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魔法学園1

「以上で、最低限必要な説明は終了となります。何か質問事項はありますでしょうか?」

対面式の座席を備えた見た事もないような高級車の後部座席で、メガネをかけた女性はパタンとわざと音を立て女性は電子端末のカバーを閉じる。

「……」

女性の目線は、話の効く態度から一番話が通じると判断したイロハに向けられるが、イロハはこの慣れない環境のせいで緊張し身動きが取れない、そんなイロハに変わり、頭の上から、アステリアが応える。

「イロハ、おばさんが、お前の事を睨みつけているぞ、言ってやれ話が長いと、」

「おば、さん!私は26です!あなた、口の利き方には気を、」

「口の利き方に気をつけるのはお前だ、老け顔。私を誰だと思っている。私はイルム=ズウェル王国の唯一王アステリア様だぞ」

いつの間にか喧嘩が、この短期間で4度目、言葉を交わす限り喧嘩以外の会話はない。

「す、すみません。アステリアちゃん、口が悪くて。ちょっと、ダメだよ。年上の人にそんな口きいちゃ、年長者は敬わないと」

アステリアはイロハの膝の上に座るとふてぶてしい態度で、再度の女性を睨みつける。

「だそうだ。年上は私だ、傅け」

「全く、ヒルベルト学園長のご指示とはいえこのようなものを、この魔法学園都市に招き入れるとは、」

あれから1週間。最善のない選択肢を迫られ、この学園都市にやってきていた。

太平洋上に存在する結界に覆われた地図にも衛星にも映らない半径100キロにも及ぶ奇怪な形の島。

迷い込んだものは決して生きて出ることはできないとされる海域にあるこの島は

かつて人類以前の文明が作り上げた人工島。この学園都市はその残骸に作られた魔法が当たり前に存在する世界でも指折りの立ち入り禁止地域。

今日から彼らはここで新たな生活を始めることになっている。

「イロハの膝の上は僕の場所だよ。アステリアは頭の上でしょ。」

アステリアを咥え、ポイとイロハの頭の上に放り投げると、ぬいぐるみのような子ぎつねが、満足そうにイロハの膝の上を占拠し、尻尾を振る。

彼は小太郎。ヒナギクの父親知れずの実の末っ子で、年齢は恋夜より上だが、精神年齢は小学校低学年の変化が得意な狐だ。

「黙れこのモフモフ。お主は大人しく母親の上にでも座っておけ、イロハの身も心も私のものだ、断じて貴様のものではないぞ、恋夜。」

「な、なんで俺の名前が、お、俺は関係ないだろ。」

車の一番後ろで黄昏ていた恋夜は突然の振りに動揺する。

「私はお前と違って寝食を共にする仲、心と体でイロハとつながっているのだ。

それこそ風呂やトイレ、夜の営みも」

「ちょっと、何言っているの!アステリアちゃん、いつも私よりも寝るの早いでしょ!そんな見たことないでしょ。」

「……(見た見ていないの問題なんだ)」

想像したの、恋夜は誰の目にも目にわかるように顔を赤くし、イロハから顔を背ける。

本来であればここに来るのはイロハだけでよかった。だが、自らの力で救えなかった責任感からか自らの欲望の為か、恋夜は、イロハを守るためという名目上、強引にここまでついてきていた。

「ちょっと、ヒナギクさん、あなた保護者でしょ何とかしなさい。」

そして恋夜の今の家族のヒナギクと小太郎もまた、魔法の解明に一役買うと触れ込みのものと妖術を取引材料にし、ここまでついてきていた。

「小娘が偉そうに私に命令か、私を動かしたくば、カリカリではなく生タイプをもってこい。あと酒もこんなジュースもどきのカクテルではなく、精米歩合50%以上の大吟醸の日本酒をもってこい、話はそれからだ!」

「昼間からドックフードをつまみに酒など、冗談じゃありません。それに高級車の中で生のドックフードなど、匂いがついたらどうするんですか!」

「心配するな、小便臭い小娘の匂いよりはマシだ、なんならファブってやろうか?」

どろんと煙と共に消臭スプレーを呼び出し、馬鹿にするように菅野に向ける。

「ヒナギク!菅野さんに失礼だろうが!すみません、菅野さん」

「なんだ、恋夜、イロハちゃんの次は年上のクールビューティーか、お前、人間のメスならなんでもいいのか、少しは節操を持て」

「な、俺は別にそんな、ただこうして俺達の面倒を見てくれている以上は、」

「面倒?監視の間違いだろ、」

「じゃな、初めて意見があったな古代種。」

「ふん、貴様と意見があっても嬉しくもなんともないわ」

「あ、あの皆さん、とにかく仲良くしましょ。アステリアちゃんも、イラつくのはわかるけど落ち着いて、ね。」

結局イロハが仲介に入ることで事態の悪化を防いだ。

あの日以来、力を失ったアステリアは、物理的な干渉はできず口だけを出す、まるでイロハに取りついていた幽霊のような存在になっている。

アステリアは初めこそ、イロハの体を乗っ取ろうとしていたが、それができないと判断すると、従順で怒りもしないイロハに対しての敵対心は、空をつくように思え、次第に薄らいでいた。

「さ、もう少しで到着するわ、この街の中心にそびえ立つこの魔法学園都市の中核にして、我らが栄光のヒルベルト魔術学園!他を圧倒する高さ5000mの人類の英知の結晶、通称タワーオブバベル。その頂点にいらっしゃるのが学園長のいらっしゃるのよ!」

ここまで常に眉間にしわを寄せ、人生で楽しいことなど何もないと言わんばかりの菅野が、急に身振り手振りを加え、テンション高めで話したせいで全員が引いてしまう。

どう、すごいでしょと言わんばかりの圧だが、これだけ巨大な建物、そもそもこの島に来た時から見えてはいた。たしかに近づいたことでの巨大さの実感はあるが、

どうしてもこの菅野の豹変ぶりの方に意識が行ってしまう。

「人の業を感じるねぇ。富士の山より高い塔など」

「高さ5キロ程度で人の英知の結晶などと、これだから人間は。」

人外の二人の反応に菅野の眉間のしわが思わず戻る。

「見てください、恋夜さん、すごいですよ。雲の上まで、ガラス張り壊れないのかな?」

「雲の上の高さ、高い、怖い、フラグシチュエーション、」

「は?」

「い、いや、何でもない。」

妄想に歯止めをかけながら車を降りて菅野監視官についていく。

あの日の夜、自ら置かれた状況に戸惑うイロハは、血まみれの恋夜と一緒に直ぐにこの魔法学園都市を自治者である魔法協会に拘束された。

ランクAを超える測定不能の魔力検知。なんとなく出てしまった魔法は、数百キロ先から検知不能レベルでのとんでもない魔力を示し、元に戻るまで数か月はかかる周囲の魔素の消失、地形を変えるほどの威力。

そして何より、あの不動の大賢者ロシウス大老が、孫娘の『おじいちゃんご飯よ』という呼び声以外で、動くことになった緊急事態を呼び起こし、魔法界隈を騒然とさせた。

アステリアの魔力を持たされたイロハ、危険レベルAの存在として即日認定。

数十人のローブを着た男が閑静な住宅街に現れ、異様な雰囲気を醸し出しでイロハの身柄を引き取りに来た。事情は説明するものの、時代錯誤、いや世界錯誤のメンツがいくら説明しようとも納得できるわけにはいかない。

いろはの両親や、恋夜は彼らに対し、敵意むき出しで、身柄の引き渡し拒絶したものの、

イロハ自身は青色の髪となった自分に突き刺さる周りの視線。アステリアの存在。

そして何より、自分の持たされた理解できない力がいつ、周りに対して牙をむくか分からない。イロハは誰にも言ってはいないが、学校で髪の毛を馬鹿にされ、笑われた時、感情のままに力を使おうと思ってしまった。もちろん、本気ではない。でも嘘ではない気持ちだ、今までの押し殺せない、納得できない彼らに対する恨みもある。

力を手にした今、今後も抑え続ける自信がなかった。

だからこそ全てを捨てて、異様な来訪者の要望に彼女自身の意向で答えることとなった。

だが、結果として彼らに対して従順だったことが功を奏し、危険人物として拘束ではなく、この力を持たされた可哀想な未成年として、正式な保護対象としてこの島に招かれることとなっていた。力は危険だが、本人にはそれを制御できる可能性が高い。

そう判断した神託委員会はヒルベルト学園長に彼らの処遇を一任していた。

「イロハさん、怖くないですか?」

高度1000mを超え、地上の人が見えなくなったところで、恋夜は声をかける

「全然!すごいですね。すごく早いし、壁も足元も透けてて、」

恋夜の期待虚しく、イロハは恐怖心より、好奇心の方が勝り、目を爛々と輝かせ、下の景色を小太郎と一緒に楽しんでいる。

「うう、たまたまが縮みあがるぜ、」

小太郎が、イロハの腕の中が震えるが、下から目を離そうとはしない。

「小太郎君凄いね。魔法って」

「確かに魔法は偉大です。ですが、すごいのは魔法だけではありません。この塔は、地脈を利用しつつ大気中の魔力を計算に基づき効率的に循環させています。最小限の魔力で、最大限のパフォーマンスを発揮させる。この塔は魔法業界の中でも抜きんでた建築物です。」

「へー、」

「確かに、魔法というよりもSFチックな印象を受けますね。」

恋夜はガラスと白を基調に装飾物が少なく、いたるところに植物を配置した曲線と直線で形成されたこの塔に映画の世界を重ね合わせていた。

「本来であれば使用者の資質に大きく左右される魔法。その感覚に頼り、科学的な解析を行っていなかった魔法を、徹底的に検証、分析し、制式化することで、知識があれば誰でも同じことがきるところまで我々はたどり着きました。

それが私たちの使う制式魔法。もっとも効率の良い才能によらない魔法の使い方です。

それがそろって初めてこれだけの施設を機能させることが可能。

言うなればこの塔は、魔法と科学の調和の象徴。凄いのは魔法と科学両方です。」

悦に入って菅野監視官は歩き回りながらどこから出したか金色の教鞭で自分の手を叩きながら解説を続ける。

「そもそもこの塔を支えるのは、途方もない計算と、技術力、そして、職人芸、努力と英知の成せる技です。最もそのいずれも一般の最先端2歩も3歩のも先を言ったもの、普通であれば不可能な領域。ここにあるのは数百年後の未来の景色です。

しかしそれを可能した男がいた。天才という言葉では片づけることはできない。その才、努力を評するには私たち人類の語彙はあまりに貧困、

そう、これも全てはヒルベルト学園長あってのことです!」

「ふんバカバカしい、この程度の事で、そこまで自惚れることができるとは、おめでたいな人間。こんなことをせずとも私なら1秒もかからずに、頂上だ」

「だからなんだということです、あなた一人が凄かろうが、何です?馬鹿ですか人の話聞いていましたか?そもそもあなた一人でこれだけの規模の塔を作ることができますか!」

「簡単なことだ。私の魔力を持ってすれば、ゴーレムでも奴隷でも思いのままだ。もっとも、私からすればなぜ私自らそのような労を使わねばならない。

いいか、このような高い塔を作る必要など私にはないのだ。なぜならこの見える限りの世界全てが私の者、せせこましく、小さな塔に収まる必要などない。

もし、私がこのような無意味な建築物を作るなら、人に作らせる。それは支配の象徴、哀れな者どもに私への忠誠と、敬意を示させるためにこそ意味がある。

その無価値な命が私の興の役に立てた、王として下々の者へ命の価値を与えてやることくらいにしか役に立たない。」

「な、」

「こんなくだらないものの天辺から人間を見下して生きている人間など滑稽だな。あれか馬鹿と煙は高いところが好きだというが、よほどの馬鹿ではないのか、物理的な高さで、己の権力を再確認するなど、愚の骨頂だな。」

『ははは、イルム=ズウェル王国。古代種の歴史にもその名を残していない小国であろうが、一国の姫君のいう事は違う。』

「誰だ!我が万年王国を愚弄するとは」

エレベーターに響く低く重々しい中年の渋い声

『今から300年前。欧州のある地域で地震が起きた。そこは地盤が固く地震など歴史的に見ても起こったことない地域だった。突然の天変地異。

人々は慌て、その地震により出現したその遺跡に気づいたのはその100年後であった。

後にエリミリア遺跡と呼ばれるその遺跡には高度な文字や、紙一枚も通さないように精巧に加工された石材で作られた祭壇。

当時、その痕跡から高度な古代文明があると勘違いしていた。

だが、われら神託委員会はそれが何なのかを知っていた、知っていたからこそ、発見の事実を、全力を挙げて闇に葬った。人類にはまだ早すぎる発見。そう早すぎるのだ。

だが、それを皮切りに世界各地で次々と同種の遺跡が見つかった。

それらには共通点がある高度な石材加工能力、そして共通の言語体系。

欧州、中国、南米、あらゆるところでその文明は見つかった。

ありえない?そうだありえない。そしてそのありえない事実の中で、突出すべき事、それこそがこれらの遺跡群の最大の共通点。それはその遺跡がいずれも人類が文字をはじめとする文明を手にする以前の地層から見つかったという事だ。

巨石文明ではない。石しか残らないことを知っていたのだ。

だからこそあえてそこだけ石で作ったのだ。

人類以前の文明、それを決定づける発見は今から50年前。日本海溝付近で、それらと同様の遺跡が見つかった。他の遺跡にもありえぬ事は多々ある。もしかすると測定法に間違いがあったのではないか、だが、この遺跡がそれをひていする決定打だ。

なぜならその遺跡が見つかった場所は人類出現以前より海の底だという事実。

さらに近年は南極の氷の下にも同様の遺跡が見つかっている。

次から次へとここ50年の間に世界中でこれらの遺跡が急速に見つかっている最初の遺跡に基づき見つかったこれらの遺跡群をエリミリア遺跡群と称し、この文明を私たちはエリミリア文明となずけた。」

『エリミリア?なんだそれは?』

「クゥ文明!そう、それこそがこの文明の本当の名!」

「クゥ文明の発見は偶然ではない!すべては予定されていたこと。そう、彼ら古代種によって運命づけられていた事!彼らは人類出現はるか以前に、私たちの文明を凌ぐ魔法文明を所持していた。圧倒的なその魔法は天候を操り、大地を空に浮かせ、この世の楽園を作り出そうとしていた。100億人を超える古代種はまさに文明の頂にいた!」

『100億?なんだそれはいいか、お前たち人間とは違う。ただ数が多いだけの、』

アステリアの言葉など意に返さず、響き渡る声は勝手に話を続ける

「だが、彼らの文明は突然の終焉を迎えた。彼らはその文明をもって、星の命そのものに触れ、星の海を渡り生命の在り方を超越しようとした。神の創造、星の意志を超え、彼らが神そのものになろうとした。そのことが星の怒りを買った。

星は自らその魔素を消耗させ、地球上から魔素を消し去った。

そして彼らを罰するかのように、彼らの命に楔を打ち込んだ。星の支配者はわずか数十年で、滅びゆく種族となったのだ。

だが、彼らはそれさえも乗り越えようとした。肉体も、魂も捨て星の意志から逃れることを考えた。彼らは魔力回路と呼ばれるものに自らの存在を写し、長い長い眠りについた。

そしていつか星がその力を弱まり、その楔から解き放たれるように細工をした。原生生物に自らに近しい存在になれるようにと、予定された進化、予定された未来。

そう人類は彼ら古代種によってつくられた。古代種の似像。

星の命を削るように仕組まれるように進化した人造の生命体。

そして人類は予定通り星の命を力に変えここまでの繁栄を手に入れた。まさに科学の世界。

既に星には古代種を拘束する力はない、命蝕まれた地球。かつてのそれから変質したとは言え、長年消費されることなく蓄積されたエレメントに満ちたこの時代に、

星の楔を持たぬ、星食らう我ら人類は彼らの求める器へと進化した。

機は熟した。彼らは今まさにこの世界に再び現れようとしている。

彼らの存在を移した魔力回路、賢者の石と呼ばれる存在は、彼らの手によってこの世界に蔓延し彼らの器たる存在の手へと運命の如く渡っていく。今の子供たちこそ彼らの器にふさわしい。この町に生きる子供たちはそういう存在、魔力に目覚め、魔女や魔人と呼ばれる存在。進化した人類だ。そう君のように一二美イロハ君」


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