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攻略対象の影薄い姉になったけど、モブってなにしたらいいの?  作者: スズキアカネ
本編

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46/303

深夜の訪問はできるだけ避けるべきだと思う。だって相手に恐怖感を与えるでしょ。


「お疲れ様田端さん。これ頼んでたケーキね」

「わぁありがとうございます!」

「砂糖菓子のサンタ、特別に付けといてあげたよ」

「やったぁ! それじゃお世話になりました! お疲れ様です」


 クリスマス当日、早番だった私は注文していたクリスマスケーキを受け取るとまっすぐ帰宅した。

 多分家では母が料理をこしらえてくれていることであろう。


 この数日間、まぁ忙しかった。特に昨日。

 日本人って本当イベント事好きだよなと思いながら営業スマイルでケーキを売りさばいていった。


 ユカとリンが彼氏連れで差し入れをくれたり、沢渡君がケーキ買いに来たり。忙しくてあまり喋れなかったのが悔しい。

 やっぱりクリスマスってカップル連れが多いよね。家族連れより多いんじゃないの。

 働きながら少々ロンリーな気分になっていたけどバイト自体は楽しかった。


 明日からはおせち料理製造工場で30日までバイト。そして大晦日から冬休み最終日まで休みを挟みつつのファーストフード店のバイト。

 

 今年はバイトを理由に私は祖父母の家には行かないことにしている。従兄弟達も高校生になれば来なくなる人もいるからいいだろう。

 ぶっちゃけ行っても楽しくないし。


 なので三日程私は1人で留守番をすることになった。和真が残ろうかと言っていたけど、ばあちゃんはイケメンな孫の和真がお気に入りだ。行かない訳にはいかないだろう。

 なんでお年玉私の分まで貰ってこいと声をかけておいた。




☆★☆




 今日は大晦日。心配する両親と和真を見送り、バイトに行く準備をする。しっかり戸締まりをして私はバイト先まで歩きで向かう。

 てなわけで私は今日から三日間一人暮らしである。




「アヤちゃんみてみてアヤちゃんサンタの写真待ち受けにしてみた」

「消せ。ご注文をどうぞ」


 暇なのか沢渡君がまたバイト先にやってきた。

 彼がニコニコしながらスマホの待受を見せてきたので私は営業スマイルを忘れてしまった。

 いかんいかん。営業スマイル大事。


「そういやさぁ修学旅行の自由時間だけどアヤちゃん行きたい所決まってる?」

「別に男女別れて回っても良いんじゃない? 私達は私達の行きたいところに行くし」

「えぇ!? そんな寂しいこと言わないでよ!」


 私達は有名スポットとお土産を買える所に行くつもりだ。清水寺は勿論、伏見稲荷神社に金剛寺、錦市場とかね。

 同じ班の男子達が何処行きたいかは確認してないけど、行き先で喧嘩するより現地解散が平和でいいと思う。

 

 女子によっては花魁体験とか舞妓体験をするとはしゃいでいる人を見かけるけど、あれは時間を費やすので私達はパスである。自由時間が7時間×2日だから、滞在・移動時間に昼食のことを考えたら観光できるところは限られる。



「…また田端の邪魔をしてるのか沢渡」

「あれっ橘パイセン! こんちわっす」

「…橘先輩、どうしたんですか?」

「図書館の閉館時間が早かったから場所を変えようと思ってな。…沢渡、お前も勉強するか?」

「嫌っす! パイセンの教え方スパルタっすもん!」

「お前が理解しないからだ」


 二人のやり取りに私は目を丸くした。

 教え方がスパルタ?

 どういうことだろうと思っていたら橘先輩が説明してくれた。


「図書館で遭遇した日があっただろう。その時にな」

「え!? す、すいません私が沢渡君放置したせいで先輩の勉強の邪魔になって」

「アヤちゃん!? 邪魔って!!」

「いや復習になるかと思って俺が手を貸したから…すぐに後悔したけどな」 

「パイセン!?」


 沢渡君がムンクの叫びみたいな顔してるけど、彼は先輩に感謝すべきだと思う。


「沢渡君、先輩にコーヒーの一つくらい奢って差し上げな。ついでに先輩の勤勉さを見習いなさい」

「はい! ブラックでいいっすか!」

「おいおいそこまでせずとも」

「いえいえ、沢渡君に払わせてやってください」


 私はすぐにブレンドコーヒーのカップをセットをしてコーヒーの抽出をした。

 沢渡君からコーヒーの代金をせしめて、橘先輩にコーヒーを差し出すと彼は苦笑いしつつも沢渡君にお礼を言って勉強をすべく席に向かっていった。

 早速勉強を始めている先輩を沢渡君が眺めてポツリと呟いた。


「俺らも来年勉強漬けになるんだよね〜…そう考えると憂鬱」

「…沢渡君進学するならもうちょっと頑張ろうね」

「耳が痛い!」


 その後沢渡君は友達からお誘いが来たから遊びに行ってくるね! と元気よく去っていた。

 本当、進学できるのかな彼。それ以前に進級なんだけど。



 私が仕事するカウンター側から橘先輩が勉強する様子がよく見える。


 …あれから何事もなかったかのようにしている。私が意識し過ぎなのかもしれないけれど。

 考えないようにしたほうが良いのかもしれない。ただでさえ先輩は今が大事な時期。センター入試の結果次第では志望校が変わることになるだろうから煩わせたくはない。



 お客さんを待つのも暇なので大晦日らしくカウンターの簡単な箇所の掃除を始めたのである。




 バイト終わりは八時。

 閉店間際のスーパーで割引になった天ぷらと蕎麦を購入して家路につく。


「ただいまー」

 しーん…


 明かりのない誰もいない家に私は寂しい気持ちになった。だが自分が残ると決めたので仕方がない。

リビングの電気をつけ、年越し特番をやってるテレビを流す。台所で蕎麦を茹でながら、スマホを触るとメッセージがいくつか入っていた。

 

 ユカやリンは彼氏と初詣に出かけているらしい。沢渡君はお母さんが作った年越し蕎麦を写真に撮ってクラスのグループメッセージに載っけている。


 …あーだめだこういうのみてたら余計寂しくなる。

 両親や弟からも連絡が来てたので心配させないように返事をして、茹で上がった蕎麦に天ぷらをのせて一人寂しく啜った。


「…さっさと寝よ」


 夕食の後はすぐに入浴を済ませて明日のバイトに備え、早めに休もうと思って階段を登っていた。

 いつも誰かしら家族がいるのでこの静寂が辛い。


 橘先輩、四月から一人暮らしするって言ってたけど…やばいよこれ寂しすぎる。先輩大丈夫なのかな。




【ピーンポーン!】



「!?」


 インターホンのチャイム音に私は階段を登る足を止めた。

 今の時刻、23時すぎ。

 大晦日だが流石に訪問というには非常識な時間である。

 誰かもわからないので出るのも怖い。私は物音を立てないようにそおっと階段を登る。



【ピーンポーン!】


「ひっ!」


 二度目のチャイムに私はギクッとして自分の部屋に飛び込む。


 誰だ、一体何だ。


 自分の部屋の窓から外を伺うことができるがそれをするのは怖い。

 私はフリーズしたまま、自室の床に正座していた。



【ドン、ドンドンドンッ】


「ヒィッ!!」


 やばい、まじ怖い。

 強盗? え、ほんと何!?



 扉を叩く音にとうとう私はパニックを起こし、親に電話しようとスマホを取って電話をかけた。

 数回のコール音の後、相手が出る音がしたと同時に私は捲し立てた。


「母さん!? 母さん、家のドア叩いてくる人がいるんだけど! どうしようめっちゃ怖い!」

『……一体どうした』

「えっ母さんなんか声が…はっ!」


 相手の声を聞いて私は違和感に気づいた。母の声はこんなに低くない。

 一旦スマホを耳から離して通話相手の名前を見るとそこには“橘先輩”と表示されている。

 私は焦るあまり間違い電話をしたのだ。

 全身の血の気が引いた気がした。


「すすすす、すいません! 間違えました!」

『待て田端。お前今1人なのか?』

「はいそうです! 本当に失礼しました!」

『わかったから落ち着け。誰かわからない相手なら応対しないで』

【ピンポーンピポピポピポピポーン!】

「ヒィィィィ!!」



 橘先輩の宥める言葉を聞いてたが、更なるチャイム連打の音に私は絶叫した。

 あ、だめだ絶対外の人に聞こえてる。居留守使っていた意味がない。

 連打されるチャイムとドアをドンドン叩く音。その上ガチャガチャとノブが回されている。ドアが壊れるからやめろ!


 恐怖値MAXなんだけどそれ以前にうるさい。近所迷惑だろが!

 恐怖が限界を超えたのか自分の頭の何処かがぷつんとキレた気がした。



「…先輩、もしも私が明日までに連絡しなかったら警察呼んでもらえますか」

『は!? 何を』

「行ってきます!!!」

『ちょっと待てたば』


 終話ボタンをタップすると、私は部屋を飛び出して階段を駆け下りた。


 玄関にあった靴べら(ゴム製)を手に取り、バクバクする心臓をおさえつつ玄関の鍵を解錠した。



「うるさいんじゃボケー!」

「うわぁぁあ!?」


 私のフルスイング靴べら攻撃を慌てて避けたのは山ぴょんだった。

 なにしてんだよこいつ!


 文句言ってくる山ぴょんの言い分は『あやめが留守番してるっておばさんに言われたから様子見に来てやったのに!』だそうな。


「時間を考えろ馬鹿野郎! 何時だと思ってんだよ!」



 …訂正。

 私が一番近所迷惑かもしれない。




 すんごい疲れた気分でさっきから鳴りっぱなしの電話に出た私。


「もしもし…」

『田端! 無事か!?』

「…すいませんお騒がせしました…幼馴染でした。私が1人だからって様子を見に来たらしくて…」

「……この時間にか」

「はい。とりあえず文句言って帰しました。本当すいません…」

『……田端、俺はいつも言っているかと思うが…』

「すいませんつい」



 私は電話越しに橘先輩の説教を受ける羽目になった。

 受験生相手に迷惑電話した挙げ句、心配かけさせて私は何をしてるんだ…


 意気消沈している私に気づいたのか、橘先輩はため息を吐いて説教を止めてくれた。



『まぁ無事で良かった。だけど今度同じことがあったらもう出ないように。わかったな』

「はい…すいません勉強の妨害して」


 ガクリと項垂れていた私はカチリ、という音に首をノロノロ上げた。部屋に飾っているアナログ時計を見ると時間はもう12時を回っていた。


「あ。先輩、明けましておめでとうございます」

『…あぁ年が明けたのか。…明けましておめでとう』


 山ぴょんのいらん気遣いのせいで怖い思いしたし、先輩に迷惑をかけてしまったけど、これって私が今年始めて新年の挨拶をしたことになると思う。

 それに私はにやけていた。

 先輩に迷惑かけてるとはわかってるが、こんな些細なことで幸せになれるなんて私はなんてちょろい女なんだろうか。

 浮かれ気味の私は先輩にこう声をかけた。


「先輩、四月からの一人暮らしで寂しくなったらいつでも私に連絡していいですからね!」

『え』

「じゃあまた学校で!」



 電話の向こうで先輩が固まっていた気がするけど、私は電話を切って早々に布団に入ったのだった。


 その晩はとっても、とっても幸せな気分で眠ることが出来た。



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