魔法学園3
「いい返答です。ガーディアンは主である魔女を守る。
ですが、その為に主はガーディアンに対して魔力を供給することができ、本来のポテンシャルを超える力を発揮できる。もっとも恋夜君の魔力適性はD、他のガーディアンより劣る上に、必要以上の魔力共有には耐えられないという事を自覚しておいてください。」
言われるまでもないことだ。それでも今までやって来た何の問題もない。
「その、えっと、いいですか、若いとは言え、そこは節度をもって、命に関わりますよ。」
分かっていますよと、言いにくそうにしている菅野に問題ないと、再度応える。
「さて、理解していただけたかな、姫君?」
「なんとなくですが、」
「まぁ、これから理解していけばいい。さて、それでは君たちを呼んだ本題に入ろう。」
「本題?」
「私たちを見極めるのが本題ではなかったのかい?」
飽き始めたヒナギクは、用意された居場所を離れ、勝手に学園長席に座るとヒルベルトのワインを開け、楽しみだしている。よほどおいしかったのか尻尾と耳が思わず出ている。
「それもある。だが、この魔法学園都市で生活するにあたり2点ほど忠告をしたくてね。」
「忠告ですか?」
「そうだ、まず一つ目。現在、この学園をはじめ、この島には魔法使いと認定されるものが約1000名。魔術の勉強をしている学生が約2000名。そのほか魔術に対して関わるものがその数倍。もちろん、十分に厳戒なセキュリティを行っているつもりだが、中には我々神託委員会に対抗する組織の人間が紛れ込んでいる。」
「何ですかそれは?私はあなた方がここなら安全だからといったからイロハさんをここに連れて来たんですよ。なのに、その話、わざわざ狙われるような場所に、これじゃ、あなたがたのために、利用されに来たとしか、」
「落ち着き給え、恋夜君。もちろん十分な警戒はしているし、過去に賢者の石の所有者に対して実害が及んだことはない。それにだ。
彼女の放った魔力はあまりに強力。当然、それを感づいたのは私たちだけではない。
彼女の魔力は世界中に知れ渡った、日本で発見されたことがせめてもの救い、私たちがすぐに保護に迎えた。あのまま私たちが放置した場合、君たちの身の回りが戦場になる。
君が想像するよりずっとひどい状況でだ。だがここならばそうはならない、そうはさせない。これは最善の選択だったと断言しておこう。」
「信用できませんね。」
「だろうな。だが信じてもらう他ない。」
「だからって、」
「恋夜、人の話は最後まで聞きなさいよ。小太郎の方がちゃんと聞いている」
「当たり前だ。俺の方がお兄さんだからな。」
ワインを楽しみながら尻尾を振る親に、話に飽きてうつらうつらしていた子に言われても、
「……」
「もちろん、警戒してもらうに越したことはないが、私が言いたいのはそうではなく、
イロハ君には魔術の使用を控えてもらいたいという事だ。
実は、私たち神託委員会の拠点はここだけではない。ここはいうなれば支局。
イロハ君は別の名前で、私たちの本部にほど近い、極秘機関に輸送されていることになっている。ここよりもずっと厳重で、重要な場所だ。」
「ヒルベルト学園長の嘆願がなければ、あなた方はあなた方が想像する様に自由を奪われ、研究対象となっていたのよ。」
「不安を煽るな、菅野監察官。私たちはそういう人間ではないと信じてもらうのにそういったことは言うべきでないな。私たちは血の通った人間だ。子供たちの不幸を望はしない。」
「!申し訳ありません。」
「イロハ君の名前は全ての文字媒体に記録はなく、書類上、君たちはこの学園には半年以上前からいることになっている。できる限りの偽装工作は施している。
だが、魔力にはその人間独特の波動がある。魔法はその人間の持つ魔力に、この世界に存在する魔素を反応させて使用する。魔法が使われれば痕跡となり、君がここにいることがばれてしまう。約束してくれるかな」
「元々、私魔法なんて使えませんし。使うつもりも、」
『心配する必要ないぞ、イロハ、この間のあれは私の魔法をお前が放ったに過ぎない。
時が経ち、お前が私のものになればその境目はなくなるが、今は、私の意志とお前の意志が一つにならなければ発動はせん。つまりは、私がその気にならなければ、お前はこの間のような魔法は使えん。それこそ、通常通り魔法を学んでも問題ない。
もともと私の器になる素材、才能はあるでな。上達するのも早いかもしれんぞ』
(これは好機だな。イロハが進んで魔力を操る術を知れば、おのずとイロハの魔力耐性もつく。なにが原因でこのような事態になっているか明確ではないが、この間の感触から言っても、イロハの体は未成熟、あの爺が死んだせいで機を焦ったのが要因ともいえる。爺の研究が完了していない以上、後は私で何とかすべき……)
「アステリア、何を考えている。」
(この忌子、本当に面倒だな。だが、こいつの力、野放しにすべきではない。)
『何を考えているだと、決まっている。イロハを守るためだ。
お前を信用しないわけではないが、もし、イロハの身に危険が迫った時、私は躊躇いなく魔法を使う、命の危機ともなれば、イロハが使う気がなくとも、イロハの生存本能がそれを受け入れる可能性が高い。そうなれば、イロハの存在は再び世界に知れ渡る。
そうならない為に、自分で自分の身を守る術を身に着ける、悪いことではないだろう。
お前も、私に魔法を使わせたくなければ命を懸けて守って見せろ』
「そんなことは言われずとも、分かっている。いいか、俺は元々、」
『口ではなく行動で示せ。いいな。』
「アステリアちゃん、そんな言い方」
『ふん、間違ったことは言っていない。イロハ、お前もこいつらに頼りっきりでいいのか?少しは自分の才能を理解し、自分の身くらい守ろうとは思わんのか?』
「それは、そうだけど、(みんなを危険な目にあわせたくないし、)」
「まぁ、そういう事であれば大いにこの機会に魔法を学ぶといい。」
「でも、私戦いたくは、」
「戦うだけが魔法ではない。君は箒に乗り空を飛びたいとは思わんかね、自転車にまたがり夜の空中散歩をしたいとは思わんかね。透明になって気になるあの子を垣間見ようとは、」
ヒルベルトにまた冷たい目線が突き刺さる。
「おい、おっさん。そんなことに魔法使ってんのか?人間は大変だな。四六時中発情期で年も関係ないのかよ。」
「まさにケダモノ。下種だね。それでこそ人間だよ。」
ヒナギクはケタケタ笑う。
「し、失敬な私はあくまで一例で、」
「あの、もし魔法を勉強すれば、アステリアちゃんを自由にしてあげられますか?」
「?」
「あぁ、自由と言っても、世界を支配されたくはありませんし、人を殺してほしくもありません、でも、ずっと閉じ込められていて、今度は私の中、」
『ふん、余計なお世話だ、いいか、私はお前の体を乗っ取ろうと、』
このお人よしが、アステリアはそんなイロハが嫌いだ。
「私も死にたくはないから、あの時、アステリアちゃんに体を乗っ取られて、私が私の中で、消えそうになったとき私、怖いって感じたの、痛いとかそういうのはなくて、むしろ意識が遠のくのが気持ちよく感じるくらいに、でも、このまま自分がいなくなるそれだけは間違いないって、死ぬってこんな感じなのかって、あの時本当に、生きたいって思ったの、だからお互いの妥協点を見つけていきたいの。」
「古代種切り離し生き続ける、そのような方法があるとは言えはしない。だが私たちもまた魔法の全てを知っているわけではない。」
「そのためにも私は魔法を勉強しようと思うの。ダメでしょうか」
「……イロハさんがそういうなら、俺に止める権利はありません。」
「権利はないってそんな言い方、」
イロハは恋夜に聞こえない小さな声でつぶやいた。
「了解した。学園長として、君の願いをかなえよう。学生の学ぶ意志を、応援するのも学園長の仕事だ。さて二つ目の忠告だが、アステリア、彼女を人目には触れさせない事、約束してくれるかね。」
「約束するも何も、アステリアちゃんをどうこうする事はできませんよ。
アステリアちゃんは私の傍から離れられないし、私たちからは触れません。ましては出したり消したり、そんな魔法みたいなことできるわけないじゃないですか。」
『その通り、人間如きに私をどうこうしようなどできるわけがない。
おい変態、この私に偉そうに指図するな、
と言いたいところだが、この町には不穏な輩が多そうだ。お前らのようにな』
そういうとアステリアは姿を消した。
「アステリアちゃん、アステリアちゃん!」
『うるさい、聞こえている。元より囚われの身だ。しばらくお前の中に籠る。どうせスカスカの頭だ、部屋を作らせてもらうぞ。しかし汚いな、この頭は、少しは整理しろ』
「あ、ちょっと、アステリアちゃん!」
なんどかイロハが呼びかけるが返事がない。
特段体に変化はないが、頭の中で何かをされていると思うと、あまり気持ちのいいものではない。それに頭の中、考えていることが読まれてしまう。そう思ってしまうと、普段は考えもしないよからぬる事ばかり考えてしまう。
そのせいで、30分程この学園での生活の注意事項が全く頭に入らない。
説明を終えるとヒルベルトは、菅野展開した魔法陣にのり、4人を連れて塔を降りていく。
心なしか、魔方陣の文様が来た時よりも派手な気がする。
魔法陣が徐々に加速し始めたころ、物憂げなヒルベルトに菅野が言葉をかける
「?ヒルベルト学園長どうかされましたか」
「うむ、一通り説明はしたはずなんだが、何かを忘れているような……」
「!イロハさん!、ヒナギク、小太郎!」
足元の魔法陣にかかる僅かな影、視線を上に移した恋夜は、空から落ちてくる影に反応し、イロハを壁側に引っ張り、ヒナギクたちにも警戒の声を上げる。
その直後、魔法で作られたエレベーターに大きな音と共に衝撃が伝わり、上部の障壁が破られると何者かがエレベーターの中に着地する。
恋夜は、瞬時に、それをイロハの敵と断定し、先手必勝と、突進していく。
そして間髪入れず、拳を叩き込もうとした時、相手は鋭い敵意をもって、恋夜の拳をいなし、回避する。恋夜は突進の勢いそのままに、見事に体を回転させ、速度簿威力も緩めずに、再度攻撃を試みようとする。
だが、敵はいつのまにか手にした何かを、恋夜の突進の直線状に構えている。突然の眼前それをうまく回避することはできない、が、直撃を回避するためにと急停止をしながら、体の向きを変える。それを見逃さず、いやそうなることを読んでいたように、敵はその手にした何かで軽く、恋夜の体を押し、バランスを崩させ、その場に転がらせる。
強い、こいつ、わずか数秒の出来事だが、恋夜は警戒レベルを一気に上げる。