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攻略対象の影薄い姉になったけど、モブってなにしたらいいの?  作者: スズキアカネ
番外編

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211/303

私がそこに現れるとわんわんパラダイスになるのは常。モテる女は辛いってこと。


 間先輩とマロンちゃんを引き剥がし、ドッグカフェに入った私。ドッグランでいざ、マロンちゃんと遊ぼうとしたら、他所様のワンちゃん達が私の周りを包囲した。

 ここまでは通常通り。だが、


「ウウウウーッ」

「グゥウウウウウ」

「ギャン!」

「あっやめて、これ貰い物だから穴は開けないで…」


 犬にもペアルックの概念があるのか、私とマロンちゃんを見たワンコたちはわかりやすく嫉妬してきた。 

 この格好がマロンちゃんとのおそろいと知るなり嫉妬深いタイプのワンちゃん達がオーバーオールの服を噛み始めたのだ。噛むだけじゃなく、噛み付いたままブンブン首を振って引っ張ってくる。

 デニム生地だから頑丈だけども…これ、貰い物だからやめて。私物でも止めてほしいけど…


「グゥウウ…ギャワワン!」

「ほらほら仲良く、仲良くね?」

「……キューン…」


 特にひどいヤキモチを妬いている気性の荒いポメラニアンを抱っこしてワシャワシャ撫でてあげると、なんということでしょう。私のゴッドハンドによっておとなしくなったではありませんか。


 だけどその周りでは更に嫉妬するワンコたちが加熱するのみ。

 ギャワギャワと吠えられる吠えられる。心なしか抱っこしているポメラニアンがフスッと優越感たっぷりの眼差しでワンコたちを眺めているような気がする。君の優越感を満たしたか。それは良かった。

 まさかペアルックでここまで嫉妬されるとは思わなかった。本当に私から犬フェロモン出てるのかな…。


 仕方ないので寄ってくるワンコ一匹一匹相手してあげる。

 その現場にトコトコとマイペースに寄ってきた田中さんが私の手にテニスボールを押し付けてきた。あ、花恋ちゃん達もドッグカフェに来たのかと思った私は顔を上げて彼らを目で探したのだけど…


 花恋ちゃんと陽子様はスマホでこっちを撮影していた。

 …あの、私大変な状況なんですが。なに楽しそうに撮影してるの?


「相変わらず犬に好かれてるよなお前。うちの実家で昔飼ってたクロもお前のこと好きだったもんなー。お前が帰る時すっごい引き留めにかかってた覚えがある」


 そうね。当時4歳だった私の写真が家に残っているけど、幼い私はクロ(雑種)に洋服を噛まれて引き留められていた。

 結果履いていたズボンが脱げてずっこけた私がクマちゃんプリントのおパンツ姿で泣いている写真が残っていたわ。何故そんな写真を撮ったのかと両親を問い詰めたい気分である。

 何も考えていない母が先輩に頼まれたからと軽い気持ちでアルバムを見せて、その黒歴史を見られてしまった私は発狂したものだ。

 それを可愛いと言われても嬉しくない。


 蓮司兄ちゃんが寄ってきたけど、ワンコ達は蓮司兄ちゃんに目もくれない。むしろ私に声を掛けたことで、ワンコたちにグルグル唸られている。


「ボール取ってこーい!」


 田中さんに渡されたテニスボールをぶん投げると、田中さんを筆頭にしてワンコたちがボールを一斉に追いかけ始めた。


 周りを囲んでいた犬たちが離れてくれて、やっと解放されたと思ったら「クゥン…」と控えめな鳴き声を上げて寄ってきた大型犬ゴールデンレトリバーがいた。

 気性の荒い子達に遠慮していたけど、ボールを追いかけていなくなったこの隙に寄ってきたらしい。

 ゴールデンレトリバーの頬をワシャワシャしていると、ボールを追いかけていた田中さんがとっとこ駆けてきて、取ってきたテニスボールを私に押し付けてきた。


 …その後ろから猛攻のワンコたちが押し寄せてきていた。 

 すかさず私はボールを遠くに投げたのである。




 追いかけっこしたり、ボール遊びしたり、ペアルック洋服を噛まれたり…

 沢山のワンコの遊び相手をした私は満身創痍であった。…疲れた…


 力尽きて芝生の上で倒れている私の上に乗っかってくる小型犬達。顔にお尻をつけてくる田中さん。私の腕に顎を乗せてマッタリするマロンちゃんに、身体に寄り添うようにして寝転がるゴールデンレトリバー…他にも新たに集まってきたワンコたちに囲まれ、私はワンコの逆ハーを築いていた。

 いくら小型犬でも3匹も乗ったら重いのよ…ポメラニアンにトイプードルにチワワ…みんな可愛いね…でもちょっと重いかな…動き回られると私のお腹に君たちの可愛い手足がめり込んで苦しいから降りようね…


 持ち上げて下ろしてもまた乗っかってくるし…何故上にこだわるんだ。

 私はワンコたちが満足行くまでそうさせておこうと思っていたのだが…


「おーいあやめー」

「…なに」

「…すごいな」

「…!?」


 その声の持ち主を目に映した瞬間、私はぎょっとして起き上がった。その際小型犬とマロンちゃんを驚かせてしまったが、私は彼らを気遣うどころではなかった。


「先輩!? なんで!?」


 なんで先輩がここにいるのか。私は色んな意味でショックであった。

 やだもう今日薄化粧だし、髪ボサボサで、洋服なんてマロンちゃんとおそろいだし、遊び倒して汚れてしまったのに… 

 私はそれを見られるのが恥ずかしくて、パーカーのフードを深く被って顔を隠した。


「いや…ついそこで遭遇した間が1人で悪態吐いていたのが気になってな。…あいつに声を掛けたら因縁をつけられて困っている所で蓮司さんに店の中から呼び掛けられたんだ」


 …間先輩、無関係の亮介先輩にも八つ当たりって…あんた本当成長しないな。

 先輩はお祖父さんお祖母さんに顔見せに帰ってこいと言われたので、橘家に寄って帰るところだったらしい。


「…蓮司兄ちゃん、余計なことを…」

「え? なんだよ。彼氏に会えたんだから喜べよ」

「このひどい格好で彼氏に会いたいと私が思うと思ったのか!?」


 余計なお世話だよ! バカ従兄め!


「…フードも柴犬なんだな」 

「これは…マロンちゃんとおそろいなんです…」


 先輩もマロンちゃんの存在を知っているけど、接触はしたことがない。以前学校で遭遇したときも目にしただけだったし。


 先輩は犬好きなのか、マロンちゃんと目を合わせるようにしゃがんでジッと目を見つめた。そして下から手を差し出した。

 クンクンと先輩の手の匂いを嗅いでいたマロンちゃんだが、どうやら合格点をもらったらしい。先輩はワシャワシャとマロンちゃんを撫でていた。

 マロンちゃんは先輩に撫でられて気持ちよさそうに目を細めている。…私はそれを見て嫉妬した。マロンちゃんズルい。


 先輩の背中にゴスゴスと頭突きをしていると、後ろ手に撫でられた。先輩のナデナデが嬉しくて私も目を細めた。


「犬かよ」


 蓮司兄ちゃんうるさい。


「あ、いい写真撮れたよ〜あやめちゃんに送るね〜」


 私が先輩に頭を撫でられている写真を花恋ちゃんが撮影してくれたらしい。

 スマホが壊れないように鞄ごとロッカーに預けているのであとで確認しよう。


「あら、橘さんにも懐いたのね、マロンちゃん」

「柴にしては人懐っこいな」


 そういえばそうだな。柴は警戒心が強いから、媚びない子が多いイメージなのにマロンちゃんは先輩にすぐ懐いた。


「うーん、多分あやめさんと仲がいいのがわかったのよ。克也なんて表に出しすぎてマロンちゃんどころか、田中さんにも下に見られているし」


 そういうものなのだろうか。

 ていうか間先輩って動物好きなイメージがないんだよね。温和な性格の田中さんとすらも微妙だし。

 動物は鋭いから間先輩の苦手意識を読み取っているのかもしれないな。マロンちゃんは例外として。


 グイグイ

「ハッハッハッ」

「…またボール遊びするの?」


 休憩タイムは終わりらしい。

 再び田中さんにボールを押し付けられた私は遠くに投げた。私の膝に乗っかっていたポメラニアンの子がピョンと飛び降りたのを皮切りに、他のワンコたちも一斉にボールを追いかけ始めた。


 遊びに遊び終わったその後、犬たちが帰路についたのを見送ると、私達もそれぞれ解散することにした。

 帰り際に陽子様から「あやめさんとマロンちゃんのツーショット写真を引き伸ばしたら額縁に入れて送るわね」と言われたが、私はそれをどうしたらいいのだろうか。部屋に飾れってか。


 最後までドッグカフェにいた先輩が家まで送ってくれると言うが、まだ時間は19時前だから送らなくても大丈夫とお断りした。

 だって私の格好今ひどいんだもの。ワンちゃんが噛み付くからパーカーに穴があいちゃったし、土汚れで薄汚れてしまっている。

 陽子様は差し上げたものだから気にしないで。とは言っていたものの、新品だった服は着古したかのようにボロボロになってしまって…結構ひどい惨状だ。


 あれからずっと一緒にいたとはいえ、あまりひどい格好の私を先輩に見てほしくない私の乙女心である。

 フードを深く被ってソソソ…と後退りして逃げようとしたら先輩は大股でこちらに近づいてきた。


「視界を塞ぐと危ないから目元を隠すんじゃない」

「一人で大丈夫ですってば」


 バッとフードを抑えていた手を捕まれた私は唸った。


「…じゃあ私の顔を見ないでください。家に着いた後も決して見てはなりませんよ」

「鶴の恩返しか」


 意地悪な先輩は私の乙女心なんて理解してくれないらしい。無慈悲にもフードを取り払ってしまう。

 晒された私の顔。私は恥ずかしくて両手で顔を覆い隠した。


「もうっ何するんですか!」

「お前は今更何を恥ずかしがっているんだ」

「だって限りなくすっぴんに近いんですもん!」

「可愛いんだから問題ない」


 私が地味顔コンプレックスを抱いているのを知っているくせに、先輩は真顔で堂々と言いきった。


「〜好きッ!」


 私がときめくのは致し方ないことだ。

 彼氏様に抱きつかずにはいられなかった。なんでそんな事簡単に言っちゃうの!? 先輩ったらもう…好き!


「……お前たちは道端で何しているんだ」

「兄さん」

「お兄さん聞いてくださいよぉ〜! 先輩が私のこと可愛いって言ってくれたんです〜!」


 どこかに行った帰りなのか、通りすがりの橘兄に呆れた顔で声を掛けられたので、この喜びをお裾分けするべく惚気けてみたら、橘兄は遠い目をした。


「…本当…お前たちはめでたいな…」

「仕方ないでしょう! 亮介先輩を前にしたら、私はちょろい女になってしまうのです!」


 だって仕方ないじゃん! 可愛いって言われたんだもん! ついついはしゃいじゃうよ! 

 橘兄はちょっと死んだ目をしていたが、きっと勉強して疲れているのだろうな。


「お兄さん、犬でも食べられる小麦胚芽のビスケット食べます?」

「いらん」 


 素朴な味で美味しいのに。そこまで甘くないよ?

 橘兄はメガネを外して眉間を揉んでいた。お疲れなのね。橘兄は興味をなくしたのか、ただ単に疲れたから早く帰りたいのか「じゃあな」と軽く挨拶して帰ろうとしていた。


「…恵介、亮介…?」

「…父さん」

「…こんな所で一体何を?」


 名前を呼ばれた先輩と橘兄はすぐに反応していた。

 私も一緒に振り返るとそこにはお仕事帰りらしき橘父の姿。あら、いつも残業続きと聞いていたのに随分早いのね。

 兄弟が揃っているのが珍しいのか、まばたきを繰り返していた彼は、私に視線を移すと眉間にすっごい皺を作って此方を凝視してきた。

 その顔の迫力に私は圧倒されて息を呑んでしまった。


「…君は…」

「お、お久しぶりでございますお父様!」


 声を掛けられた私は背筋を伸ばしてご挨拶をした。橘父の緊張感が未だに慣れないんだよ。先輩の説教モード思い出しちゃうんだもの!


「……あやめさんか…どうした、その格好は一体」


 橘兄は突っ込まなかったけど、橘父は私の格好を突っ込んできた。それに急に恥ずかしくなってきた。かぁっと自分に頬に熱が一気に集まった気がした。

 柴犬プリント&柴犬フード付きのパーカーにオーバーオールという子供っぽい格好をした花の女子大生(19)…は、恥ずかしい…!


「あ、いえ、別にすっごい柴犬が好きとかじゃなくて、貰い物といいますか…」


 私は慌てて否定した。普通に柴犬好きだけど、ここまでするほど柴犬が大好きってわけでもない! そしてこの服は私の趣味ではありませんから!


「そうではなくて、服がボロボロじゃないか…」

「……えっと、ドッグランでワンちゃんと戯れた結果といいますか、服はこんなんですが私は無傷です、はい」


 びっくりした。橘父は私の着用している服のボロボロ加減が気になっただけのようだ。ただ心配してくれただけなのか。


「…ならいいが……君は急いで帰る用事でもあるのかな?」

「えっ? あ、いえ…特には」

 

 門限のことなら大学に入って伸びたよ。成人したら多分更に伸びると思われるけど…それがどうかした?


「ならうちで夕飯を一緒にどうだ?」

「えっ?」


 思わぬ誘いに私の頭は真っ白になった。


 もしも、私がきれいめの格好で清楚系メイクのままだったら即OKしていたはずだ。先輩の家族とは仲良くしたいからね。


 だけど、今の格好を見てみよ。

 ボロボロで汚れているし、すっぴんも同然、髪は櫛で梳いたものの、かなりひどい格好なのだ。


「…す、すみません、母が…食事を作ってくれていると思いますので…」

「…そうか…」

「すいません…折角のお誘いなのに…」


 橘父がちょっと残念そうな反応をしたのが分かった。

 でもこんなひどい格好でお邪魔する神経は持ち合わせていないのだ。お家を汚してしまうかもしれないし、TPOがね?


 格好はひどいし、お誘いは断るし……橘父の中で私の印象が悪くなったような気がしてならない。

 何故私はこうもタイミングが悪いんだ…



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