両親(他人)の呵責
二人が笑いながらがらバベルを降りていく頃、逆に昇っていくバベルの上層部では、イラつきならが侑季が一人でエレベーターを上っていた。
「恋夜君は私を好きになるはずなのに、拒否してばかり、今日だって私についてくるはずなのに、どういう事!芽も出ている!思い通りになるはずなのに、なんでなんでなのよ!
そこまでわたしの事が嫌い?私の事を愛していないの?ううん、そんなわけがない。絶対に違う。恋夜君は私の物、私しか見ちゃいけない、私だけの物、恋夜君もそう言ってくれてる。そうよ、大丈夫よ。慌てなくても、恋夜君が優しいから奥手なだけ
運命で結ばれている、そう、これは試練私たちの試練、でももうそろそろ、もう少しで花が咲くそうすればすべてが変わる。誰にも邪魔されない私たちの世界。」
「イロハ、大丈夫?独り言」
エレベータの魔法陣が消えると、目の前には葵が、心配と怒りの入り混じった顔で立ち、何かを言いたそうにただ黙って侑季を見つめる。
「……なんでいるの?」
「なんでって、だって今日、おじさんたちが来てるって。」
「だから何?葵ちゃんには関係ないでしょ、」
「関係なくないでしょ。私も一緒に行くから、」
「来なくていい、」
侑季は葵を無視して来賓室にすたすたと歩いていく。
「一緒にいたいの、」
「別にいいから大したことじゃないから、あんなの」
「あんなのって、」
侑季は両親の事が嫌いだ。兄と姉と比較し、小さいころからずっと怒られていた。
命令してばかりの癖に、自主性がないといい。
何をするにしても迷惑がって後から納得のいかない感情の屁理屈で叱り縛る癖に、内向的だと溜息をつく。兄と姉もそんな両親に倣って侑季を馬鹿にする、両親はそんな二人を止めようともしない、何も期待されていない子。それが侑季の家族からのレッテルだ。
それこそ、この島に行く事が決まった時も反対することはなく、その後も直接連絡を取ることもなく、ただただ無関心に問題を起こさないことを願っていた。
子供でも、いや目の曇った大人でも見抜ける安い嘘、体裁を取り繕うための心配の言葉だけをめんどくさそうにメールをする。
恐怖の象徴それが両親。だが、それはかつての事、
侑季は来賓室の扉を開き、椅子に座った両親を睨みつける。
「部屋に入るときは失礼しますでしょ」
「子供の前でタバコを吸うな。私嫌いって言ったでしょ」
「何その口の利き方、あなたにどうこう言われたくないわ!」
不機嫌そうに母親は煙を侑季の方に向ける。が、侑季は魔法を使い煙を返す。
「止めなさい。今日はケンカしにきた訳じゃないだろう。」
窓の外の景色を眺めていた父親は、侑季を見つめる。
その視線に、臆することなく、目をそらさない侑季を侑季だと認識するまでに数秒の時間を要したが父親は、侑季を侑季として認識すると、母親とは違い、かつてほど攻撃的ではない命令口調で侑季に座るように命令する。
「いい、立ったままでそれより要件を言って。」
「何?反抗期いい年して恥ずかしい、」
「この感じ、久しぶりね。なに父親からまた浮気でもされたの?それでも、仕事がうまくいってないの?それともいよいよ更年期障害?」
「!侑季いい加減にしなさい!なんなのその口の利き方。」
「いい大人が感情的に暴力をふるうのは感心しませんね。」
侑季と母親の間に葵は割り込み、敵意全開、忌々しいものを睨みつける表情でけん制する。
「何、まだ侑季に付きまとっているの?ホント、気持ち悪い。」
「止めなさい。遥、何度も言わせるな。侑季も、立っていたいならそうしていてもいいと言いたいところだが、今日は大事な話をしに来た。座りなさい。
それと葵さんだったが、悪いがこれは家族の話だ、出て行ってくれないか」
「嫌です。私は、」
「いいから、葵ちゃんは出て行って」
「でも、」
「心配しなくていいから、早く終わらせたいの、いいでしょ」
「……わかった。外にいるから何かあったらすぐに呼んで」
葵が出ていくと、侑季は二人の前のソファーに近づき、母親の煙草を奪い取り、火を消し、体面に堂々と座る。
「侑季!」
感情的になり、立ち上がろうとする母親を魔法の茨で、その行動を止める。
目の前に鋭い茨が突き付けされ、恐怖が母親を覆い、侑季を悦楽がつつむ。
力を手にすること、対等、いやそれ以上の立場、それだけでこの母親はこれほどまでに大人しくなるのだ。自分よりも弱いものを見下し虐げる、でも彼女自身も力に屈し、従う事しかできない哀れな人。実にクズだと、侑季は声に出してふんと笑う。
「これが魔女の力か、どうして黙っていたんだ、魔女だという事を」
「学園長ね。余計な事を……興味がなかったでしょ。それに言えなかったのよ、あなたたちが怖かったからね。私この通り、あなたたちのせいでこんなに憶病なんで」
学園長は侑季が魔女だと知っているだから、理由はしらずとも、彼女の容姿の変化で察した。そしてこの学園の支援者でもある両親に連絡が行くのは必然だった。
「そうか、それはすまなかった、だが、侑季は誤解している、私たちはお前の事を心から大切に思っているよ。ただ、それをうまく伝えられなかっただけだよ。」
嘘ばかり、でもこの目少しも嘘を言っているとは思えない、つまりは本気で言っている。
「お前の事が心配で魔法の事をいろいろ調べた。お前の将来の事もちゃんと考えている。だから、まずは私の話を聞いてくれ、それとはるかに突きつけた茨を消してもらえないか、遥も感情的に当たるな。母親であるお前がそんなんだから侑季がこんな風に苛立つんだ。」
「……なにその言い方、私にばかり責任を押し付けて。」
まただ、いつもと同じ、私の前でも遠慮なく喧嘩を始める。
勝者は決まっている必ず父親がかつ理屈でねじ伏せる。
言葉にせずともわかる、この感じ、何も変わっていない、物腰こそ父親は、今日は優しい。
つまりはその方が都合がいいからだ。
父親は侑季肩に手を置き、立ち上がった彼女を座らせようとする。触られることでトラウマがよみがえる。でもそれ以上に気持ち悪い。両親に触れることが、恋夜とは違う。
「恋夜君、私に勇気を頂戴。」
「?何か言った」
「何でもないわ、それより早く話して、私はあなたたちの喧嘩に付き合うほど暇じゃない。」




