表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
攻略対象の影薄い姉になったけど、モブってなにしたらいいの?  作者: スズキアカネ
本編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

77/303

こんなエンドあったっけ。初めて見るパターンなんだけど。

 三年生卒業式前最後の登校日。

 その日も告白ラッシュは続いていた。


 私はといえば今現在中庭のベンチの裏で身を隠していた。

 その訳は目の前で行われている告白の邪魔にならないようにである。



「あの…卒業しても、また会いたいんだけどな…?」

「好意を持ってくれて嬉しいが…すまない」

「そ…そっか…」


 同じ三年生に告白されて振っている橘先輩。

 私は自分が言われた気分になって一人で凹んでいた。

 大体なんで好きな人が他の女の子に告白されてるのを眺めなきゃいけないんだか…


 振られた女子生徒が泣きながら走り去っていくのを橘先輩はため息を吐いて見送っていた。

 どうか私の存在が先輩にばれませんように…


 私は姿勢を低くしてその場から去ろうと移動を始めたのだが、その先でも告白が行われていた。


「本橋さん…良かったら俺と付き合ってほしいんだけど」

「…ごめんなさい…」


 ヒロインちゃんが三年生男子に告白されてこれまた振っているシーンである。

 みんなモッテモテだなぁ。

 …私はまたしばらく忍者ごっこみたいなことを一人でしていないといけないのだろうか…


 自分は売店に行こうと思ってちょっと横着して中庭をショートカットしていただけなのだ。そしたら橘先輩が告白されてるシーンにかち合ってしまった。


 それにしてもヒロインちゃんに告白してる人、結構イケメンだけどダメか。

 まぁよく知らない人に告白されても困るもんね。


 …はやくここから立ち去りたいなぁ。



「アヤメちゃーん? こんなところでなにしてるのー?」

ふぅっ…


 耳に息を吹きかけられ、私は「ひゃあ!!」と悲鳴を上げてしまった。

 耳を手で抑え、バッと振り返るといつの間にか私の後ろに接近していた久松の姿があった。

 私は自分が大きな声を出してしまったことに気がついてパッと口を抑えたけども、ヒロインちゃんと相手の三年男子にはバレバレらしい。目を丸くしてこちらを見てきている。


「あ、耳感じちゃった? アヤメちゃん感じやすいんだねぇ?」

「ちょっ寄るな! おい久松! ヒロ、本橋さんが男に告白されてるぞ! いいのか!?」

「大丈夫だよ〜花恋は軽い女じゃないから〜」

「だから私の首の匂いをかぐなと! 離せ!」


 久松に後ろから抱きつかれ、私はジタバタもがいていたが久松に完全ホールドされて身動きが取れなくなった。


 この間からコイツはなんなんだ! 何故私にセクハラしてくるんだよ!

 本命のヒロインちゃんの前でよくもこんな真似できるな!



「…久松。お前はあれだけ絞っても学ばんな」

「…うぇ、いたのー? もーいつも邪魔してくるんだから」

「彼女が嫌がっているのがわからないのか。早く離せ」

「イタタタタタ! ちょ、橘痛いって!」


 騒ぎを聞きつけた橘先輩に救出された私は何だか気まずくて先輩の顔が見れなかった。

 告白現場盗み見してしまった罪悪感が半端ない。


「久松君! 田端さんが困ってるでしょ? ダメじゃないの」

「なになにヤキモチ? 大丈夫だよ花恋が本命だから〜」


 ヒロインちゃんが怒った顔して久松を注意するが、奴はヘラヘラ笑っているだけだ。しかもさらりと私が遊び相手認定されてるが、私にはそのつもり無いからね。久松とは関わりたくないんだよ。

 ヒロインちゃんお願いだからコイツだけはやめよう? ヒロインちゃんが泣きを見るだけだからきっと。


「田端、なぜここに?」


 ヒロインちゃんに心の中で話しかけていたら橘先輩にそこをツッコまれた。やっぱりそこ気になっちゃう?

 とりあえず嘘ついても仕方がないので正直に自供することにする。


「す、すいません見るつもりはなかったんですよ。邪魔しないように去ろうとしたらあの色魔に襲われました。助けてくれてありがとうございます…」

「…見てたのか」

「すいません…」


 項垂れる私に橘先輩は苦笑いするだけだったが、何かを思い出したように口を開いた。


「そうだ、田端今日の帰りのことなんだが」

「橘先輩! いまお時間よろしいでしょうか!」


 私に何かを伝えようとしていた橘先輩だったが、一年生の可愛らしい女子生徒がタイミング悪く声をかけてきたもんで肝心なことが聞けなかった。


 橘先輩は一瞬疲れた顔をしていたが「あとでメールする」と言って一年生女子の呼び出しを受けていた。

 …あれがモテる男は辛いオーラか。ジェラシー通り越してちょっと大変そうだなと私は哀れんでしまった。


 それにしても帰りのことって? 一緒に帰れないとかそんな話かな?

 別に毎日一緒に帰ってるわけじゃないから私にわざわざ断る必要はないんだけど先輩は気遣い屋だから仕方ないのかな。


 ここに居ても仕方がないし、昼休みがもうすぐ終わりそうだったので私は教室に戻った。

 先輩は後でメールくれると言っていたけども…放課後になっても来なかった。


 そんなに緊急の用件じゃないのかな?

 そう思いながら私は帰り支度をしたのである。




「花恋」

「…間先輩?」

「…ちょっと、いいか?」


 さぁ帰ろうとしたその時、教室の出入り口に間先輩が現れてヒロインちゃんを呼び出していた。


 私は『まさか! 生徒会長ルートのエンドか!?』と思って鞄を持つと慌てて二人の後を追った。

 本来なら明々後日(しあさって)の月曜日にある卒業式に攻略対象とのイベントはあるはずなんだけど色々おかしなことになっている乙女ゲームの舞台だ。フライングもあるのかもしれない。


 (元)生徒会長・間先輩は、あのコートの件でヒロインちゃんと距離が生まれていたけど…挽回できたのだろうか。

 私は二人にバレないように尾行する。


 二人について行くとやっぱり中庭に来ていた。中庭って告白スポットなんか?

 またまた私はベンチの裏に隠れて二人の様子をうかがう。趣味悪いかもしれないけどヒロインちゃんのイベントはやっぱり気になってしまうのだ。



「間先輩、どうかしたんですか?」

「…花恋、俺はお前のことが好きだ。俺は陽子の家の力を借りずとも自分の力で会社を大きくしてみせる。……だから俺についてきてくれないか…?」


 プロポーズかよ。

 この人元々のスペックは高いけど自信過剰だから、ちょっと気を抜くと手ぇ抜くからなぁ。…本当に大丈夫かな。

 しかも乙女ゲームとなんか台詞が違うし。

 ゲーム上では【お前が好きだ。俺の側にいてほしい】のシンプルな告白だけである。


 やっぱり現実とゲームの誤差は大きいな…

 これにて生徒会長ルートで舞台は終わりか…と私は勝手にしんみりしていた。

 なんか画面で見てきた乙女ゲームと違うけどまぁまぁ…。


 ここでヒロインちゃんは【はいっ!】って可愛い笑顔で返事をするのだがー…


「…ごめんなさいっ!」


 …あるぇー?

 ヒロインちゃん!? ヒロインちゃん台詞が違うよ!? ヒロインちゃんが断るエンドなんて初めて見たよ!?


 私はベンチから思わず顔を出してしまった。

 二人の間には微妙な空気が漂っている。


 間先輩はショックでフリーズしているし、ヒロインちゃんは沈んだ顔をしている。

 間先輩って今まで振られたこと無さそうだから余計ショックなんだろうな。青ざめて呆然としていらっしゃる。


「…なぜ…」

「ごめんなさい。私はやっぱりあっくんを忘れられないんです。…どうしてもあっくんと他の人を比べてしまう! 私はあっくんが今でも好きなんです!」


 …なんと。


 私までフリーズしてしまった。

 やばい。このままではヒロインちゃんはあっくんのことを引きずって素敵なJK生活が送れないんじゃないか!?

 人生は恋愛だけが全てじゃないよ?

 だけど存在しない男の子を想い続けても虚しいだけじゃないか! だって私なんだもん!


 私は罪悪感で一杯になった。

 私の行動でヒロインちゃんをそこまで思いつめさせる事になっていただなんて!


 だめだ、ヒロインちゃんは幸せにならないと!

 なによりも私が納得できない!



(…嫌われてしまっても仕方がない)

 

 私はずっと、あの子供の頃の写真を制服のポケットに仕舞っておいた。

 ヒロインちゃんに言うか言うまいか迷った際に入れておいてそのまま放置していたものなのだが…

 これを見せればきっとヒロインちゃんも納得してくれるだろう。


 うう、ヒロインちゃんに軽蔑の眼差しで見られることを想像すると胃が痛くなってきたが私は自分を叱咤し立ち上がる。



「ちょっと待ったぁ!!」


 なんかどこぞの婚活番組の横槍みたいだけど、私は二人の間に割って入っていく。

 それには間先輩もヒロインちゃんもぎょっとした顔をしていた。


 私はすぅっと息を大きく吸うと叫んだ。


「私も! 本橋さんに告白したいことがある!」


 思いの外、声が大きく響いてしまったけどもう後戻りはできない。

 それを聞いた間先輩が「はぁ!?」と騒いでいるが、それに構わず私はベンチをぐるりと避けてズカズカとヒロインちゃんに近づく。

 ぽかんとしているヒロインちゃんの前に立つと、制服のポケットに手を突っ込んで写真を取り出すと彼女の前に差し出した。


「…?」


 ヒロインちゃんは首を傾げながらその写真を受け取ると、目を大きく見開いた。


「…あっくん…?」


 私はとても心苦しかった。

 だけど、もう黙っていられなかったのだ。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ