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攻略対象の影薄い姉になったけど、モブってなにしたらいいの?  作者: スズキアカネ
番外編

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202/303

シリアスとコミカルの融合。2人の父のテンションを足して2で割ったらちょうどいいと思うんだ。

あやめ大学1年のお正月のお話です。


 今年は和真が受験生・私はもう大学生なので祖父母の家には帰省しない。もうお年玉は卒業する年だし、行っても楽しくないしね。

 私達だけ残るから帰省してもいいよと両親に言ったけど、そもそも父方の祖父母の家だから母さんは別に帰りたいわけではないらしい。

 母方の祖父母は別の市町村に住んでて、たまに母さんと一緒に会いに行っている。帰省シーズンに田端の祖父母の家に行っていたらどうしても母方の家に寄る時間がない。なので日を改めて顔を出しているのだ。

 母方祖父母もゆっくりお話したいからその方が良いと言っていたからそれでいいのかな。


 なので消去法で父さんだけ帰省してきて。という事になったのだが…


 そしたら父さんは寂しがって「じゃあ父さんも帰らない!」と言い出した。いやいや、父さんにとっては向こうが実家だから帰るべきだと思うの。私と母さんでタッグを組み、父さんを追い出し…見送った。3日分の着替えなど諸々が入ったスーツケースを車に積んで父さんを外に放り出したのだ。

 父さんは一人で帰省した。ただし、31日昼13時に帰省して1日朝8時に戻ってきたけど。バカじゃないの。早朝に向こうを出てきたっていうのか。滞在時間短すぎるだろう。帰省の意味よ。

 ちなみに田端の祖父母宅まで車で片道2時間位だ。



 それはさておき、1月2日に私は今年も先輩と一緒に初詣にやって来た。年末に今年最大の寒波がやってくると言われていたが、新年迎えて一層寒くなった気がする。また今年新たな最大の寒波がやってくるんでしょどうせ。厚着してきたけど防寒できていない顔とか耳が寒くて痛い。


「あらあやめも今の時間に来ていたの? 亮介君久しぶり。明けましておめでとう」

「明けましておめでとうございます」

「あ、母さん…1人?」


 やっぱり今年も行列ができていて、私は先輩と参拝の列の最後尾に並んでいた。先輩と私がおしゃべりしながら順番待ちをしていた所で後ろから母さんに声を掛けられた。


「今ね、お父さんがトイレに行っているの。和真はあっちで絵馬を書いているわ」

「あ、3人で来たんだ」


 珍しい。和真のことだから、親と初詣に行くとか恥ずかしい〜と言って行かないかと思ったのに。


 和真は私と同じ国立大学の工学部を志望している。工学部とは意外だ。やりたい事ないけど大学に行くって言っていたけど、何かしたいことを見つけたから工学部を選んだのだろう。


 …私は和真が真面目に勉強に取り組む姿を初めて見たかもしれない。

 高校受験まで余裕で勉強せずにクリアして、高校では挫折して、空手に目覚めた和真は程々にしか勉強を頑張らなかったのに、受験生になった途端本気を出し始めた。

 やっぱり和真は地頭が良いのか、ぐんぐん実力をつけ始めていた。私なんて去年のクリスマス散々だったのに。なんたって受験ノイローゼなってたからね。

 和真は一度心身ともにグレた事があるから、毒の吐き出し方が上手になったのかな。だから追い詰められないのかな…



「亮介も来てたのか」

「父さん」

「明けましておめでとうございます。お父様」


 今年も会ったな橘父。クリスマス以来です。先輩いわく私は橘父に気に入られたらしいが……普通だと思うんだけどな。

 私が新年の挨拶をすると橘父は微笑んで返してきた。

 …笑った…笑ったよ橘父が!


「明けましておめでとう…こちらのご婦人は?」

「亮介君のお父様でいらっしゃいますか? はじめまして、あやめの母の田端貴子と申します」

「これは…橘裕亮です。いつも娘さんにはうちの息子がお世話になっております」

「とんでもないです。こちらこそ亮介君にはお世話になって…」


 何やら親同士の挨拶合戦が始まった。2人ともペコペコ頭を下げて挨拶を交わしている。

 なんだか親同士が挨拶しているのを見ると気恥ずかしいんだけど、これ私だけなのかな。


「母さーん、あっちにたこ焼き屋があったから今作ってもらってるよ〜」


「裕亮さん、カステラ焼きなら…」


 そしてこのタイミングで集結した我が父と英恵さん。


「…ども、橘先輩、明けましておめでとうございます」


 そしてダウンジャケット・マフラー・マスクで完全防備の弟の和真の姿。


 初詣客のたくさんいる神社で、偶然彼氏と自分の家族とバッティングするってなかなか無いと思うんだけど。

 話している間に私達の後ろに新たな参拝客が並び始めたので、その流れで全員でお参りをした。ちょっと混乱しててちゃんとお願い事が出来なかった気がする。

 その後は屋台傍のスペースに併設されているテーブル席に着いた。父さんが人数分購入したたこ焼きを囲んで、橘家・田端家合同で食事をすることになったのだ。

 

「本当に亮介君にはお世話になっててー、うちの娘はお転婆なところがあるので、あやめの彼氏がしっかりした男の子ですごく安心してるんですよ〜」

「…お宅の娘さんは大変料理上手で、家の者は見事に胃袋を掴まれました。先週のクリスマスにはとても美味しいケーキやご馳走を用意してくれて…本当に良い娘さんですね」


 私の母と橘父がお互いの子どもを褒め殺している。私は褒められて恥ずかしいけど同時に嬉しかった。好きな人の家族に好印象を与えることが出来てホッとしていた。

 だが、そこに水を差す人物がいた。


「…そうでしょう、美味しかったでしょう…私は…娘がいないクリスマスを過ごしましたけどね…娘の作ったケーキが美味しいのは当然ですよ…」

「…父さん、まだ根に持ってんの?」


 我が父である。会話に入らずにパクパクとたこ焼きを食べていた和真が呆れた目を向けているが、父さんはワナワナ震えて感情を露わにしていた。

 クリスマスに急遽橘家で過ごすことになった為、我が父はへそを曲げていたのだ。

 去年のクリスマスでは私が先輩の家で過ごそうとして過労で倒れてしまったし、今年は先輩家族と過ごしていた。

 だからそれに拗ねているのだ。


 もう私は大学生なのだからいい加減に子離れしてほしいのだが、父は相変わらずである。


「…恥ずかしいから止めてよ父さん」

「娘はとっても料理上手で…本当に可愛い娘なんです! 本当はまだ男女交際なんて早いと思っているんですよ!」

「今年ハタチになるんですけど!?」


 父さんの中で私はまだまだ子供らしい。ていうか彼の両親の前でそんな事言うのはやめてくれないかな?

 父さんが涙目でこっち見てきた。…なんで泣きそうになってるのよ大袈裟だな。


「……親の私が言うのはなんですが、ウチの息子は真面目な奴です。…亮介はあやめさんに対して無責任なことは決してしないと自信を持って言えます。二人は真剣に交際をしていると思います」


 そこで口を開いたのは橘父だった。橘父は私達の交際を応援してくれているような口ぶりであった。


「どうか温かい目で見てあげてはくれないでしょうか。…私には娘はおりませんので、田端さんの苦しみはわかりかねますが…どうか…」


 そう言って深々と頭を下げる橘父。

 わぁぁー! ウチの親ばか父のせいで橘父がシリアスモードに入っちゃったじゃないの!

 バカ! 父さんのバカ!


「す、すいませんうちの父が…お酒でも飲んだんでしょうかね! 気にしないでやってください…はは、あは…」


 どうしたらいいんだろう…

 どうしたら丸く収まるんだろうと必死に考えを巡らせた。

 なんで先輩の両親にそんな事言っちゃうかな! ほんっとに恥ずかしい!


「…わかってますよ…お宅の息子さんには本当に色々お世話になってますから…うちの娘も息子も亮介君に色々助けてもらった恩があります。…礼儀正しいし、真面目だし、将来をしっかり見据えているし、娘を大事にしているのは見て取れます…娘が好きになった相手なんだから、応援したいです」

「…父さん…」


 父さんは涙目ながら、いつになく真面目な表情で評していた。口では恨み言を言っていたが、父さんも先輩のことを認めていてくれたらしい。私はそれが嬉しくて目頭が熱くなった。

 先輩は父さんと仲良くなろうと何度もアタックしてきたが、父さんの大人気ない態度に何度も撃墜していた。だけどこれを機会に歩み寄ってくれたら…


「でもやっぱり面白くないんです! 君も娘ができたらいずれわかるよ…! 娘の結婚相手のことを考えるだけで胸が張り裂けそうで……嫁になんて行かなくていいのに…」

「……」


 父さんは亮介先輩目掛けて、意味の分からないことを訴えだした。先輩は引きつった顔で固まっている。

 おい。感動を返せ。しかも娘って。それって…


「あらやだ〜気が早いわね〜すいませんね、とんだ失礼をしてしまって。亮介君、気にしなくていいからね?」

「痛い! 母さん痛いよ!」

「結婚どころか10年後には孫の顔が見れるかもしれないわね〜」

「孫っ!?」


 母さんが父さんの脇腹を抓って黙らせた。多分タイミングを見計らっていたんだろうが、もうちょっと早く行動してほしかったな。

 父さんは取り敢えず黙って欲しい。


 この騒動の中で傍観していた和真は「腹が減ったから何か買ってくる」と席を辞し、英恵さんは人見知り発動でオロオロしているだけであった。


 橘父はポカーンとうちの両親を見ていた。冷静沈着の橘父さえうちの父の暴走についていけていない様子。

 本当にごめんなさい、正月早々うちの父が…なんでこうも…


 …私は恥ずかしくて顔を上げられなくなってしまった。

 


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