表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
攻略対象の影薄い姉になったけど、モブってなにしたらいいの?  作者: スズキアカネ
番外編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

280/303

お星さまになった少女と犬・前編【三人称視点】


 ぷくぷくの赤ちゃんだった田端あやめのはじめての友達は、お隣のお家のシベリアンハスキー・アスターだった。

 病院で生まれた後、母親の腕に抱かれてはじめて自分のおうちに入ろうとした赤ん坊あやめを見た散歩中のアスターは母性本能を爆発させた。

 それから毎日田端家に通っては、あやめがどうしているか確認しに来ていた。はじめのうちは周りの大人たちも、アスターがあやめに危害を加えるんじゃと怖がっていたが、あやめ本人はアスターを見ると怖がるどころかきゃらきゃらと笑っていた。生まれたばかりで視力の弱いあやめの目には、色彩のはっきりしたアスターの顔が面白く映ったのであろう。


 あやめは順調にすくすくと成長していき、自由に動き回るようになった。そこで活躍したのがアスターである。

 その頃にはもう既に田端家公認となっていたアスターはベビーシッターよろしく、あやめが危険なことをしようとすると身体を張って止めた。自らがクッションになることもあった。自分が犠牲になることもいとわない忠犬であった。

 そんなアスターにあやめが懐くのは当然であり、あやめがはじめて発した単語は「あしゅた」。親を呼ぶのではなく、ベストフレンドであるハスキー犬のアスターの名前を一番最初に呼んだのである。


 それにはあやめの父親は激怒した。彼いわく、自分が最初に呼ばれるはずだったのにとのことだ。

 あやめの父親は大人気なくあやめからアスターを幾度となく引き離そうとしてアスターに威嚇された。あやめはアスターがいじめられていると勘違いしてアスターを庇う素振りを見せる。それにまたあやめの父親が地団駄を踏むの繰り返しだったが、彼らは決して仲が悪いわけではない。

 ただ、あやめが大好きなライバル同士だったのだ。


「あしゅたー、プールちべたいね」


「あすたー、あーちゃんのアイスあげる」


「アスター! ランドセル似合う? あやめ、もうすぐ小学生になるんだよ!」


「アスター聞いてよ。公園で意地悪な5年生とっちめてきたよ!」


 アスターはずっとあやめを見守っていた。

 自分よりも小さかった赤子が大きくなり、自分の体高を越して、活動範囲を広げていく姿を見守っていた。

 おてんばで突拍子もない事をしでかすあやめを我が子のように思っていたアスター。アスターはあやめと一緒に歳を重ねていった。


 アスターに病が見つかったのは、あやめが小学3年生の頃である。だんだん痩せてきて食欲がなくなっていくアスターを心配した飼い主が病院で検査を受けさせると、アスターの体を蝕む腫瘍が見つかったのだ。

 治療へ…と行きたいところだったが、アスターはもう既に老犬の域を超えた12歳。獣医師からは残りの時間を穏やかに生きられるように、と消極的治療をすすめられたそうだ。


 アスターは日に日に弱っていった。

 ほぼ一日中眠り続け、食欲もなく、鳴きもしない日が続き、飼い主さん一家もそんな愛犬を見ては心を痛めていた。

 しかしそんな彼が元気になる瞬間があった。


「アスター、調子はどう?」


 ランドセルを背負ったあやめが学校帰りに顔を出してくれる時間帯だ。あやめが来ると、それまで元気のなかった尻尾をパタパタと揺らして喜ぶアスター。

 あやめはそれからしばらくの間、アスターの身体を優しく労るように撫でてくれるのだ。その時間は安心できるのか、アスターは穏やかな表情でまどろんでいた。

 アスターに寄り添っていたあやめはアスターの体の負担にならないように、痩せてしまった身体にそっと頭を乗せた。自分よりも大きかった友達がすっかり小さくなってしまった。初めてできた友達の命があと僅かなのだとあやめも悟っていたのだ。


 とくん、とくんと伝わってくる心音。自分よりも体温の高いアスター。

 あやめはこの感覚をだいぶ前から知っている気がした。アスターではない、別の誰かをこうして抱きしめていたことがあった気がしていた。



■■■■■



あやちゃん、これおすすめの乙女ゲームなんだ」


 セーラー服に身を包んだ少女が一枚のゲームソフトを差し出す。少女は友人に同じものを好きになってほしくてお気に入りのゲームを貸すことにしたのだ。好きになってくれたら御の字。そんでもって好きな攻略対象について語れたら尚良しと考えていたのだ。

 それを受け取った少女・綾はまじまじとゲームパッケージを観察して不思議そうに首を傾げていた。


「【花咲く君へ】…? ふぅん…やってみるね、ありがと」


 綾は乙女ゲームをやったことがなかった。ゲームと言えば、わんわん物語という犬育成ゲームを地道に楽しむ程度であり、そこまでゲームに詳しくなかった。

 乙女ゲームと言うと恋愛シミュレーションゲームだ。正直そこまで興味はなかったが、オススメされるくらいだ。きっと面白いのであろう。借りたからには感想を言わなきゃいけないので、早速家に帰ったらやってみようと通学用のカバンにそれを収めたのである。



「ただいまー」


 綾はひとりっ子だ。両親は共働きで日中はいつも一人だったが、寂しくなかった。帰宅した綾の前に赤毛の毛玉が特攻してきたからだ。


「わふっ」

「今日もお出迎えありがと、こう


 綾の家ではメスの柴犬を飼っていた。名前は綾が付けた。綾が虹を拾った際に、空に二重の虹が見えたからそれを音読みにして虹と名付けたのだ。

 迷子になっていた生まれて間もない仔犬だった虹。彼女と綾はいつも一緒だった。鍵っ子だった綾だったが、虹をお迎えしてからはお留守番も寂しくなくなった。お世話もお散歩も綾の担当だ。そんな綾を虹は信頼しており、いつだって虹は綾の理解者であり、愛する家族であった。


「今日ね、学校で友達から乙女ゲーム借りてきたんだ」


 横にいる虹をワシャワシャしながら、リビングのテレビにゲーム機をセットする。正直自分に乙女ゲームなんてファンタジーなもの合うのかなぁと不安ではあった。

 ところがどっこい、乙女ゲームを進めていくとどんどんそのストーリーにハマっていき、綾は次のシナリオは!? この攻略対象に近づくにはどうしたらいいの!? と夢中になった。


「はぁぁ雅ちゃん可愛い超かわいい。至急三次元の世界にお越しいただきたい。しかし伊達、テメーだけは駄目だ」


 特に、ライバル役の少女の登場に歓喜し、まるでアイドル崇拝のようにキャーキャーと騒ぐ始末であった。

 そんな綾を虹は生暖かく見守り、静かに横に寄り添っていた。たとえ、彼女が一部の攻略対象に怨嗟の声をあげようとも……虹は忠犬であり続けたのである。


「伊達はどうでもいいから、雅ちゃんを攻略する方法はないの!? 友情ルートとか!」


 ウルサイなぁ…。といいたげな目で生暖かく……やかましい主人を見守り続けていたのだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ