王者の敗北
「待ちくたびれたよ。さぁ、入りたまえ、」
案内された店の軒先で、ポーズの練習をしているから揚げが少しだけ恥ずかしそうに皆を迎え知れる、恥ずかしそうなくせに仰々しく店の看板を手全体で示す。
この感じ、学園長そのものだ。
「ちょっと、私の世界で力を使わないでって言ってるでしょ、ホント頭に来るわね!」
「辛気臭かったんでな、少し光を取り入れただけだ。アーティスティックにな。」
閉じたままの傘を振り回していたから揚げがイカ天に怒られている。
彼が傘を振り回して書いたへたくそな動物の絵の箇所は明るくなり、人の行きかう姿が垣間見える。そこは元の世界だ。
「冗談じゃないわ!あんたの力で削られると元に戻らないんだから、私のせっかくの完璧な世界を、よくも」
触れれば消し飛ぶ、唯一にして全。当たり前のようにこの異常な世界でも、世界を法則を塗りつぶす、上位にある力。人の持っていい力じゃない。
「うどんの西。うどん屋さんなの!」
敵は内輪もめ、恋夜はその力に戦々恐々する中、凛清が緊張感のない突っ込みを入れる。
「だってしょうがないじゃない。今は深夜、この近くで24時間空いているのはここくらいなものよ。今何時だと思っているの2時過ぎよ」
「え、なに?今暗いのってそういう事?夜なの?」
思わず、恋夜が緊張感を失い。突っ込みを入れる
「ハンバーガーか牛丼がよかった?それじゃ最後の晩餐にしては味気ないでしょ。」
「うどんも変わらないだろ!」
今度は流星が突っ込みを入れる
「あなた、何も知らないのね。ここは畳完備の上、この時間ならうどんのみならず、お酒のつまみも頼めるのよ。」
畳好きなんだ、あんな格好しているのに、和風な。
「いや自分たち未成年ですから」
「まぁ、いいわ、入りましょう。」
言われるがままに入店すると、常連なのか、この不審者たちは何の疑問もなく、店員に席まで案内される。
「さぁ、何でも好きなものをえら、」
「きつねそば。そば抜き、あげマシマシ、あと生ビール」
「から揚げと、フライドポテトと、明太チーズワンタン、チーズフライ、バターコーンと、生ハムスライスとそれと後は、」
「一人1500円までだ!」
から揚げがここ一番の声で、小太郎の注文を止める。
ヒナギクも、小太郎も、緊張感のない。
「なんだよ、けち臭いな。」
「なんだと子ぎつね、人に化けているとはいえ、ここはペット禁止、追い出してもいいんだぞ。それに兄者ほどの器がなければ上限1000円を超えることなど不可能よ。」
「小太郎、今はもう少し、自重してくれ。」
「そうだよ、小太郎君ダメだよ。高カロリーなものばっかり頼んでちゃ、太っちゃうよ」
恋夜は緊張感を持てと言うつもりだったところを、イロハの突っ込みに突っ込むところはそこじゃないだろと思わず突っ込みたくなり、が、それこそ空気が読めていないと、恋夜は突っ込みをぐっと抑える。
「太るのを気にするのは人間の悪い癖さ、それに太ったら僕のお腹はもっとモフモフだよ」
その言葉にイロハは思わず揺らぎそうになる。
「私は納豆ぶっかけうどん」
「イカ天じゃないのか?」
流星が軽くイラつきながら突っ込む。
「女子力アピール。カロリーが一番低いの、うどんはカロリー高くなりがちなの」
納豆ぶっかけのどこに女子力がある。が、ここで突っ込んではと流星もぐっとこらえる
「それじゃ、俺はカレーうどんに肉トッピング、あとおでんを2つ取ります。」
「あんたもえび天じゃないのか。」
後なんだ、その丁寧な受け答えはお前は粗暴キャラじゃなかったのか
何だその笑顔は、店員さんへの受け答えは丁寧か
「俺はカレーが好きなんだ。特に、カレーライスよりライスカレー」
どう違うんだ、というよりせめてカレーうどんじゃないのか、流星はぐっとこらえる
「俺は、桜えび天丼セットで、うどんは細麺で」
「流石兄者、恐れもなく新商品に手を出すとは!」
「てめぇ(あんた)がえび天を頼むのか!というか、から揚げ食べたんじゃなかったのか!」
突っ込みに堪えかねた、流星と恋夜がハモリながら突っ込む。
結界、一番緊張感を崩し、数人が必死にばれないように笑っている。
「うどん屋に来た以上うどんを頼むのが筋だろ、それにお店のおすすめを頼むのが一番だ、君は馬鹿か、あぁだから声が大きいのか。それより、早く選べ、店員さんを待たせるな。」
この人意外にいい人なのかと、一瞬過ってしまう。
「……それじゃ、自分も同じもので」
「俺はとろろそば」
「くくく、」
「なんだ?」
「真似に、そばだと、いや、いい、最後だ、好きにすればいい。さぁ、腹ペコお嬢ちゃんはどうする?」
「それじゃ、ゴボ天に丸天トッピングで、丸天は切ってあるものでお願いします」
「あの、うどんか、そばかは」
「あ、そうでしたね、どっちか言わないといけないですよね。すみません、うどんで
あと、ゆずこしょうありますか、あ、あとかしわおにぎり2つ」
「……ゴボ天、だと、しかも丸天にかしわおにぎりまで、あ、兄者もしかしてこやつ」
「貴様、修羅の国の出か?」
「修羅の国?なんですそれ、それにしてもここあごだしなんですね。私久しぶりです。」
「に、匂いで判別できるだと。それに、あの流れるような注文、よもや、この俺が遅れを取るとは。見事よ修羅の剛の物よ」
「あ、兄者!」
「敗北を認めるしかないな」
「兄者!」
「えび天よ。敗北を受け入れる事もまた強者への道だ。」
「は?」
「見事だ。お嬢さん。いや、名前を聞かせてもらえるかな」
「一二美イロハですけど、」
「イロハ、我に勝利した数少ないものとして、その名を確かに刻もう。」
「あの、さっきから何の話ですか?」
全く話についていけない
「いついかなる時も我に敗北は許されない。それが例え、飲食店の注文であってもだ。
先ほどの注文、見事だ。君たちを初心者だと侮った私の敗北だ。
まさかこの俺にも慢心があるとは、」
「兄者!」
「えび天よ。ここは仕切り直しだ。私は侮ったのだ。これが敗北でなくて何だというのだ。我らは早急に食事を済ませ。この場から去ろう、敗者は勝者の祝杯にはふさわしくない。」
「……えっと、つまりは、戦いはなし、という事ですか」
「?当たり前だ。敗者その権利などない。再選は会いまみえた時に。」
全く何を言っているのか理解できないが、二人は、5分とかからず、早急に食事を終えると、全員分の会計を済ませ。その場からいなくなった。
何だったんだ、あれは、あれだけの前ふりをしていながらあっさりと本当にいなくなった。完全に時間の無駄。




