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攻略対象の影薄い姉になったけど、モブってなにしたらいいの?  作者: スズキアカネ
続編

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124/303

いじめっ子との再会。私は意外と弱虫なのかも。

 夏休みに入って私はゼミ通いをしていた。

 ゼミは志望大学・学科ごとにクラスが別れていて、力を入れる科目も異なる。

 私はゼミの講義に頑張ってしがみつき、わからないことは講師をとっ捕まえて質問したりして自分なりに努力していた。

 宿題もたくさん出る。それに加えて学校の課題もあるし、本当に今年の夏はもう勉強尽くしである。こんなにも勉強したのは高校受験以来…いやそれ以上勉強してるな。詰め込みすぎて頭がパンクしそうだ。


 ゼミの良いところは冷房があるところかな。

 学校超暑いからね! 冷房あるのとないのとじゃ集中力がぜんぜん違うからね。

 教室に扇風機はあるけど熱風が来るだけなのだもの。

 クーラー最高!


 その日の講義をすべて終えた私はゼミの掲示板の連絡事項をスマホで撮影していた。他の人も私と同じようにそれを撮影したり、手帳に記入したりしていた。

 ゼミに通う人たちはそれぞれの学校の制服を着ていたり、私服だったりで人によって格好は異なる。

 たまに勉強しに来てんだよね? って格好している人がいるのが目につくけど。今丁度掲示板前でたむろっている女子軍団みたいに…ゼミに来るのに何故そんな露出の激しい格好してるの……まぁ、格好なんて人の自由なんだけどさ。


 ちなみに私は制服だ。勉強しに行くのにわざわざ服を組み合わせるのが面倒くさいという女子力の欠如が理由なんだけど。

 あはは制服って楽だわー。


「あぁ田端さん、これさっき言っていたやつね」

「あっありがとうございます!」


 自分の女子力不足から目を逸らしていると理系専攻クラスの講師に声を掛けられた。講師から手渡されたプリントに軽く目を通すと私はお礼を言って鞄にしまう。

 さて用も済んだし、今日もさっさと帰って家で課題でも片付けようかなと踵を返した私の耳に「…田端?」と名字を呼ぶ声が聞こえてきたので私はその声の方へ振り返った。


 そこにいたのはあの派手集団の中にいた女子の一人。

 私と同様化粧をしているが…よく見たら十分面影はあった。…私の中学の時の同級生だ。

 どうして気づかなかったのだろうか。


「………蛯原えびはら…さん」

「うっそ! 田端!? え、なに高校デビューなわけ!? マジウケんだけど!!」

「えーだれー?」

「ほら前話したじゃん。中3の時にー…」

「…私急いでいるから。それじゃ」


 私は彼女の返事を待たずに早歩きでその場から立ち去った。

 嫌な人と再会してしまった。まさか同じゼミだなんて思っていなかった。……同じクラスじゃないだけマシか。


 …三年前の苦い思い出を思い出してしまった。

 情けないな。見返してやるために進学校へ進学したのに、あの子を目の前にすると萎縮してしまう。

 ……私は堂々としてれば良いのに。私には何も恥ずべきことはない。


 そう思っていたけど…すごく心細くなってしまって、先輩に会いたくなってしまった。

 だめだな、依存するのは良くないのに。

 最近私は先輩に甘えてばかりだ。




★☆★



【夕方迎えに行くから会おう】

「!」


 今日もゼミで講義を受けていた私だが、休み時間にスマホを眺めていると、亮介先輩から連絡が入っていた。今日で前期日程の試験が終わったそうで、ゼミが終わる時間に迎えに行くから息抜きがてら門限までデートしようとのお誘いだった。


 もちろんそれには二つ返事だ。

 あぁもうこんな事なら私服で来ればよかった。制服でゼミ通いしていたのが仇となってしまったよ。

 私は午後の講義をいつも以上のやる気を見せて受講した。ご褒美が目の前にあるのだ。やる気が出るのは当然のこと。

 その気合が伝わったのか、帰り際講師に「頑張ってるね」と声を掛けられた。


 その日の講義が終わった後、私は手早く化粧直しと髪型を確認すると鞄を持ってクラスを出た。

 掲示板前にたむろう女子集団…蛯原の姿を見かけたが、私は気にしないふりをして声を掛けられる前に足早に通り過ぎた。




「亮介先輩!」

「あやめ」

「会いたかったですー!」

   

 ゼミの外で参考書を眺めていた亮介先輩の姿を見つけると、私は彼に飛びついた。暑いとか他の通行人が居るとかそんな事考えずに彼の腕に抱きつく。

 彼はそんな私を笑って受け入れてくれた。


「しばらく会えなくて悪かったな」

「いいえ! 寂しかったけど仕方ないですもん! テストどうでした?」


 久々の亮介先輩。会えなかった期間約二週間だ。連絡はとってたんだけど、やっぱり電話と会うのとは違う。本物の先輩、あぁ好き!

 先輩の腕に抱きついたまま私達は目的もなく何処かへと歩き始めていた。


「え゛っ、田端あんた彼氏いんの!?」

「!」

「しかも…めっちゃイケメン…」


 だけど、蛯原の登場に私の足は石になったかのように固まって動かなくなってしまった。まさか後を追いかけてくるとまで想定してなかったから。

 亮介先輩の腕に抱きつく力が増していたのか、先輩が「あやめ?」と伺う声が聞こえる。反応したいんだけど、声が出ない。

 蛯原は亮介先輩をまじまじ観察した後、私を見るとにやりと嫌な笑い方をした。


 あ、この顔知ってる。

 嫌がらせする時の顔と同じだ。


 過去のことだと思っていたのに私はまだいじめっ子の事を怖がっているのか。

 ずっと気にしてないふりをしていたが、私は存外弱虫だったらしい。


「嘘でしょ~? 全然釣り合ってないじゃん。どんな手使ったのあんた。誰? この人」

「…別に…同じ高校の先輩…」

「へぇー? あ、はじめましてぇ、あたしぃ蛯原えびはら月夏せれなっていいますぅ」

「……蛯原?」


 ぴくり、と先輩の腕が動いたことに気づいたのは抱きついている私だけだろう。ほんの少しの変化だったから。

 そう言えば先輩はこの間の水族館で私の同級生・坂下からいじめの話を聞いていたんだった。だめだ。先輩はそういう曲がったことが嫌いだから、私の代わりに怒るかもしれない。

 過去のことで先輩に迷惑を掛けたくない。ていうかこれ以上私の思い出したくない過去を知られたくない。早くここから立ち去らないと…


「先輩、もう行きましょう?」

「田端とは中学校の時の同級生なんですよー。あのー、なんで田端なんかと付き合ってるんですかー? この子ぉ化粧で誤魔化してるだけで実質ブスですよー? 弟はあんなに綺麗なのにホント可哀想な顔しててー」


 先輩の腕を引っ張ってみたけど先輩は動かなかった。その間にも蛯原が私をディスってくる。

 ていうかこの人も化粧してるのにどうして他人のことそうひどく言えるのかな。

 とにかくこれ以上この人の話を先輩に聞いて欲しくない。


「……そんなことはない。あやめは可愛いし、そちらの言っていることは余計なお世話というものだ。…俺の恋人のことを好き勝手に悪く言うのはやめてもらおうか」

「……先輩」


 先輩の言葉に私の頬は即座に熱を持った。

 自称口下手の先輩が人前で私を可愛いと褒めるとは思わなかった。…嬉しいけど恥ずかしい。どうせなら二人きりの時に言って欲しいな。

 …なんで目の前に蛯原がいるんだよ。今すぐに去れ蛯原。


「えっ、マジで!? 視力大丈夫ですか? 田端が可愛いって…あたしのほうがイケてると思うんですけど! あたしとかどうですか? あたしアッチの方も自信あるんですよ?」


 蛯原はそう言って先輩に色仕掛けをしてきた。

 それには思わず私は顔をしかめた。

 なにこの人、こんな人だったっけ? 人の彼氏にそんな事を公衆の面前で言うとか…


 私が顔をしかめているのに気づいているくせに蛯原はまたあの嫌らしい笑みを浮かべて、私が抱きついていない方の先輩の腕に抱きついてきた。そして胸を押し付け、色を含んだ視線を先輩に向ける。


 それを見た瞬間、私の頭がカッとなって二人の間に割って入っていくと、力任せに蛯原の腕を振り払った。


「いったぁ!」

「私の先輩に触らないでよ!」

「は!? …なによ田端のくせに」

「駄目! 私のなの!」

「あやめ…」


 私は先輩を背中に隠し、守るようにして蛯原と対峙した。この女を怖いと思っていた数分前の自分を恥ずかしく想う。こんな女に負けてたまるか。

 私は今猛烈に嫉妬している。

 それと同時に蛯原に怒っている。

 私の先輩をけがそうとするなんて許さん!


 今こそ、この女と戦わねば私は…



 グイッ

「!? せ、先輩!? ちょっと?」

「時間の無駄だ。行くぞ」

「待ってください、今こそ戦わないと」

「…必要ない。ほら好きなアイス奢ってやるから」

「アイス! …はっ、私を誤魔化そうたって…」


 蛯原とバトルをしようとした私だったが、先輩の腕が私の腰に廻ってきて強引に方向転換させられた。

 今戦わないでいつ戦うの? 今でしょ!?

 

 先輩は私を蛯原から引き離したいらしく、力技で私を連行していく。抵抗してみたが、先輩の力は弱まらなかった。

 わかった、進む。進むから横腹の肉には触らないでください!


「お腹! お腹はやめて!」


 ブニブニと先輩の手が私が気にしている横腹の肉を揉んでいるのに身体をよじらせて抵抗していた私は、亮介先輩が蛯原を冷たく鋭い瞳で睨みつけているなんて全く気づかなかった。



 その後アイスを与えられた私は先輩に「あの女と関わるな」と念押しされた。

 でもいじめっ子からいつまでも逃げちゃ駄目だと思うんだけど。ようやく立ち向かう勇気が出たのに…

 そう言うと先輩はため息を吐いた。


「お前は受験生だろう。あんなの相手する暇があったら勉強しろ。くだらないこと言ってくる輩は無視しろ。油断していると成績はガクッと下がるんだからな」

「うっ耳が痛い」


 ギュッと目を閉じて先輩の手厳しい言葉を受け止めていた私だが頭をナデナデされる感触にゆっくり目を開く。


「…お前は可愛いから。…あんなの気にするなよ」

「……はい」

「それと、俺はああいうのが一番嫌いだから心配しないように」

「知ってますよ。えへへ、先輩大好き…」


 少し照れた表情の先輩にピットリくっついて私は門限までの僅かな時間、まだ明るい街を二人で歩いたのである。


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