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攻略対象の影薄い姉になったけど、モブってなにしたらいいの?  作者: スズキアカネ
続編

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116/303

事件勃発のその裏で【三人称視点】

「助けて! 田端先輩を助けて!」


 下駄箱付近で涙声まじりの必死な訴えが和真の耳に届いた。

 田端先輩が危ないって……

 学校に複数いるような名字でもないし、田端姓の自分が今ここにいるってことは間違いなく姉のことだよなと思った彼は、風紀にそう訴える少女に声を掛けた。


「おい一年。それってウチの姉ちゃんのことか?」

「田端先輩!……そ、そう! あやめ先輩! あやめ先輩があたしの事を庇ってのり君に連れて行かれちゃったの!」

「……あー…」


 和真は遠い目をした。

 だから言ったのに。言わんこっちゃない。


 お人好しな姉の行動を嘆く時間はそう長くなかった。素早く切り替えた和真の行動は早かった。


「どっちに向かった?」

「えっ、えっ?」

「……俺先に探してきますんで」


 連れさらわれた方向を少女に尋ねてみても相手はわからない様子。

 埒が明かないと少々イラッとしながら三年の風紀委員にそう告げて靴を履き替えると和真は昇降口を出た。


 ちなみに姉は普段からスマホの節電のため位置情報設定をOFFにしているためGPSという手は使えない。


 虱潰しにその辺にいた生徒たちへ「他校生に姉が連れ拐われた瞬間を見てないか」と尋ねて回っていると、現場を見ていた生徒が見つかったので話を聞くと、駅とは正反対の方向に向かっていったとのこと、どこに向かったかまではわからないと返ってきた。

 和真はその情報に縋るしか無く、一緒に話を聞いていた風紀委員長の柿山と手分けして探すことにした。

 後ろで「あたしも探す!」と騒ぐ一年女子がいたが、それは風紀に任せて和真は一人で正門を飛び出す。


 自分の顔が険しくなっているのに気がついていたが、そんなのに構っている暇はない。あちこちに目を走らせながら姉の姿を探す。

 和真はジリジリ降り注ぐ夏の太陽などお構いなしに全力で駆け抜けていった。




★☆★



【パパッ】

「……?」


 近くで鳴らされたクラクションの音に亮介は振り返った。そこには見慣れた日本車とは違ったどこかクラシカルなデザインの外国車が停車していた。

 車のウィンドウが開き、そこから顔をのぞかせた相手に亮介は見覚えがあった。


「よぉ、あんたあやめちゃんの彼氏だろー?」

「……あやめの後輩のシス…」

「? そういえば自己紹介してなかったね。俺、植草 玲央」

「…橘 亮介です……」


 亮介は思わずシスコンと呟きそうになったのをすんでの所で押し留めた。あやめがあんな紹介の仕方をするのでついつい釣られてしまったではないかとここにはいない彼女のせいにしていた。


「俺今から妹を高校まで迎えに行くけど、あやめちゃんと会うなら一緒に乗せてこうか?」

「……そしたら、お言葉に甘えて」

「好きなところに乗っていいよ」


 彼の乗っている車は左ハンドルのため、車道に回らないと助手席には乗れない。なので亮介は今居る位置から一番近い後部座席のドアを開けた。

 小型な車なので身を屈めるのが少々きつそうだったがなんとか乗り込めた亮介がシートベルトを着用したのを確認すると玲央はアクセルを踏んで発車した。

 エンジン音がすごいと内心ぎょっとする亮介に運転中の彼は勝手に話し始めた。


「あやめちゃんに聞いたぁ? うちの妹のこと」

「あぁ…軽くですけど。後輩の交際相手が暴力振るう男でトラブルになっていたって」

「そうそう。それがもう面の皮が厚いガキでさぁ、まだ怪しいからしばらく妹の送り迎えすることにしてんの」

「…大変ですね」

「ほんとだよ〜」


 深く尋ねるのは良くないと思って亮介はそれ以上追求することはなかった。

 相手もそのほうが良かったらしい。話は変わって大学のことや学部の質問をされたのでそれに当たり障りなく答える。

 

「それでさぁ」

「! ちょっと待ってください」


 あとちょっとで高校に到着という場所で亮介は玲央に静止をかけた。車中から誰かを発見したらしく車のウィンドウを開けると大きめの声で呼びかけた。


「田端! どうした!」

「! 橘先輩、姉ちゃんが! あの、後輩…うえ…なんとかの元カレに連れ拐われたって!」

「はぁ!?」


 この暑い中、息を切らして必死の形相で走り回る彼女の弟に声をかけると不穏な返事が返ってきたため亮介は目をカッと見開き、大きめの驚き声を上げた。

 

「ちょっと待った! 少年、紅愛は! 紅愛は無事なの!?」


 続いて反応した玲央に和真は訝しげな顔をしたが、彼の求める返事を返した。


「風紀の柿山先輩とその辺探してます。俺、姉を探してるんで」

「待て田端。俺も行く」


 焦りを隠せない様子の和真はソワソワして早く行きたそうにしていた。

 後輩たちだけに任せておけないし、なんてったって自分の恋人の危機である。亮介は素早く車を降りると和真にどっちの方向を捜索してるのかと確認する。


「学校のやつが言うには駅とは逆方向に進んでたって…」

「手分けして探そう」

「え、ちょっ橘君!?」


 亮介は一刻も早く彼女を救出しなければと即座に行動に移した。和真に自分はあっちを探すと告げると、玲央の呼びかけに応えずに駆け出した。



 今の状況が読めないが、その後輩の元カレがどんな人間なのかがわからない今、はやくあやめを探し出して救出せねばと冷静な表情の裏で焦りを滲ませていた亮介だった。

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