とある男の企み【三人称視点】
ガッシャーン!!
「…おいおい何荒れてんだよ」
「うるっせ!」
「ほっとけ。高校退学になってずっとああなんだよアイツ」
男は荒れていた。
以前から素行は悪かったが、ここ最近増々荒れて周りも腫れ物に触るような扱いをしていた。
男の両親はとうの昔に男を見限っていた。
なんたって元々仮面夫婦で子供に見向きもしない冷えた家庭だったから。
子供には金を与えるだけで、愛情らしい愛情は与えない。
子供がなにか起こせば金の力で解決できるくらいの稼ぎがあった。だからいつも金で解決していたのだ。
それが男の非行を助長することになる。
始めは親にこっちを見てほしくてやっていたことはだんだんと利己的な自分勝手な理由に変わっていった。
ここにいる仲間は大小あれどもなにか抱え込んだ人間で、始めは孤独を埋めるために集まったようなものだ。
だが、家庭に恵まれなかったり、なにか挫折を味わった人間が全てこうして非行に走るわけではない。不利な立場にいながらも真っ当に生きている人はたくさんいる。
他人には見えないだけで、人は何かしら抱えているもんだ。彼らだけが大変なわけではない。
だけど、男は自分に下された罰を受け入れることができなかった。あろうことか自分がやらかしたことを逆恨みするように、ある二人の姉弟を憎んでいた。
「…ぜってぇアイツ潰す…」
男は一瞬無表情になったかと思ったが、にたり、と不気味に口を歪ませた。
「…アイツ…姉貴のことになるとムキになっていたな…」
(なんでも持っているアイツは、自分が持たぬ“兄弟”も持っていた。
それを思い出すと、余計に怒りがこみ上げてくる。
生意気だ。仲間に入れてやったのに。
一年のくせに俺に盾突きやがって。
あの女もふざけやがって。あの女が風紀なんか呼ぶから俺はこんな目にあったんだ!)
「…どうしてやろうかな…やっぱり、目の前でひどい目に遭わせているのが一番効くか?」
先程までの不機嫌は何処へ。
男は面白いものを見つけたかのように楽しげに、今までたむろっていた店を出ていったのであった。
外に出るとだらしなく着こなしているジーンズのポケットからスマホを取り出し、とあるところに電話した。
「…あ、もしもし? …俺だけど、ちょっと手ぇ貸してくんない?」
笑んで細くなった男のその瞳には怪しい光が走っていた。




