勉強してないよ。そう言う人ほど勉強してるものだよね。
中間テスト2週間前に入った。
進学校でもある我が高校の生徒達もテストモードに入っていた。
一部除いて。
「和真、図書館行こう」
「…なんで」
「いやあんた、テスト前よ? あのね今まで何もしなくても行けたんだろうけど、世の中の人は皆勉強してるの。あんただって天才じゃないんだから勉強しないと挽回できないの。ということで勉強道具持って行くよー」
「なんで姉貴と」
「お弁当に唐揚げ作ったんだけどなぁ」
「……」
和真は立ち上がって教科書やらノートをリュックサックに詰めはじめた。
唐揚げに釣られるとはちょろい男だ。いい子だから唐揚げあげると言われても人についてっちゃだめだからね。
町内にある図書館には勉強ができるスペースがある。テスト期間には学生でひしめき合うのだが、タイミングよく四人がけの席を確保することができた。
早速私は弟を促して勉強をさせることにする。弟のために高1のときのテスト問題用紙(2学期中間)を引っ張り出してきてやったのでそれを与えると和真はめんどくさそうな顔をしつつ渋々シャーペンを握って解き始めた。
スマホでタイマーをセットして、私は私の勉強をすることにする。
「…あれ? 田端さん?」
小さめの声で話しかけてきたのは本橋花恋。
彼女も勉強しに来たのか、手提げのカバンを持って席を探しているようだ。
「ヒロ、本橋さんもテスト勉強?」
「うん…でもどこも席が埋まってて…」
出遅れた…としょげるヒロインちゃんのために荷物をおいていた私の隣の席を空けてやる。
「ここで良かったら座ってもいいよ」
「いいの? 助かるなありがとう!」
ホッとした様子のヒロインちゃんやっぱり可愛い。明るい色の小花柄のチュニックにトレンカ、ミュールという出で立ちにセミロングの髪をポニーテールにしているヒロインちゃんは割増で可愛い。
私は正面に座る弟を見てみたが、弟は頭を抱えて問題用紙を睨みつけていた。
「弟なんだけど、今問題解かせてるから後で挨拶させるね」
「いいのいいの! 私がお邪魔しちゃったんだし」
やっぱりヒロインちゃんはいい子だな。ついついほわーんとしてしまっていたが時間は有限。
私も学習を再開することにした。
☆★☆
「こら! 唐揚げばっかり食べてないでこっちのおかずも食べなさい!」
「うるせーなー」
「あんたの体のことを考えて言ってんのよ私は!」
「ふふふ、仲がいいんだね」
「そう? こいつったら最近遅めの反抗期入って生意気になってきて大変だよ?」
「食えばいいんだろ食えば!」
お昼の時間、たくさん作ってきたのでヒロインちゃんを誘って併設のカフェテリアで昼食を取ることにした。
ヤッバ! 眼の前にヒロインと不良系美形の攻略対象がいるよ! 片方身内だけど。
「田端さんお料理上手なんだね! 弟くんが唐揚げばかり食べちゃう気持ちすごくわかる!」
「そうかな? 調味料につけて揚げただけだよ?」
「ううん! ほんとに美味しいよ!」
パァァァ! とヒロインスマイルが惜しげもなく私に降りかかる。思わずドキッとしたが、だから私が攻略されてどうするんだ。
「か、母さんが、料理上手だからかな…」
「そうなの? 私のお母さんもお料理上手だからたまに習ってるけど、なかなかあの味にたどり着けないんだよねぇ」
ヒロインちゃんはお母さんの話から始まってお父さんや妹さん、挙句の果てに飼っているワンちゃんの話をしてくれた。
話はとても面白かった。面白かったのだが、弟が食事を終えてスマホを触りだしたのに私は内心焦っていた。大方スマホゲームでもしているのだろう。
(失礼にも程があるだろう!)
こんなかわい子ちゃん眼の前にしてお前の目は節穴か!
とりあえず後で叱ろうと心に誓って今はヒロインちゃんとのおしゃべりを楽しむことにした。
だけどとある人物の登場にそれどころじゃなくなった。
「和真君!? やだこんな所でなにしてるの?」
「……またあんたかよ」
「…なんでこの人といるの?」
和真はうっとおしそうな顔をしてその人物を見上げる。
その人物は和真の肩を親しげに叩いたかと思えば、ヒロインちゃんの姿を見咎め、嫌そうな顔をしてヒロインちゃんを睨みつけていた。
一応私もいるのだが私のことは眼中にないらしい。どうでもいいけど。
だけどその態度であの時の疑念はなんとなく確信に変わった。
「私が攻略してるのに」
林道寿々奈はそう、口を動かしたように見えたから。
まさかまさかと思っていたが、私がここにいるのだ。他に居ても何ら不思議ではない。
乙女ゲームヒロインの成り代わりにも等しい行動、ヒロインちゃんへの態度。
まだ仮定の話だけども、林道寿々奈は私と同じ転生者だ。
ヒロインちゃんはいきなり現れた初対面に等しい女子に睨みつけられ困惑していた。
私はなんだか気分が悪くなって空になった大きなお弁当箱を閉じて後片付けをする。
「そろそろ勉強再開しようか。和真、次は英語と物理のテストやるよ」
「うえ…」
「本橋さんも行こ? 時間は有限なんだから」
「う、うん…」
私が声を発したことにより、林道寿々奈は私の存在に気がついたらしく目を丸くしていた。
ヒロインちゃんは林道寿々奈のことを気にしているようだったけど、私は少し強引に二人をその場から、林道寿々奈を引き離した。
あの人の目的がわからない。
でも今は引き離すのが一番だと判断した。
…もし、弟に危害を加えるつもりなら。
もし、乙女ゲームの流れ通りに攻略すれば和真の心を射止める事ができると思っているのなら…悪いけど邪魔させてもらうから。
私はモブだけど和真の姉だから。
乙女ゲームの舞台を何も知らないであろうヒロインちゃんが攻略対象である和真を攻略するのはゲームの流れ通りなのだろう。もうそれは運命だと思う。
だけど林道寿々奈は違う。あの様子じゃゲームの内容を知っていて、和真にどんな言葉をかければ心許してくれるか知っているってことじゃないか。それは卑怯だ。
そもそもまっすぐぶつかれない相手を弟の彼女として認められると思うか?
私達が立ち去った後、林道寿々奈がこう呟いていることまでは私は気づかなかった。
「どうしてモブが。…だからなの? 和真君があのゲームのように振り向いてくれないのは…」
林道寿々奈が能面のような顔をしてそう呟いていたということを。




