表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
攻略対象の影薄い姉になったけど、モブってなにしたらいいの?  作者: スズキアカネ
本編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

52/303

夜の学校って怖いよね。学校の怪談って誰が言い出しっぺなんだろう。

「…あやめちゃんそっち行ってもいい?」

「…いいよ」


 寒い。一月の夜の気温は零下近くを行く。室内と言えどひどく冷えた。

 スマホの充電は切れてしまい、今確認できるのは資料室にある時計で22時を回ったということだけ。

 私はコートを脱いで半分林道さんの肩に掛けた。毛布代わりである。


「あやめちゃん」

「少しは暖かいでしょ」


 私達二人は言葉少なくやり取りしていた。体力の温存のためである。

 寒いし、お腹空いたし、お尻は痛いし。


 しかも今夜眠れないのはしんどいなぁ…


「…あやめちゃん、橘先輩とどう?」

「…は?」

「仲良さそうに見えるんだけど…」

「…そんな事ないよ。普通だよ」

「ねぇねぇ橘先輩のどんなところが好き?」

「……」


 こんな状況で林道さんは恋バナをねだってきた。

 私は思わずバカを見る目を向けたのだが、彼女は隣にいる上、私のその目に気づいていなのか「ねぇねぇ」と追及の手を緩めない。


 いい加減うんざりしてきたので、黙らせるために私はそっぽ向いて口を開いた。


「…真面目な所。面倒見が良くて…たまに厳しい事言うけど本当は優しい所…努力家なところも好きだし、それに…笑った顔が一番好き」


 目をつぶると橘先輩が笑った顔が目に浮かんだ。

 自分の口元が自然と弧を描くのがわかった。


「だよねぇ。好きな人の笑った顔って良いよね! …私はまだ和真くんに笑ってもらったことないけど…」


 隣でショボーンとしだした林道さん。

 和真はそもそも女の子と関わることを避けてる節があるからその辺は仕方ないと思う。


 家ではくだらないお笑い見てめっちゃ笑ってるけど。あと学校の男友達と楽しそうにしてたり、空手道場の兄弟子らと笑ってるの見かけたし。笑わない訳じゃないんだけどね。


 凹んでいたと思われていた林道さんは突然バッと顔を上げた。


「そうだ! 和真くんの好きな女の子のタイプってどんな子!?」

「…切り替え早いな」

「あやめちゃん知ってるでしょ!? ねぇどんな子!?」


 キラッキラした目で見つめられたが、姉弟で好きなタイプの話なんてしないし…

 和真に初恋の経験があるのかも知らないし…間違いなくあのキラキラ女子は対象外だろうけどね。ああいう肉食な女の子、和真は苦手なんだよ。



「…あ」


 私はとある事を思い出す。

 私の反応に林道さんの期待は増したようでぐいぐい近づいてくる。

 そんなに期待されると逆に言いにくいんだけど…


「…お姉さんタイプかな。大人っぽい女の人」

「年上!? よっしゃあ!」

「年上っていうか…オトナな雰囲気のある女の人が好きみたい」


 テレビを見ていてぼんやりと「この人綺麗だよな」と和真が呟くのは大体年上の女優やタレントだったりする。逆に同年代のアイドルとかには興味がない模様だ。


「大人な女…うん! 私頑張る!」


 林道さんはそう言ってガッツポーズを取っていたが、彼女ははっきり言ってロリ系統である。平均より身長が数センチ小さいし全体的に華奢。そう全体的に。

 …なんというかまぁ、頑張って欲しい。

 協力はしないけど。



 それにしてもゾワゾワと寒気がひどくなってきた。こんな目にあったのは最悪だけど、1人じゃなくてよかった。

 明日になればきっと、和真がここを開けてくれるからそれまでの辛抱だ。


 体が小刻みに震える。

 いま室温何度なんだろう。手足が冷えてきて感覚がなくなってきた…






…バタバタバタバタ…


「…ん?」


 何処からともなく足音が聞こえた。

 私はまさかね。寒さの影響で幻聴でも聞こえてるのかなと思っていたのだが、隣りにいる林道さんが「誰か近づいていない?」と聞いてきたので幻聴ではないのかもしれない。


 しかし、時刻はもう23時に近づいている。

 もしかして宿直の職員が走ってる?

 まさかお化けでも見たとか?


 …この学校もそういえば怪談あったよね。

 全国区で有名なあるある怪談ではないんだけど、三年のクラスのとある席では受験を控えていたものの不幸な事故で亡くなった人がそこで勉強を今でもし続けているとか。

 その話のソースがないから作り話かもしれないけど、学校の長い歴史があればそんな悲しい事故があってもおかしくはない。

 そしてあんまり怖いとは思えないような…



 ぼんやり怪談のことを考えていた私は、足音が近づいてきてこの社会科資料室の前で止まったことに気づいていなかった。



 ーーガタッ! ガチャガチャッ


「!?」

「あ、あやめちゃ…」



 扉ガチャガチャの恐怖再び。

 マジでこれ怖いから止めて欲しい。


 私と林道さんは抱き合って扉を見つめる。

 新たな怪談でも生まれたとでも言うのか。私達はその目撃者となるとでも言うのか!



 ガチャリ、と解錠される音が大きく響いた。


「きゃあ!」


 林道さんが私の首に抱きついてくる。苦しい。

 私も怖かったけど林道さんの怖がりように逆に冷静になっていた。ていうかただ単に固まっていただけなんだけど。


 勢いよく扉が開き、そこに現れた人物に私は目を丸くした。


「姉ちゃん!」

「……和真? どうしてこの時間に」

「それはこっちのセリフだよ! 何してんだよこんな所で!」

「いや…閉じ込められたと言うか」


 息を切らせて駆け込んできた和真の後ろには現風紀委員長の柿山君がいた。やっぱり私に『またお前か』と言った目を向けてくる。

 だから私悪くないって。それと宿直の先生が後ろで「なんでここにいるんだ?」と不思議そうな顔をして突っ立っていた。


 どうしてこの二人(+宿直)が駆けつけたのだろうと疑問に感じていたけど、ようやく脱出できることに私は胸を撫で下ろした。

 良かった…暖かい布団で眠れそう…


 一方、私の首にしがみついていた林道さんは和真の声を聴くなり、私から離れて和真に飛びつこうとした。


「か、和真くぅん! 怖かったよぉ!」


 スカッ


「はよ帰ろうぜ…うわっ姉ちゃん手つめてぇ! めっちゃ冷えてんじゃねぇか」

「…だって、ここ寒いもん…」

「和真くん!? どうして避けるの!?」


 林道さんのハグを華麗に避けた和真は資料室に入ってきて私の手を掴むとぎょっとしていた。

 あぁ和真の手あったけぇ。


 それにしても寒い。

 和真の助けを借りて立ち上がるも私は足元がフラフラしていた。和真はよろける私を支えながら、渋い顔をして聞いてきた。


「…誰に閉じ込められたんだよ」

「…え?」

「こんな真冬にこんな場所に」

「…あー…」


 あの一年だとは思うけど、閉じ込められた時相手の顔を見てないから胸張って言って良いのか…


「多分、お昼の一年女子だと思うんだよね」

「…萩尾達?」

「名前は知らないけど」

「私、顔なら覚えてるよ! 四人組でね、お昼にあやめちゃんに暴言吐いてた子達!」

「…暴言…?」

「…あぁ、あいつらか」


 林道さんの言葉に和真の周りの空気がピリッとしたものになる。 

 話を聞いていた柿山君は納得した様子で頷くと、私と林道さんに声をかけてきた。


「二人共、もう遅いから帰って休むと良い。先生が車で家まで送ってくださるそうだ。あと明日の昼休みは風紀室に来てくれるか?」

「…? うん…わかった」

「えっご飯は!?」

「…大丈夫。お前たちへの話はすぐ終わるから。あぁ田端の弟も来ると良い。関係者のようなものだし」

「……はい」

 

 柿山君はそう言ってもう帰っていいぞと促した。彼はまだ学校に残るらしく、どこかへ電話をしていた。柿山君は思いっきりスウェットの上にコート姿だからきっと就寝前だったんだろうね。本当にごめん。

 一年女子と私達が険悪な雰囲気だったのを目撃した柿山君は念のためにと昼休みに一年の教室を訪れて、和真に自分の連絡先を伝えていたらしい。それで和真の空手の練習が終わった22時ごろ、和真が私からの留守電に気づいて慌てて柿山君にヘルプしたというわけらしい。


 重ね重ねすいません。

 でも私が100パー悪いわけじゃないと思うの。



 ようやく学校を出たのは23時を回っていた。それから先生の車で送ってもらい、私達は遅すぎる帰宅を果たしたのである。

 友達の家に泊まると言っていたくせに帰ってきた私に両親は驚いていたが、今まで学校に閉じ込められていたことを和真がバラしてしまった。それをしたのが和真の同級生であることも。

 …なんでバラすんだよ。


 私が嘘をついていたことに対する母の説教は翌日に持ち越しとなり、私は疲れ切っていたので軽くシャワーを浴びるだけで早々に就寝した。






☆★☆




 翌朝起きてまず感じたのは倦怠感。

 自分の額を触っていつもよりも熱い気がしたけど、今日一日ならきっと耐えられる。


 それに柿山君から呼び出しも受けてるから行かないと。

 私はいつも通り登校して、いつも通り授業を受けた。

 だけどだんだん頭がぼんやりしてきてやばいなと感じ始めていた。今日は体育がないので、なんとか最後まで耐えきれるかな…と思いながら昼休みを迎え、私はノロノロと教室を出て風紀室に向かったのである。

 



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ