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攻略対象の影薄い姉になったけど、モブってなにしたらいいの?  作者: スズキアカネ
本編

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56/303

コーヒーが苦いんじゃない。あなたがいるから渋い顔になるんです。

 ガヤガヤ、と賑やかな店内で私は気まずい気分でいた。


「…最近沙織さんがよく亮介を訪ねるようになってな。君はなにか聞いてるか?」

「…もう、終わった関係だとは言われました」

「…そうか」


 そう言ってブレンドコーヒーを飲むのは橘兄だ。

 …なんで私この人と茶をしばいてるんだろう?


 会話することないし。仲いいわけでもないし。

 私が休憩がてら入ったコーヒーショップについて来たんだよこの人。

 よくわかんないわ。


 苦々しい顔でコーヒーを飲んでいると、橘兄が私の方にシュガーポットを寄せてきたが…違う、そうじゃない。


「…中二の頃だったか。二人が交際を始めたのは。同じ委員会だったのがきっかけだったらしい」


 橘先輩と沙織さんの話を語りだしたので相手の意図がわからず私は黙って聞いていた。

 だけど聞きたくないよーな…気になるよーな…


「受験に支障がない交際をしていたと思う。二人も学業を優先していたし。だけどまぁあの落ち…弟が私立受験で高熱を出して本命校に落ちてしまって…それからすれ違いだな」


 今、落ちこぼれって言いそうになったのを言い直したな。まぁ目を瞑ってやろう。

 私は理由として考えていたうちの一つを上げてみる。

 

「…男のプライド的ななにかですかね」

「…それもあるかもしれないが…ほら沙織さんは美人だろう。同じ学校の男子生徒と一緒に帰ってる姿や仲睦まじい姿を幾度となく目撃したようで…二人の間でどんなやり取りをしたかまでは知らないが…二人の間に距離が生まれた」

「…あー…」


 あーなんかわかっちゃった。

 なるほど。

 …先輩真面目だからそれを見て考え込んでしまったんだろう。

 しかも負い目もあって沙織さんに問い詰めるのも出来ないと言うか……受験失敗したのが引き金になって自分に自信が持てなくなったのだろうか。

 目の前の橘兄とかも原因だとは思うんだけどね。

 

 男女の仲って難しいなぁ。



「最終的に音信不通の形で別れたと聞いてる。だから亮介はその気がないとは思う。…だが沙織さんは」

「…橘さん、大丈夫です。私そういうのは求めてませんから」

「は?」

「私は先輩が好きです。だけど想いを伝える気はありません。後輩として先輩の卒業を見送るつもりです」


 私の言葉に橘兄は目を見張った。

 まるで「何故」と問いかけているかのような表情に私は苦笑いする。だけどその問いに答える気はない。


「それにしても橘さんと私がこんな風にお茶してるのもおかしな話ですよね」

「…ああそうだな…俺はずっと君に謝ろうと思っていたんだ。…初対面のよく知らない人間に対して、大分失礼な発言をしてしまった。それに年長者としての態度ではなかった。許してほしいとは言わないが…済まなかった」

「……どうしたんですか? どこかに頭ぶつけたんですか?」

「…君も大概だな」


 いや本当にどうしたの? 

 なんでそんな殊勝な態度なの? 

 どうしてそんな友好的なの? 

 

 私は目の前の光景が信じられなくてフルフルと首を振って橘兄を見返す。

 橘兄は私の反応にムッと顔を顰めていつものムッスリ顔に戻った。


「…今まで君が返してきた言葉や態度に君という人物を見直したんだ。人を見た目で判断するのは間違っていたと反省しただけだ。…俺は検事になる目標があるというのに、偏見で視界を曇らせていた。自分で自分を情けなく思っている」

「橘さん…まぁ、水に流せるわけではないんですけど…私も大概失礼なこと言ってるんで。…私も年上の人に対して取る態度ではなかったです。すいませんでした」


 私が頭を下げて顔をあげると、橘兄は苦笑いしていた。

 この話は終わりとばかりに橘兄はさっきの話を蒸し返してきた。


「それで何故なんだ? 何故諦めるんだ?」

「なんすか橘さん恋バナに飢えてるんですか? マジウケる〜」

「君な…」

 

 ワザとふざけた反応をしてみたのだが、橘兄は呆れた顔を向けてくる。

 私は冷めてしまったコーヒーを口にして顔を顰めた。「ほら砂糖入れれば良かっただろう」と橘兄が言ってくるが、違うんだ。冷めたコーヒーってあまり美味しくないだろ。

 


「…兄さんに田端…?」


 マグカップの中の冷めたコーヒーを睨みつけていた私だったがその声に顔を上げるとそこには制服姿の橘先輩と…沙織さんの姿があった。


 …橘兄はああ言っていたけど、やっぱり二人はお似合いだ。

 諦めるつもりなのに私は未練たらしい。 


 勝てるわけでもないのに沙織さんに嫉妬している。

 そしてもう終わったと言っておきながら彼女と一緒にいる橘先輩に腹を立てていた。


 なんて自分勝手なんだろうか。

 私いつからこんなわがままになったんだろう。

 


「…亮介? …それに沙織さん」

「恵介さん! 偶然ですね」

「…センター入試はどうだったんだ?」

「…すべての力は出し切ったと思う」

「私もです…恵介さんは田端さんとお茶ですか?」

「あぁ。本屋で彼女が参考書を探しているのを見かけてな。それでその後………亮介、そこに座れ」


 橘兄はアイツを思い出したのか一瞬で険しい顔になると、橘先輩にそこに座れと私の隣の席を指さした。

 なんだいきなり。とは思ったが、それは橘先輩も同様で橘兄の威圧感に負けて大人しく座っていた。

 

「…亮介、お前の学校の生徒会はどうなってる。お前は止めなかったのか? あの生徒副会長が就任するのを」

「…久松のことか?」

「名前は知らんが…公衆の面前で女性に向かってあんな…」


 橘兄はふかーいため息を吐いて私をちらりと見た。

「…あやめさんがちょっかいをかけられていたぞ。ふしだらな誘いをされて困っていたのを助けたんだ」

「……あやめ?」



 先輩が突っ込んだのはまさかの私の名前だ。

 まさか私の名前を覚えてないなんてことはないよね? 田端でインプットされてるわけじゃないよね?


 ていうか橘兄、私にとっても嫌な思い出だから思い出させないで欲しかったし、先輩にチクらないで欲しかった。



「…そこの彼女の名前だろう。まさか名前を知らないのかお前」

「知っているが……」

「とにかく、お前風紀委員に顔が利くんだろう。きちんとあの生徒副会長には注意するように周知しておけ。見た所、女にだらしがないようだからな」

「…分かった」


 素直に頷く橘先輩だが、何故か納得してない様子。ていうかセンター入試が終わってお疲れなのに説教なんて可哀想じゃないか?


「ま、まぁまぁ。今度会ったら殴るから大丈夫ですよ!」

「…固まってたくせにか」

「いやだってアイツ苦手なんですよ…」


 久松を思い出すと私は不愉快な気分になった。眉間にシワができそうであるが渋い顔をやめられない。


「…田端、大丈夫か? 何もされてないか?」

「あ、大丈夫です。言葉だけだったし、お兄さんが助けてくれて…」

「……体調は、もう大丈夫なのか?」


 何だか橘先輩の表情が固くなった気がするが気のせいだろうか。

 疲れているだろうに私の心配…優しすぎるでしょ。

 そうそう私は風邪引いて…

 ………はっ!



「先輩! 私に近づいてはいけません!」


 私は慌てて口元を抑えた。

 いかん。マスク外していたんだ。

 治りかけが一番うつりやすいというのになんてことだ。


「今更だろう?」


 ワタワタとマスクを装着する私に橘兄が呆れた顔をして突っ込んでくる。


「いいんですよ! 橘さんは受験生じゃないから!」

「俺が保有したウイルスが亮介にうつるかもしれないのにか?」

「その可能性は考えてなかった! 橘さんちゃんとうがい手洗いしてくださいよ!」

「それだけ元気なら風邪菌も死んでるだろう」

「何屁理屈言ってるんですか!」


 橘兄が適当なこと言うから私は彼を睨んでおいて、隣に座っている先輩を見たのだが先輩は何だか思いつめたような表情をしていた。


「ちょ。先輩どうしたんですか!? もしかして本当に私の風邪がうつって」

「…そうじゃない…」


 そっけない返事をされてしまい、私も困ってしまう。

 何か気に入らないことがあるとでも言うのか。

 プイ、とそっぽ向いた橘先輩の肩を叩いてみたがこっち見てくれない。子供か!


 その様子を眺めていた橘兄がため息を吐くと私にこう言ってきた。


「あやめさん、申し訳ないが愚弟を送ってやってくれないか?」

「へ?」

「恵介さん、それなら私が」

「いや、沙織さんも疲れただろう。俺が送ろう。今日は早めに帰ったほうが良い」


 橘兄は私のコーヒーカップを取ってトレイに乗せると返却口に向かう。

 私は一体全体どういうことだと全員を見比べていたが、橘先輩は拗ねてるし、橘兄は何を考えてるかわからないし…沙織さんは私を睨んでいた。


 …私はその敵視にギクッとした。


 橘兄に言われるまでもなく、沙織さんが復縁を望んでいるのは見て取れた。…図書館で昼食を同席したときもなんとなく…邪魔者扱いされてるのかな? って感じていたし。

 …時々、視線が鋭いことがあったけど気のせいじゃなかったのか。



 私が彼女からの睨みにフリーズしている間に、私の膝の上に乗せていた重めの本屋の袋を橘先輩が持ち上げた。


 先輩、いつの間に席を立ったのか…ていうか私の本を持って帰らないでください!



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