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攻略対象の影薄い姉になったけど、モブってなにしたらいいの?  作者: スズキアカネ
本編

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将来の夢はない。だけど自分なりに考えてはいる。

 文化祭を終えて数日後、HRで担任からとあるものを配られた。


「これを保護者に見せて来週火曜までに提出するように」


 私の手元には三者面談のお知らせと書かれているプリントがある。私はそれを見た瞬間げんなりしてしまった。

 そうだ、私は来年三年なのだ。そんな時期が来てしまったのか。

 しまった…具体的に考えてなかった。


 ぼんやりとは考えたことはあるのだけど、こうする! とははっきり決まっていない私の進路。自分の人生のことなのだから自分で納得した進路にしたいところだ。

 私は休み時間になって友人たちに進路について、参考として尋ねてみた。


「進路?」

「うん皆はどうするかなぁって」

「あたしは進学するよ。留学してみたいんだ」

「そっか…リンは?」

「私は就職かな。進学も考えてたんだけど、下に兄弟がいるから親に負担かけたくないんだよね。奨学金借りてまで大学に行きたいわけじゃないし」

「あー…そっかぁ…」


 友人たちの進路を聞いてみて私は頭を抱える。

 みんなちゃんと考えてるし…! 私出遅れてるわ…

 

「どうしたのよアヤ」

「…したいことがまったくなくて進路が決まらない…」

「あぁ…」


 しかしリンの言うことも一理ある。

 私も一学年下の弟がいるし、経済的負担は大きすぎる。

 奨学金という手もあるが、あれは借金をすることなのだ。よく考えた上で借りないといけないものだ。それをしてまで勉強したいかと言われるとそうでもない。


 就職は大変だけどもお金を稼げるし、私はそちらのほうがいいのではないかとも考えている。大学進学者より早く社会人になるだけだ。

 まだ学歴社会とか学歴による給与の差はあるけど、そのために進学するのはなにか違う気がして。

 大学は勉強するところなのに就職のために行くってのはどうなんだろうかと私は思うのだ。世の中ではそんな流れになってるのは否めないが。


 専門職を目指していて進学を要するならわかるんだけどね。



 それにしても私は高校生活何をしていたんだろう。やりたいことがまったくない。


 私はバタリと机に倒れ込んだのである。




☆★☆




「あやめちゃん! ねぇ一緒に帰ろ?」

「私、今日弟と一緒に帰るんだ…だからごめんね?」

「えっ、和真くんと? 私も一緒に帰っちゃダメかな?」

「…ごめん寄ってくところがあるんだ」


 あの後夜祭の時に見せた表情は鳴りを潜めて、林道寿々奈はまた以前のように私に絡んできた。

 私はそれにいつも理由をつけて断っている。

 今日は本当に用事があって、買い物して帰らないといけないので彼女がいるとやりにくい。


「ええ? 私も着いていくよ?」

「ただスーパーに行くだけだよ? 今夜両親が法事でいないから私達で今日明日の食事の用意しないといけなくて」

「! それなら私お夕飯作りお手伝いするよ!」


 林道寿々奈の提案に私はぎょっとした。

 何言ってるんだこの人。


「え? いや、それは大丈夫。ほんとごめんけど…」

「私、結構お料理得意なんだよ! あやめちゃんもその方が楽でしょ?」

「姉ちゃん遅ぇよ。何してんの?」


 林道寿々奈の勢いに飲まれていると、二年の教室までやってきた和真がしかめっ面をしてそう声をかけてきた。

 昼休みに夕飯の材料買うから買い物ついてこいと私からメッセージを送っていたのだが、私がいつまで経っても降りてこないからわざわざ迎えに来てくれたらしい。

 言っておくけど私は急いでいたのよ。弟よ。


「ごめんかず「和真君っ! ねぇ私も一緒に帰っていいでしょ? 私がお夕飯作ってあげる!」」


 林道寿々奈は和真を見るなり瞳を輝かせて、私の言葉にかぶせて和真にそう言った。

 和真の返事次第ではこの人家に招くのか…と私は無意識に引きつった顔をしていたらしい。私をちらりと見た和真はため息を付いて煩わしそうな顔をした。


「いや来なくていい。スーパー行くだけだし、姉ちゃんは料理がうまいから大丈夫」

「…言っとくけどあんたも作るんだよ?」


 褒められて嬉しいんだけど、まるで私が全て準備するみたいで嫌だったので和真の腕をつついてみたら面倒くさそうな顔された。こいつ…。

 今の時代男も料理位できてないとダメだと思うんだ。


「私を褒めても手伝わせるよ? 私はそんな優しいお姉様じゃないからね?」

「知ってる。…もう行こうぜ。売り切れる」

「何がよ」

「鳥むね肉」

「誰が唐揚げにすると言いましたか」


 和真は私の右腕を掴んで引っ張りスタスタ歩き出す。

 後ろから「和真君!」と林道寿々奈が弟を呼んでいたが和真が振り返ることはなく。


 和真は林道寿々奈に攻略されている様子がないので私は内心ホッとする。

 電車に乗り、最寄り駅まで到着して私はようやく息を吐いた。林道寿々奈が追いかけてくるんじゃないかなとドキドキしていたので。


 和真は私のそんな様子に気づいているようだが特に何かを言うわけでもなく、スーパーに入るなり自分から買い物かごを取って先へ行く。足早に向かったその先は…


「ちょっと! 何真っ先に精肉コーナーに行ってるの!?」


 何が何でも唐揚げがいいらしい。弟の唐揚げ好きは相当なものだと思う。

 将来は唐揚げ屋さんになりたいとか言うんじゃなかろうか。

 いくら鶏肉でも揚げ物は太るんだからね。




 結局唐揚げになった夕飯を弟と摂りながら私は弟に進路について質問してみた。

 親がいない今が一番聞きやすいと思ったのだ。


「和真さぁ将来の夢とかある?」

「は? 何急に…特に無いけど」

「今度三者面談があるんだけど、やりたいことがないから就職しようと思ってるんだよね」

「大学でやりたい事探せばいいじゃん」

「何も決まってないのに大学行くのもなんかね。お金もかかるし翌年はあんたも大学入る計算でしょ? 大学って学費べらぼうに高いんだから」

「俺は大学行ったほうがいいと思うけど…」


 姉ちゃんって真面目だよなとボヤきながらモリモリ唐揚げを消費する和真。

 あんたも来年同じように考えないといけないというのに呑気すぎるだろう。


 …大体こいつはさっきから唐揚げとご飯の往復ばっかして副菜に一切手を付けていない。

 私は無言で唐揚げの乗った大皿を和真から遠ざけるのであった。





☆★☆



 数日後、三者面談の日がやってきた。

 その日は二年生の授業は午前中で終わり、三者面談の予定がない生徒たちは帰宅することになっている。

 私は午後一番の面談だったので、現在先生と母と私の三人で面談をしていた。 

 

「田端さんの進路ですが…就職ということで希望表は出されてるのですがお母様はお話をお聞きになってますか?」

「いえ、まだ具体的な話を本人としていないもので…私共としては娘の希望通りの進路で見守ろうと考えているのですけども」

「そうですか…ですがね、大卒の方が就職先は恵まれてるんですよ。高卒の就職は賃金は低いものが多いし仕事の幅も狭い。同じ仕事をしている大卒者に収入を追い越される可能性だってあるんです。私としては就職よりも進学を勧めたい」

「…あやめ、どうする?」


 うちは進学校だ。進学に力を入れている。だから担任からこんな事を言われる気はしていた。

 だけどハイそうですかと簡単に頷ける話ではない。大学もタダではないのだから。


「就職で。私、別に勉強したいわけでもないし…したい事もないから大学行く理由がないんです。収入云々って言うけどどっちみち学費がかかるんだし、元を取るのに時間がかかる気がします」

「田端の言うことはわかる。だがな、世間はお前が思うよりもずっと厳しいものなんだよ。やりたい事なら大学に入っても見つかる」

「私は就職がしたいんです。私には一学年下の弟がいるから親に負担をかけたくないし、奨学金という名の借金を背負うのも嫌なんです。もしも私に将来したい仕事があってそれに専門知識が必要なら奨学金を背負う覚悟ですが、それがありません。軽い気持ちで行くのは嫌なんです」

「あやめ、学費なら大丈夫よ。学資保険に入っているし…お母さんもパートに出てもいいし。心配しなくていいのよ?」


 担任の脅しに似た説得を受け、就職に賛成の意を示していた母まで私の進学に心が揺れていた。

 話し合いは平行線で「今度先生とまた話そう」と担任に言われてしまい、三者面談は意見の不一致で終了したのである。


 その後母と少し口論になってしまった。

 先生も母も私の話を聞いてくれない。理由を話してもわかってくれようともしない。

 私はそれに苛立っていた。


「私もう高2なんだよ! 私の人生は私のものなんだから親だからって強制しないで!」

 

 私がそう言うと母は閉口し、悲しそうな顔をしていた。私はそれを見て「やばい」と焦ったが、言ってしまったものは今更取り消すことはできない。



 私は自己嫌悪に陥った。

 先生に言ったことも母に言ったことも全て本音だ。理解してくれないから反抗する、それじゃただの子供のする事だ。

 先生の言い分もわかっている。わかっているんだけども…



 学校を後にして母と二人肩を並べて無言で帰宅すると私は逃げるように部屋に入る。投げ捨てるように鞄を置いて私はベッドに倒れ込んだ。


「…馬鹿か私は…母さんに八つ当たりしてんじゃないよ…」



 その日は母さんと顔を合わせるのが気まずくて、私は母さんと目を合わせることができずにいた。

 それからしばらく私は母さんと話せなくなったのである。



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