、何の役にも立たないと思い知りました。僕は、僕の周りにいる人くらいには・・・特に家族くらいには役に立つ人間になりたいです。だから、リアお姉様、僕はもうお姉様からは逃げませんから、何でも話してください。」
「・・ありがとう。私、今まではとってもワガママだったの。だからあなたが私を避けるのも当然の事だったと思うわ。これからは私はワガママな事は言わないって誓っているから、姉弟として仲良しになりましょう?」
「・・!はい!」
両親を私に取られて拗ねている、なんていうのは私の思い違いだったようですね。そしてすべてを打ち明けてスッキリした表情のリグドは私のベッドの傍にある椅子に座って、お互いの事を知る為に色んなお話をしました。