何が起こっているの?!
ミイナとの楽しくもないお茶会が終わろうとする頃、近くの庭園から、『ガサ・・ガサ・・・』という不気味な音が聞こえてきました。
「どなたかいらっしゃるの?」
「ララリア様、何か聞こえたのですか?」
「ええ、少し。ここがあなたの家なら不届き者の可能性を考えるけれど、我がガーベル家に限ってそんな事はあり得ないわ。・・動物かしら?うちでは馬以外の動物はいないはずなのだけれど」
猫やウサギが迷い込んだのかしら?なんて考えて、私は庭園の音のする方に近づきました。すると先ほどの音はやはり真実であったようで、何かがそこにいるようでしたわ。
「ララリア様、小さな動物であったとしても侍女を呼んだ方がよろしいのではないですか?」
「うるさいわね。私は私のやりたいようにするわ」
そして不気味な音のする方にどんどんと近づくと、突然、目の前に大きな黒色の塊のような存在が姿を現して私を見下ろしました。次の瞬間、私は意識を失って倒れ、仕方なしという風に後を付いてきたミイナの叫び声が、ガーベル家の庭園を駆け巡ったのです。
私はその後5日間、意識を失ったまま眠り続け、やっと目覚めた時には両親と3歳下の弟に泣いて喜ばれましたわ。けれど私はうまく状況が理解できませんでしたの。
「ええっと。何が起こっているんですの?」
「リア!私の天使!!無理をして話さなくて良いんだよ。君の状態は今でも思わしくない。1つずつ説明するから、聞いてくれるかな?」
お父様に真剣な顔でそう言われ、私は頷きました。
「リアが5日前に襲われたのは癪気体という悪の化身とも呼ばれているものなんだ。ただ癪気体は約300年前に殲滅されたと言われてきたからね、なぜ今うちの庭園に現れたのか、全く分からないんだ。そしてリアを襲った癪気体は今もリアの体の中にいる」
「今も、ですか・・?ですが痛みなどはありませんわ」
「癪気体について詳しい事は今はまだよく分からないんだ。体の中にいる、という事がリアにどんな影響を与えるのか、もう少し詳しく検査をしてもらう必要がある」
「そうですか・・・」
お父様とのお話は、私のベッドを囲む家族の顔を一層暗くさせていました。私はというと、返事をしながらも『癪気体』という言葉が何故か聞き覚えがあるような気がしてどこで聞いたのか思い出そうとする事に集中してしまって、正直きちんと受け止められたかというと微妙な所ですわね。
「癪気体・・?私、ララリア・ガーベルが?癪気体・・・??」
独り言のようにぼそぼそと話す我が娘を不憫に思ったのか、お母様が泣きながら抱きしめてくださった正にその時、私の頭の中を私の9年間の人生では見た事も聞いた事もないような映像が流れこんできましたの。
「・・・うっ?なんなの・・何が起こっているんですの?!」
そのまま私は高熱を出し、さらに2日間寝込む事になりました。
高熱にうなされながらも、私は流れこむ映像を解析しましたわ。そして分かりました。あの映像は、私が前世でプレイしていた乙女ゲームなるものだと!タイトルは『フラワーロマンス』、そして例のごとく私は悪役令嬢なるポジションだと!流れ込んできたのはゲームの内容だけではなく、前世の私の生活もなんとなく分かりましたわ。前の私は普通の庶民で、乙女ゲームが大好きだったようですわね。まあ多すぎる情報を前に半分理解する事を諦めながらも、ふーーん、なるほど。なんて思っていた私の頭の中に、ひときわ大きな前世の私自身の叫びのようなものが流れましたの。
『ララリア最低だけどさ!!!!いくら何でも余命宣告までされてるララリアを国外追放はやめとけ!!!!』
・・・・・・。
・・・・・・・・・え?????
ララリア・ガーベル。現在9歳。傲慢な悪役令嬢でありながら癪気体に襲われ、この後余命宣告される上に最終的には国外追放されちゃうみたいですわ!
いや、無理です!!!!!!!!
私はやっとというべきか、これまでの自分とは180度変わりました。
なぜなら、これから先、あのシナリオ通りに進む訳にはいかないからです。