変化1
あの日から1か月。
夜の世界で起こった出来事は、この街の上層部には報告されることなく、大騒ぎが起こることはなく、誰も知らない出来事として処理されました。
黒薔薇姫の凶行を知ったから揚げは結界から皆を脱出させると怒るわけでもなく、黒薔薇姫が目覚めるのを待つかのようにただ目の前に座っていました。
ただ去りゆく、葵が、から揚げさんに彼女の事を謝ると、
君が謝るようなことじゃないさ。結局、俺は彼女を助けられていなかっただけの事。
世界を救うこの俺が、何とも情けない話だ。そう言って哀しそうに笑っていました。
ただ、全てを何もなかったできるわけもなく、後戻りができるわけでもありません。
大きく変わったのは流星さんと凛清さんの関係。
黒薔薇姫さんの見せた悪夢は二人の気持ちを大きく変化させるものでした。
凛清さんは秘密を持つようになり、恋夜君は毎週金曜日の夜には、外泊する様になりました。気のせいかもしれませんが、流星さんは、少しは話しかけやすくなった気がします。
それともう一つ、大きな変化が
イロハは並んで歩く、恋夜と侑季を見つめる。楽しそうに会話をし、自分は蚊帳の外。
侑季の身に何が起こったのか、イロハは事情を聞いていた。そして魔女になってしまった侑季を説得するためにも、この関係を維持していることも知っている。
でも、意識を失った恋夜を心配し、不眠で3日間看病し続けた侑季の気持ちに嘘はなく、
これは全部彼女の為だという恋夜の言葉もこの一か月の恋夜の行動でだんだんと信頼できなくなっていた。
自分と話すときよりも自然で楽しそうで、イロハは思わずため息をつく
『なんだ?お前、あのオスが好きだったのか』
「……久しぶりにできたと思ったら嫌味?」
イロハは現れたアステリアの口を魔法のガムテープで塞ぐ。
「んっぐ、っぷは、お前、この私に何をするか!というか、なんでこんなことができる?」
「なんとなくできそうな気がして、」
魔法の授業を受けはじめ、イロハはその高い能力を示していた。
アステリアの魔力がなくとも、アステリアと意識を共有した影響か、無意識に魔道の真髄に触れ、学園でもトップクラスの才能を示していた。その力と青色の髪のせいで彼女はこの学園内で悪目立ちをしてしまっていた。
「イロハさん。お昼どうします?」
後ろを歩くイロハに恋夜満面の笑みでが尋ねる。その笑顔の理由は彼女ではない
「えっと……あ、そうだごめんなさい。私今日、凛清ちゃんと一緒に約束を」
恋夜の後ろから突き刺さる厳しい敵意の視線。
「え、でも、凛清さんは流星さんと一緒でしょ」
「あ、じゃなかった、会長さんと」
「会長と?ちょうどよかったそれじゃ、一緒に、自分なんか会長に嫌われているみたいで、」
「あ、えっと、その、」
『どうした何を日和っているんだ、あのいけ好かない小娘の思い通りにいかせていいのか』
「えっと、そのごめんなさい!!」
結局言い訳が思いつかず、イロハは逃げ出してしまう
「あ、ちょっとイロハさん!ごめんなさいって、え、なに」
「きっと私たちには言えない秘密の用事があるんだよ。いいじゃない、放っておいて、それより行こう、さっき言った第4学食のテラス席、すぐに埋まるから。」
「よくないよ。イロハさんの様子おかしかったし、放っておけないよ。」
「それで私の事は放っておくんだ、約束したのに、私の傍にいるって言ってくれたのに。」
「それとこれとは、
「同じよ!」
強い感情がこもった侑季の声が廊下に響き、周りにいた学生の注目が集まる。
結局恋夜は、スイッチの入った侑季を落ち着かせるために、多くの時間を取られ、授業もサボり、その日は、結局イロハと話す事ともできなかった。
携帯で連絡しようにも心配性の侑季のチェックが入る為、電話もできない。
侑季は明らかに今までの侑季ではない、魔女の力を受け入れ、心も体も大きく変化している。そしてそのことが不安定な精神状態を助長する。
本来であれば彼女を救うためにも、今すぐにでも彼女の記憶を奪うべきだ。
彼女の中にいる魔女を奪い尽くす、食らい尽くす、それが彼女の為だ。
それが自分自身の使命、この力を与えられた意味、魔女になっていく命を救うべきだ。
たが、彼女からは別の意識は感じられない、彼女の中から魔女を取り除くことができるか、
もしうまくいかなければ、彼女の記憶から自分が消える、そうなれば彼女の笑顔は……
それに彼女自身も大丈夫だと言っている、消すことを望んでいない。凛清さんの例もある、いや確かに彼女の魔女影響は大きいでも、その意思が感じられないうちは大丈夫。自分が彼女の傍にいれば、彼女を支えられれば、こんな力に頼らなくても、その気持ちが恋夜に力を使う事を躊躇わせていた。
一方、逃げ出したイロハは、誰も来ない剪定のされていない忘れられた第86空中庭園で呼吸を整える。ここは夜ともなれば人目につかいことをいい事にそういう人たちが集まる場所だが、昼間は見かけどおりに誰も近づこうとする人はいない場所だ。
『意気地なしだな、いいのか?このままとられて』
「……そういうのじゃないから、恋夜君は私にとって恩人だけど、それだけ、別にそういう関係じゃないから、私の頭の中見えるならわかるでしょ。」
『言っておくが、私は積極的にお前の頭の中を見るような趣味はない。馬鹿がうつる。とは言え、お前の感情は私の部屋にも悪影響を及ぼす。ジメジメして気に入らん。』
「それはごめん……多少の疎外感はあるわよ。……少なくとも、特別な関係だとは思っていたわけだし、でも考えてみればそれはアステリアちゃんが私の中にいるままだから、つまりは責任感。それが理由だから、侑季ちゃんにも同じことをする。
結局特別だけど特別じゃない。」
『……私は誰の特別にもなれない。心配するな私にとってはお前は特別だ。』
「励ましているつもり?でもまぁ、ありがとう。」
イロハはアステリアと話を終えると無言で町の景色を眺めている。
「まだ何かあるのか?」
「心配かな、恋夜君も侑季ちゃんも、最近の侑季ちゃんの目怖いんだよね。」
「ふん、自らの意思表示もまともにできないガキが力を手にして情緒不安定になっているんだけだろ、ただのヒス野郎だろ。」
「それになんだか恋夜さんにも違和感が、少し変わった感じがするっていうか、」
「あのガキに大人にでもしてもらったんじゃないのか?」
「それはない。」
「ほう、そこだけは、断言するな。」
「女の勘、それに流星君を見れば分かるよ。絶対にそれはないから、でもま、時間の問題かもね。皆私の知らないようになっていく、私を置いてどこに行く、ってね。」
「なんじゃそれは?」
大きくため息をつくイロハの耳にかすかに甘えるような女の人の声が聞こえてくる。それはかすかな声だが、一度耳につくと耳障り、無意識に魔法の力で聴力が強化されてしまう。
「カップル、恋人、アベック、ラバーズ、バカップル。誰も彼もが青春ですか」
そうは言いながら、より聞き耳を立てる。
だが、意識して聞いてみると少し高いが聞き覚えのある声、凛清の声だ。つまりは相手は、、
「ちょっと、動くな、下手に動くと、危ないぞ。」
「だってくすぐったいし、それに流星、震えてて、面白くて」
「当たり前だ、こんなことしたことないんだ。こっちだって緊張しているんだ、動くなよ。頼むから、おまえを傷つけたくない。」
これはと思い、この場から離れるべきだが、自ずと足がそちらに、息を殺し、気配を消し、一流の暗殺者のように近づいていく。
そして声の場所に一番近い茂み、が、先客が、このボロボロの黒マント見覚えが
「丸天さん。」
「よぉ、あれ、俺えび天じゃなかったか?」
「どっちでもいいです。こんなところで何しているんですか?」
「君の考える通り下種なことだ。」
「……最低ですね」
「ではなぜ君はここに来た?。」
「私は二人のみだらな行為を止めに、学校ですよ。ここらへんで一度忠告しとかないと」
「淫らな行為?何のことだ?」
「そ、それは、恋人同士がこうして人目につかない場所ですることなんて決まっているでしょ、わざわざ言わせないでください」
「ほぉ、漫画で見た事があるが、野外で耳かきするのは当たり前の事なのか?
小僧小娘、よかったな、お前たちの『淫らな行為』というものは正常だそうだ」




