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攻略対象の影薄い姉になったけど、モブってなにしたらいいの?  作者: スズキアカネ
番外編

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幼稚園児なあやめと山ぴょんのちっちゃな冒険。

高3→幼稚園→高3

幼いあやめと山ぴょんと「おにいちゃん」のお話。

「先輩に山ぴょんの恥ずかしい過去をバラしてやるからな!」

「だから俺の恥ずかしい過去ってなんだよ!」

「お前ら…高校三年にもなってそんな子供みたいなことしてないで…」

「だって先輩!」

「お前が俺の過去をばらすというならこっちにだって切り札があるんだからな!」

「なにっ?!」





 学校帰りに放課後デートをしていた私達に、たまたま駅近くで会った山ぴょんが声を掛けてきた。

 普通に挨拶していたはずの山ぴょんだったが、私の事を意地悪くからかい始めた。

 イラッとした私は山ぴょんに反撃がてら尻キックをしようと足を振り上げたのだが、先輩にそれを阻止されてしまった。


「短パン履いてるの知ってるでしょ!? 大丈夫ですよ」

「それでもやめろ」

「お前そんなんじゃ先輩からそのうち愛想尽かされるぞ!」

「なんですって!?」

「山浦もあやめをけしかけるんじゃない」



 その流れから冒頭のやり取りになったのだ。

 うるせー! 彼女と長続きしたことねー奴に言われたくないわ! お前はバスケットボールと付き合ってろ!

 そして結婚してしまえ。勿論キリスト式でな! 大勢の目の前でバスケットボールに誓いのキスをするがいい!


 山ぴょんと私はずっとこんな感じだ。幼馴染らしいロマンスが生まれた試しがない。ここまで来ると同い年の姉弟みたいなものである。


「ほんっと和真も生意気だけど山ぴょんも生意気! 弟が増えるなら先輩みたいな可愛い弟が欲しいよ!!」

「可愛いってお前な…」

「はぁー!? お前自分が姉とでも思ってんのか!? お前が弟みたいなもんだろうが!」

「何言ってるの? 一人っ子のくせに兄貴ぶるなんて片腹痛いわ! 幼稚園の時のあのおにいちゃんみたく頼りがいのある男になってからそのセリフを言いなさいよね!」

「にいちゃんはだいぶ年上だったろうが! 俺だってあの年齢ならもっと」


 喧嘩する私達を先輩は遠い目をして見つめていた。疲れた表情をしているのは気のせいだろうか。


「……何をしているんだお前たちは」

「兄さん」


 口喧嘩する私達に呆れた声を掛けてきたのは橘兄だった。弟が困っているのを見かねたようである。


「そうそう! 先輩のお兄さんみたいに頼りがいのあるお兄さんになってごらんよ!」

「初対面だからどれだけ頼りがいがあるかわからんわ!」


 以前は幼馴染でも他人だからと嫉妬していた先輩も、私と山ぴょんの掛け合いを見て下方修正したらしい。もう諦めの表情を浮かべていた。

 兄弟げんかのような私達の掛け合いを見て、橘兄が何かを思い出していたかなんて知ることもなく、私は山ぴょんの太ももに回し蹴りをかました。



☆☆☆



「大志くん、昨日のテレビ見た?」

「見た! アマゾン探検だろ!」

「てなわけで今日は探検ごっこをしようと思います!」

「えっ…」

「オー!」


 二人の幼児がノリノリで探検ごっこをしようと準備を始めたのを残る一人がオロオロして見守っている。


「お。お姉ちゃん、大志兄ちゃん…遠くに行くと怒られるよ」

「和真は家にいていいよ。大丈夫、ちゃんと帰ってくるから」

「そうそう。母ちゃん達に言うんじゃねーぞ」

「えぇ…」


 涙目で二人を見上げる男の子にそう告げると、二人は水筒やお菓子をリュックサックに収めてそれを背負うなり意気揚々と出かけていった。


 探検とはいっても二人は幼稚園年長組。幼児の足じゃそこまで遠くにはいけない。

 自分達の家や近くのスーパー、公園や幼稚園周辺が行動範囲である彼らはもっと知らない世界を冒険したいという野心が生まれていた。


 親に言ってもきっと駄目だと言われるに決まっているから黙ってやって来た。

 幼い頃によくある無謀な行動である。


「こっちの方行ったことないからこっち行ってみよう!」

「あっ川があるぞ! 行こう行こう!」


 普段なら危ないからと近寄らせてもらえない河川敷に入ると、この川が続く先まで行ってみようと二人は寄り道しつつ先へと進んでいく。

 二人は今まで入ったことのない場所に興奮していた。だから後先を考えずに前へ前へと進んでいく。


 だからどんどん日が暮れ始めていることに気づかないで遊びまくっていた。





「…あれ、ここどこだっけ?」

「お日さま見えなくなっちゃったね」


 二人が我に返ったのは空が夕焼けを通り越してとっぷり真っ暗になった頃である。

 辺りは家や外灯の明かりで真っ暗ではないが、川は不気味に光り、それを見た二人はゾッとしたらしく河川敷から離れて一般道に出てきた。


 二人は歩道に突っ立ち、辺りを見渡す。


「…お家、どこだろう」

「…足が痛いよ」

「大志くん、我慢して。えっと、川がここだから、向こうの方に行けばお家に着くかな」

「痛いよう…母ちゃん…」

「もう! 泣かないの! 大志くんいつも和真には泣くなって言ってるのに自分が泣いたら駄目でしょ!」


 片割れの男の子がべそをかき出したので女の子が喝を入れるものの、相手は泣き止まない。

 幼児の涙は感染するもので、同じく心細くなった女の子もじわじわと涙目になっていく。


「泣いちゃ、駄目なんだから……」


 スンスンと鼻をすすりながら、女の子はしゃくり上げながら泣いている男の子の手を引くと、歩き始めた。

 暗くなっているというのに幼児二人組がうろついているのが目についたのか、二人に声をかける人物がいた。


「…どうしたの? 迷子?」


 大人の男の人だった。ニコニコとしていて人当たりの良さそうな20代後半くらいの男性。

 先程から人とすれ違うこともなく困っていた女の子はやっと人に会えた事に安心して、家までの道を聞こうと相手に助けを求めた。


「あ、あのねあのね、あやめ、お家までの道がわからなくなったの。大志くんもね足が痛いからって泣いちゃって」

「そっか、じゃあお兄さんがお家まで送ってあげるからこっちにおいで?」

「ほんと?」


 女の子は藁にもすがる思いだった。

 同行者は泣きべそをかいているし、自分は道がわからない。足も痛いし心細い。

 その中で差し出された手を取ろうとしたその時である。



「何してるんだ!」

「!」

「おい! 早くこっちに来るんだ!!」

「え? …でも」

「早く!」


 怒声のような声を上げて声を掛けてきたのは小学校中学年くらいの男の子。こちらへ早足で近づいてくると園児たちの手を引っ張って男性から引き剥がす。

 そして少年は男性を睨みつける様にして見上げると硬い口調で話し始めた。


「…お騒がせしました。もう大丈夫ですので」

「あ、そ、そう?」

「あれっおじちゃん!? どこ行くの!」


 先程家まで送ると言っていた男性はそそくさと逃げるようにしてその場から離れていってしまった。

 女の子は慌てて引き留めようとしたが、少年に手を掴まれていており、歩を進めることが出来なかった。


「…にいちゃん、だれ…?」


 ぐしゅぐしゅと泣いたままの男の子が少年を見上げて尋ねると、少年は脱力したように大きくため息を吐いた。

 彼は幼児二人を叱りつけるような視線を向け、何故こんな時間にうろついているのかを問い質した。

 そして帰ってきた返答に再びため息を吐く。


「…住んでる町の名前はわかるのか?」

「んとね…」


 幸い女の子が住所を把握していたため、少年が町まで歩いて送ってくれたので二人は無事家に帰り着くことが出来た。


「おにいちゃん、ありがと!」

「ありがとー!」

「…これに懲りたら大人に黙って探検なんてするんじゃないぞ。それに知らない大人に着いていこうとするのも駄目だ」

「え? でもあのおじちゃんお家まで送ってくれるって」

「いいな?」

「…はぁーい」


 少年に睨まれてしまって、女の子はしょぼんと落ち込んだ。

 この年代は危機管理がちゃんと出来ずに知らない大人の言うことにまで従ってしまう事がある。

 悪意のある大人に気づかなかったのは仕方のないことだが、なにかがあってからじゃ遅いのだ。キツく叱られるくらいが丁度いい。


「怒られてやんの〜」

「お前は人の事を笑える立場だと思っているのか」

「あいてっ」 


 ゴチっと音を立ててゲンコツされた男の子は「いたーい」とヘラヘラしてるので、あまり力の入ったゲンコツじゃなかったようである。


「とにかく、早く家に帰って家の人に謝ってくるんだな。じゃあな」

「ばいばーい! ありがとー!」

「またねー! おにーちゃーん!」


 女の子の『またねー』ところで少年の肩がガクッとなったが、少年は振り返ることなく今来た道を逆戻りして行く。

 幼児二人は彼の背中が見えなくなるまでお礼とさよならの挨拶を叫んでいた。


 その後二人は無事家に帰宅し、それぞれの親にしこたま説教されてしばらく外に遊びに行くのを禁止されたりしたが、それに凝りもせずに「キャッハー!」と親を悩ますワンパク振りを発揮することになる。


 二人共あの時助けてくれた少年とは小学校で会えるかな? と希望を抱いていたが、会うこともなく…

 会えずじまいだった。



☆☆☆



「…いや、まさかな」

「? どうした兄さん」

「なんでもない…おいお前たち、他の人の迷惑になるからやめろ」


 橘兄に止められてしまい、私は仕方なく山ぴょんをしばくのを止めた。

 色々借りがあるので、橘兄にこれ以上逆らうことは出来なかった。


 …なのに、奴は私の気に障ることばかり言ってくる。こいつが喧嘩売ってくるのが悪いんだよ!


「お前、あのにいちゃんのこと黒薔薇のプリンス様みたいとか言ってたよな!」

「だまらっしゃい!」

「ていうかあの当て馬、主人公庇って死んだじゃん。そんなキャラを当て嵌めんなよ。失礼だから」

「うるっさい! 山ぴょんなんか初恋が幼稚園の先生で結婚ってなった時泣きながら略奪宣言しに行ってたくせに!!」

「うるせー! 二次元が初恋のお前に言われたくないわ!」

「初恋は橘勇作さんですぅー! このご兄弟のお祖父様が私の初恋ですー! 二次元じゃありませーん」

「………は?」

「…お祖父様…?」



 売り言葉に買い言葉。

 知っていた先輩はともかく、橘兄と山ぴょんに信じられないものを見るかのような目を向けられた。

 特に橘兄のあんな顔初めて見たぞ。


 枯れ専とかじゃなくて中身にキュンとした。中学の時の話なんですと説明したが、それでも橘兄はめっちゃ動揺していた。

 良いじゃないのよ! ほのかな恋心だったんだから。



 …おにいちゃんといえば…今頃なにしてるんだろうか。

 私があのおにいちゃんと同じくらいの年頃の時、彼と同じくらい頼りがいがあっただろうか。

 男の子になりたいと思った時は彼を意識して頼りがいのあるナイスガイを目指していたけど、彼を超えられただろうか。


 かすかに覚えている少年の記憶を思い出してなんだか懐かしくなった。

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