強制力は働いていた?【あやめ受験生時】
本当の二人のファーストコンタクト。
「ここを上がった先が受験会場だ。あと15分で試験が始まるから急いだほうがいい」
「…あ、ありがとうございます」
本命の志望校の入試会場で私は違和感を覚えた。
ここじゃない、と。
理由はわからない。
取り敢えず私の勘が叫んでいるのだ。女子校がお前の居場所だから逃走しろと。受験をエスケープしてしまえと。
私は元々この高校に入りたかったのだけど、その時は何故か受験放棄をしようと思ってしまったのだ。
「それじゃ!」
「!? いやだからこの階段を上がったところだと」
「気づいたんです。私の居場所は女子校だと! 私の勘がそう言ってるんですよ!」
「はぁ!?」
「もう女子校受かってるんで大丈夫! 問題ない!」
案内してくれた在校生には悪いが、こういう時の直感は大切にしたほうがいいと思うんだ!
私は今来たばかりの道を引き返そうと踵を返したのだが、ガシッと腕を掴まれて先へ進むことが出来なかった。
「……? なんですか…?」
「そんな不思議そうな顔されても困るんだが。……この日のために受験勉強を頑張ってきたんだろう?」
「んーまぁそうなんですけどね。なんか違うんですよねー」
この人近くで見てもクールそうなイケメンだな。弟や幼馴染に負けてない。
……なんか何処かで見た気がしないでもないけど同じ中学ではないな。いたら有名人になってそうだし。
「とにかく。受けるだけ受けろ」
「あっちょっ何するんですか!」
彼はずりずりと私の身体を引きずり、途中の階段では『絶対に登らん!』と拒否する私を子供のように抱っこして運搬した。
女の子に対する扱いじゃない! なんなのこの人お節介!
試験開始5分前に会場に到着させられた。
「ちょっと!」
「頑張れよ」
「私は女子校に」
「君、もうすぐ試験の説明が始まるから受験番号の記載された席に着きなさい」
「………」
私を受験会場に押し込むだけ押し込んだ在校生は私に激励の言葉を投げかけるとクールに立ち去ってしまった。
登場が派手だったため、私は他の受験生の注目を集めていた。試験官から席に着くよう指示されてしまったので、私は渋々受験することにした。
わざと白紙で出そうかな? と思ったんだけど、なんか…それは出来なかった。
ここに入るために私は死にもの狂いで勉強したのだ。
いじめっ子たちと同じ高校に入りたくないというのもあったけど、見返してやりたかった。
弟や幼馴染と比べてくる有象無象たちに、私は決して劣っているわけじゃない、やれば出来るんだって。
だから、ベストを尽くした。
……なんで私、受験放棄しようなんて思ったんだろう。
私の居場所じゃないって…どういう事?
ーーー4月
「あやめ? まだ準備終わらないの?」
「………」
「終わってるならもうそろそろ出ないと入学式に遅れるわよ?」
「……なんかさぁ私、女子校のセーラー服のほうが似合う気がするんだけど」
「何言ってるの。ブレザーも可愛いじゃないの。ほら行くわよ」
入学式の朝、真新しい制服に腕を通したけども私はどうしても違和感が抜けなかった。
紺のブレザーよりも白と紺の組み合わせのセーラー服のほうがしっくり来るような気がして仕方がなかった。
その理由は一年後、あの女の子が現れた時に知ることになる。




