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攻略対象の影薄い姉になったけど、モブってなにしたらいいの?  作者: スズキアカネ
本編

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49/303

先輩だからって威張る気はない。だけど最低限の礼儀は持ってほしいと思う。

 新学期が始まった。

 三年生は受験でピリピリしており、一年と二年は息を潜めながら過ごす日々である。

 今月半ばにセンター試験が2日に渡って行われる。それに向かって三年生は追い込みを掛けていた。三年の授業自体は全て終わっているが、センター入試対策や自習で登校している人が多数である。



 ところで私は柴犬ショックから、メイクの仕方を見直した。アイラインの引き方が良くなかったのかと思い、ラインを細めにしてみたのだ。


「アヤちゃん可愛い!」

「化粧変えたの?」

「…心境の変化があってね…」


 そうすると地顔に近づいて地味なのがバレそうなものだが、友人らは褒めてくれた。それが本心なのかはわからないが少しホッとした。

 

 始業式が終わった翌日から授業も始まって久々の授業を送り、やっと来た昼休みに私は肩の力を抜いた。ようやくお昼だ。

 鞄の中をあさくりお弁当を…あれ…ない。


「そうだ! 修学旅行なんだけどさ」

「おーい田端ー弟が呼んでるぞー」


 お弁当を忘れたショックに襲われている私はユカの話の途中でクラスの男子に呼ばれた。

 教室から出るとホントに和真がいて、私は首を傾げた。

 どうしたのだろうか。


「どうしたの?」

「…腹減ったから金かして」

「お弁当は?」

「早弁した」


 弟の和真は近場の空手教室で空手を習い始めた。

 三日坊主になることもなく、早朝錬に夜錬と空手にかなり熱中している模様である。

 そのせいか以前よりも食事の量が増え、お弁当だけじゃ足りない現象に陥っている。


 財布をまるごと忘れたらしく、和真はお腹をぐう〜と鳴らしながら私を見てくる。

 私は呆れたため息を吐きながら「ちょっと待ってて」と声を掛けると友人達に断って財布を持って和真に「行くよ」と促した。

 それに和真は訝しげな顔をする。


「金貸してもらえたら自分で買うけど」

「仕方ないから食堂でごちそうしてあげるよ」

「え?」

「体育祭の時の食券がまだ残ってるんだよね〜」


 MVP賞として頂いた10枚の食券。たまに使っていたけど勿体なくて全部は使えず、まだ残っていたのだ。

 折角だ。私もお弁当を忘れたし食堂で食べようではないか。


 弟と肩を並べて食堂に向かっていると、反対側から橘先輩と大久保先輩が何やら会話しながら歩いてくるのが見えた。

 私は二人に挨拶してすれ違おうと思って声を掛ける。


「こんにちはー」

「おう……?」

「……田端?」

「そうですよ」


 いつもこんな感じですれ違っているはずなんだけど今日の二人の反応はおかしかった。

 私の顔を妙にガン見してくる。


「ちょっと化粧の仕方変えただけです。そんな目で見ないでください」

「ああ、すまん…」

「その方が似合ってんじゃん。言っただろ可愛いって」

「どうも」


 ナチュラルに褒めてくる大久保先輩。

 私は褒められ慣れていないので少々落ち着かないが、後頭部を掻いてヘラっと笑った。


「…姉ちゃん…腹減った…」

「あぁ、はいはい」

「なんだ田端弟、覇気のない顔して」

「和真、空手習い始めたせいか最近めっちゃ食べるんですよ。お腹空いたんですって。今から食堂に行くんで失礼しますね」


 弟が死にそうな顔で空腹を訴えるので早く食べさせてやらねばと言う使命感でそう言って先輩たちと別れようとしたのだが「俺たちも食堂に行く所だから一緒に行こうぜ」と大久保先輩に声を掛けられた。


 …ううん。イケメン3人と行動するのはリスキーなんだけど先輩相手に「いやです!」なんて言えないし。

 橘先輩と一緒に食べれるかも! とはちょっと思ったけど、私には女子の僻みのほうが怖い。

 だけど断ることも出来ずに先輩たちと一緒に食堂に行ったのだった。


 食堂の注文カウンターに並ぶ際、私は先輩達に先を譲ったのだが、和真が空腹で苦しんでいるのをかわいそうに思ったのかこちらが譲られてしまった。気を遣わせてすいません。


「ほら、何にするの和真」

「唐揚げ定食大盛り」

「また唐揚げ!? …もー。私はチキン南蛮定食にしようかな」


 貰い物の食券二枚をおばちゃんに提示して注文しようと思ったら和真が先に注文内容を告げた。


「唐揚げ定食大盛りとチキン南蛮定食大盛り。キャベツ多めに入れて」

「!? ちょっと!? 私普通盛りで」

「多いなら俺が食うから。ほらほら邪魔なるぞ」


 和真に肩を押されて受け取り口まで連れて行かれる。

 後ろで先輩方が私達のやり取りを笑っていたではないか。もう恥ずかしいな!



 注文した物を受け取って空いている席に着くと、和真は速攻食べ始めた。

 その勢いに私は目を丸くしていたが、自分が口を付ける前に大盛りご飯を半分、和真の茶碗によそおうとすると弟は無言で茶碗を差し出してきた。

 仕方ないなこいつはもー。と思いながらも私は多すぎるご飯を弟の茶碗に盛る。



「本当に仲がいいなお前たちは」

「えっ…まぁ……ってちょっと!? なんで私のおかず食べてんのよ!」


 目の前の席に着いた橘先輩の言葉に気を取られていると和真が私の定食の皿からチキン南蛮一切れを掠め取ってきた。まだ唐揚げ残ってるじゃないか!

 私はトレイを心持ち遠ざけて弟に食べられる前に食べてしまおうと味噌汁に手を付けた。


『和真くーん!』


ドンッ !

「ゴフッ」

 

 味噌汁を飲もうとした私の背中に衝撃が走った。

 味噌汁をこぼすことはなかったが、変な所に入ってしまい私は激しくむせた。


「ゲッホゲッホ、ゴホッ」

「田端、大丈夫か? 水飲めるか?」

「おい、一年。食堂で暴れるんじゃない」


 橘先輩に差し出された水をありがたく受け取り、私はそれを飲むとほう、と一息つく。

 元風紀委員としての性なのか、同じ机に着いている大久保先輩が私を押した人間に注意する。


「すいませぇ〜ん」

「え、いたの?」

「てか誰?」


 キラッキラした女子がそこにいた。リボンの色は赤。つまり後輩である。

 そこまで私は影が薄いか。

 おい一年女子、私は先輩だぞ。


「…うっぜぇな。飯くらい静かに食わせろし」

「そんな冷たいこと言わないでよぉ。向こうであたし達と食べよ?」

「いやだ」

「もー冷たいんだからぁ」


 謝罪なしかよ。

 私の彼女らに対する印象は最悪だ。本当にいい度胸である。


 私は彼女たちに関わりたくないので黙々と食事を始めた。和真はシカトしてるが、彼女らはずっと周りに居座っていて姦しい。

 …チキン南蛮美味しいのに、食べてるのつまらないや。


 ガタッ!


「ごちそーさま」

「えっもう行くの?」

「まってよぉ和真くぅん」


 和真はいつの間に完食したのか、空の皿の載ったトレイを持って返却口へと向かっていった。

 キラキラ一年女子はそれに追いすがっているが、和真は振り払って食堂から去ってしまった。


(…和真のモテ振り、中学の時より激しくなってんな…)


 私は遠い目をして和真の立ち去った方向を眺めていた。


「…食わないなら俺が食うけど?」

「!? いや食べますよ!? 何言ってるんですか!」

「あーチキン南蛮も良かったなー、トマトやるから一切れくれよ」

「等価交換の意味をご存知か」


 大久保先輩が私のチキン南蛮を狙っていたので私は慌てて食べた。トマトと交換って私が損するんだけど!


「健一郎、田端をからかうのはよせ」

「じゃあ亮介のとんかつでも良いぞ」

「断る」


 私のチキン南蛮だけでなく、橘先輩のとんかつまでも狙う大久保先輩。私は大久保先輩の一挙一動を警戒しながら定食を完食したのである。




 幼い頃から我が弟は綺麗な顔立ちをしていて、同い年の女の子は元より妙齢の女性、はたまたおば様方の注目を受けてきた。

 その所為なのか、女性に誤解されないようにそっけない態度を取るようになったのだ。



 そうなったのにはある出来事がある。

 あれは私が幼稚園年長、和真が年中さんの時だ。

 


『かずまくん! りりとけっこんするよね!?』

『えっ…』

『ちがうよ! あいなとだもん!』

『えぇ!?』

『『かずまくん! どっちをえらぶの!?』』


 よくある小さい子の《誰と結婚するの!? 》紛争に巻き込まれたのだ。

 幼い和真としてはみんなとお友達として仲良くしていたつもりであった。だけど女の子たちはそうではなかった。自分こそ和真の特別だと信じ切っていたのだ。




『ははは。どろぼうよ牢の中はかいてきだろう?』

『このっ鬼けいかんめ…!』

『お、おねえちゃぁぁぁ!』


 園庭のジャングルジムで友達とケイドロ遊びしていた私(警察役)のもとに 和真がギャン泣きで駆け寄ってきたのは今でもしっかり覚えている。

 一緒に遊んでいた山ぴょん(泥棒役)も近寄ってきて二人で和真を泣き止ますのに苦労した覚えがある。



 そんな事があり…多分小中でも同じことがあったんだろうね。学年が違うから私も詳しくは知らないけど間違いなくあったはず。

 女の子に特別優しいわけじゃない。フツメンの男の子だってやっていることを和真がすると女の子は揃って勘違いするのだ。それもあって、和真が女性の対応するときは冷たい態度を取るようになった。

 それが和真が女性に対してドライな対応をするようになった経緯である。


 そこまで来ると恐ろしいよね。

 それを見ているから私も弟を妬む気持ちを抑えられたのかもしれない。弟は弟で苦労しているから。



 


 食事を終えた私は先輩方と別れ、教室に戻ろうと歩いていた。階段に差し掛かり、一段目に足を乗せた時知らない声で「田端先輩」と声をかけられて振り返った。


 そこには先程のキラキラ一年女子達の姿。

 私は嫌な予感がして顔をしかめる。


「あのぉーさっきはすいませーん。まさかお姉さんとは思わなくてぇ」

「ちょっとお話よろしいですかぁ?」

「…やだ」

『えっ』


 私は先輩だ。

 同学年女子のときと違って下級生の呼び出しに応じる気はない。どうせ同じような話なんでしょ。

 断ってさっさと階段を登る私の腕をキラキラ女子の中で一番キラキラしている女子生徒が掴む。


「ちょっと待ってよ! 和真君のことなんだけど!」

「…あのさ、私は先輩なの。その口の聞き方からして聞く気失せるんだけど…和真のこと狙うのは勝手だけど私は一切手を貸さないからね」

「なっ何このババァ!」

「調子乗ってるし!」

「ていうかこのブス、本当に和真の姉なの!?」


 嗜めると逆ギレされた。そんでもって罵倒された。

 私は面倒くさくなって一年の手を振り払おうと思ったのだけど…



「ちょっと! あやめちゃんになにしてるの!?」

「…林道さん」

「あっ…こいつ和真に纏わりついてる女じゃん」

「ババァのくせに…」

「はぁ!? なんですってぇ!?」



 そこに乱入してきた林道さんと一年女子の間で険悪な雰囲気が広がる。

 纏わりついてる…ねぇ…

 私はそれを他人事のように眺めながら呟いた。

 


「…私からしてみたら全員同レベルだわ」



 林道さんすごい。複数のキラキラ女子相手に1人で噛み付いている。

 私は何もしなくていいかな。あぁでも階段の真ん中で喧嘩してたら目立つよね。

 どうしよう…


「コラァ! そこでなにしてる!」

「やばっ!」

「いこっ」

「覚えてろよババァ!」


 迷っていると現風紀委員長の登場で彼女たちは蜘蛛の子蹴散らすように散らばっていった。

 私は追いかけようとする林道さんの肩を掴んで抑えていたのだが、現風紀委員長が私の顔を見るなり『またお前か』といった顔をしてきた。

 今回私は何もしていないぞ。私は悪くない。


「あやめちゃんなんで止めるの!? 悔しくないの!?」

「…だってあの人達会話が成立しないし、どうせ和真との仲を取り持てって脅しに来たんだもん。相手したくない」

「でも! あやめちゃんのことブスなんて言葉で罵って! 全然ブスじゃないのに!!」

「大丈夫大丈夫」


 ふんすふんす! と鼻息荒く怒り狂う林道さんを宥めながら、私は疲れたようにため息を吐いた。


「…田端の弟の関係者か?」

「そうそう。私の弟と思えないくらい和真イケメンでしょ? 昔からああいう輩は多いんだよ。お騒がせしてごめんね。柿山君」

「そうか…」

「あ、橘先輩には報告しないでね。センター入試前だから心配掛けたくないの」

「まぁ…それはなぁ」


 現風紀委員長の柿山君もそれは納得してるのか頷いた。だが、なにか考える素振りをして「あまりにもひどかったら声かけろよ」と言って階段を登っていったのである。


「ほらほら昼休みが勿体無いし戻ろ。林道さん」

「でも悔しい〜!」

「代わりに怒ってくれてありがとね」

「あっ、あやめちゃんがデレた!!」

「違うから」



 今になって山ぴょん、和真のファンから攻撃を受けるようになったのはやっぱりこの落ち着いた髪の色、化粧のせいだろうか。

 修学旅行前に髪色は金色に戻そうと思っていたけど、やっぱり化粧は柴犬と言われようがギャルメイクに戻そうかな。


 私はそんな事を考えながら自分の教室に戻ったのである。


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