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攻略対象の影薄い姉になったけど、モブってなにしたらいいの?  作者: スズキアカネ
本編

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ライバルというよりラスボス。いくら美人だからって何言っても許されると思うなよ。

「いらっしゃいませ!」

「あれっ、田端さん? ここでアルバイトしてたんだ!」

「ヒロ、本橋さん!? …と間先輩…?」


 新年も明けて冬休みも残りわずかとなった一月のある日。バイト先のファーストフード店にヒロインちゃんが攻略対象とご来店された。

 ヒロインちゃんについて入ってきた間先輩は辺りを興味深そうにキョロキョロと見渡していた。


 うわぁ間先輩、挙動不審…ファーストフード店来たことないのかな…

 いや、うん。食に厳しい家庭の子は親に禁止されてファーストフードなんて食べる機会がないからありえないこともないかな。


 それはそうと私服のヒロインちゃんは今日も可愛い。白いワンピース型コートで洋服は見えないけどそれだけで充分可愛い。



 …もう突っ込まないぞ。ヒロインちゃんが誰を攻略してるかなんて。色んな人とイベント起こしてて訳がわからないよほんとに。

 そもそもファーストフード店に来るストーリーなんてないもん。


「お待たせいたしました。ごゆっくりどうぞ」

「ありがとう田端さん。バイト頑張ってね!」

「うん」

「花恋、俺が持つぞ」

「あっ…」


 ヒロインちゃんに渡したコーヒー2つが載っているトレイを間先輩が奪うようにして取った。

 あぁ、そんなことしたら飲み物が!

 

 紙材質のコーヒーカップはトレイの上で傾き、中に入っているコーヒーが半円を描いて宙を舞う。


 バシャッ


「え…」

「あ」

「…あー…」


 熱々のコーヒーはヒロインちゃんの白いコートにかかった。それにはさすがのヒロインちゃんも呆然としている。


「わ、悪い花恋、わざとじゃ」

「……」

「弁償する! お前に似合うコートを」

「本橋さん、こっちで落としてあげるからコートすぐに脱いで。すいません山下さん、掃除お願いできますか?」


 ボンボンな間先輩がふざけたことを抜かそうとしていたが私はカウンターから出てヒロインちゃんにそう声をかけた。


 まったく! 簡単に弁償って言うな! しかもその金はあんたの稼いだ金じゃないだろうが!


 未だ呆然としているヒロインちゃんをカウンター近くの客席に座らせて、コートを預かるとキッチンの流し場に立ち、台所用の中性洗剤を手に取る。ゴム手袋着用の上、シミを落とそうと格闘し始めたのである。

 水に軽く濡らした布地に水で薄めた洗剤を塗りつけ、汚れをもみ落とす。

 本当はシミ落とし棒で優しくやったほうが良いのかもしれないが、このコートは厚手だし、シミを落とすのは時間との勝負なので致し方ない。



 奮闘の結果シミがかなり落とせたので、あとは決まった方法でクリーニングしてくれれば綺麗になると思う。

 綺麗なタオルで水分を叩いて抜くと、コートを持って客席に戻った。


 …戻るとそこは修羅場でした。




「…本当あなたってツメが甘いと言うかなんというか…」

「うるさいぞ陽子! だいたいなんでお前がここにいるんだ!」

「それは私のセリフよ。新年早々女と乳繰り合って…だからあなたはいつまで経っても私に負けるのよ」


 気の強そうな瞳は自信に満ちており、その自信の現れなのか、真紅の仕立ての良さそうなコートをうまく着こなしている。くせ毛らしいミディアムヘアは緩やかに癖がついているが、どこかお洒落な髪型に見えるのは彼女が自信満々だからだろうか。

 そこでは大人っぽい迫力美人が間先輩を小馬鹿にした目で見下していた。


(…あ、勅使河原てしがわら陽子ようこだ)


 そういえばこんな人いたな。

 彼女は間先輩ルートのライバルキャラだ。

 ただし、この乙女ゲームのライバルキャラの中でも唯一、攻略対象に好意を持たないライバル。異質な存在である。


 そう、彼女はライバルであり、間先輩のトラウマ(?)の原因でもあった。



 勅使河原陽子は永く続く大企業会社経営一家の娘。女傑で間先輩とは犬猿の仲である。

 そして親の決めた婚約者同士。いずれ間先輩の妻となり、彼を支えることになるのが彼女の役目。

 なのだが…


『私が自分の力で会社を盛り立てるし、こんな男の妻で収まりたくないわ! だって私よりも劣っているもの!』


 幼い頃から婚約者として側にいた二人。

 だが二人は側にいすぎた。

 そして二人はあまりにも気質が似すぎていた。


 勅使河原陽子は上昇志向の強い女傑で、利害の一致による政略結婚で会社を安定させるよりも、確かな実力で会社を大きくしたかった。


 女性である陽子には夫人としての教育…つまり小石川雅のような花嫁修業を厳しくしつけられた。

 それに加え、経営者となるべくしての教育を間先輩と競い合うようにして自主的に学んだ。


 彼女は経営者の妻として収まることに大きな不満があった。

 なぜなら自分が経営者になりたいという望みを持っていたからだ。



 私のほうが努力している。

 私のほうが優秀だ。

 私は自分の立場にあぐらをかいているこの男の妻なんかになって人生を終えたくない!



 そんな勝ち気な陽子に間先輩は苦手意識を抱くようになった。

 そんな逃げ腰の彼に対して陽子も、何故努力しない。何故妥協する。女に負けて悔しくないのかと腹を立てるように。


 二人の間の価値観は大きくかけ離れていき、二人の仲は敵対関係と言っても良い間柄になったのだ。


 間先輩だって努力はしていた。だが惰性もあった。いずれ自分が継ぐのだからという惰性が。それが彼女の気に障っているということに気づくことはなかった。


 間先輩もプライドの高い人だから余計に彼女に反発して、会う度に口喧嘩の応酬。

 仲が拗れに拗れた結果、彼女が通わない公立高校に進学したという経緯である。本当に社会勉強のつもりでもあるらしいけど、中学までは私立のお金持ち学校へ通っていたそうだ。


 それで…陽子はゲームでは間先輩のメンタルを削るって役割で、ヒロインはそれをカバーし、彼が彼女に勝てるようにサポートするという攻略方法になる。


 間先輩が彼女に勝つことが出来たら、ハッピーエンド。逆ならバッドエンドということだ。

 ライバルと言うよりもラスボスなんじゃなかろうか。私の知っているライバルと違う気がする。


 この陽子さんが中々強いんだ。その上、間先輩は隙あらばサボろうとするし、真剣にさせるのも大変だった気がする。

 勅使河原陽子はスーパーウーマンと言ってもいい。努力の天才なのかもしれないけどその様子を見せることがないからすごいんだ。




 目の前で続く修羅場に私は、周りの迷惑になるからこの人達追い出そうかなと考えていたんだけど、ヒロインちゃんが私に気づいて、席を立ち上がった。


「田端さん」

「あ、ヒロイ、本橋さん、大分落ちたよ。後はクリーニングしたら大分目立たないと思う」

「本当? ごめんねぇありがとう。このコートお気に入りだったから…去年亡くなったおばあちゃんが買ってくれたものなの…」


 ヒロインちゃんは涙目になりかけていたけど、笑顔でお礼を言ってくれた。

 その可愛い笑顔に私までつられて笑顔になった。


 頑張って落とした甲斐があるよ。

 よかったよかった。 


 呆然とこっちを見てる間先輩よ、世の中には金じゃ解決できない問題があるのだよ。よく学び給え。



 とりあえず騒がしいからお帰り願おうと思っていたら、勅使河原陽子がいつの間にか私のそばに寄ってきていて私は思わずのけぞった。


 彼女は私が驚いていることを気にすることもなくズイ、とその麗しいお顔をお近づけ遊ばす。

 やべぇ美人すぎて目が…


 陽子様は私の顔をまじまじ見つめていたかと思えば、パァッと笑顔になった。


 そう、ラスボス陽子様が私を見て笑顔になったのだ。しかもそれは柔らかく穏やかな笑顔。

 ゲームでもお目にかかったことのない彼女のその無邪気な笑顔に私は固まった。



「あら、あなた…私が飼ってるワンちゃんに似てるわね。柴犬なんだけどね…」


 そう言ってスマホの写真を見せてくる。

 画面に映るのは茶毛の柴犬。私よりもお高そうなお洋服を着ていて、いい生活をしているのが見て取れた。


「マロンちゃんというのよ」

「あーかわいいっすね…」

 

 私はそう感想を述べてふと我に返る。



 あれ………?

 え、柴犬に似てるって言った?

 ……柴犬…しばいぬ…しば…



 私は無表情になった。

 

 陽子様はキラキラした笑顔で犬自慢してらっしゃるけど、初対面の人間捕まえて犬に似てるとな?


 眞田先生も大概だけど…この人もひどいわ。



「犬飼ってるんですか? 私もなんです」

「あなたも?」

「コーギーなんですけど」

「あらかわいい」


 いつの間にか話に入ってきていたヒロインちゃんは陽子様と写真見せあいっこする始末。


 仲良くなれてよかったね。ヒロインちゃんが楽しいなら…私は…うん…。


 

 私はゆっくり首を回して、呆然としている間先輩にこう言った。



「他のお客様の御迷惑になりますのでお引取りください。あと私犬じゃねーから」

「俺が言ったんじゃねーよ!」



 陽子様とヒロインちゃんが無事犬仲間になっているのを見守り、三人にお帰り願ったのだけど…

 私は家に帰って自室でしばらく鏡を見つめながら化粧の仕方を変えようかと真剣に悩んだのである。



「…何、自分の顔眺めてんの?」

「ノックしろよ!!」

「イテェ!」


 八つ当たり気味に和真の尻を蹴っておいた。


 …とりあえず明日、本屋でメイクの基本の本でも買ってメイクの方法変えようかな…

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