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筋肉と巫女

作者: ぱんだ

その日、わたしは不思議な物を見た。

赤く大きな門。

それは確かに外界とその内側とを分ける門だというのに、扉がついていない。

その奥には上に伸びる階段。

その先は、濃い霧に包まれて何があるのかさえ分からない。

そして留めに、門にもたれて眠る少女。

白と赤の見た事もない服に身を包んだ少女は、まるで今、この瞬間に此処に現れた様に汚れ一つ、傷の一つさえついていない。

此処は大型魔獣の跋扈する危険な森の奥深くだというのに!


「ん…」


少女が身じろぎした瞬間、門も階段もスッと色を失い、霧と同化して溶けた。


「ここは…どこですか?」



そんな出会いから半年。

サヨはうちのパーティに溶け込んでよくやってくれている。

あの時の事を聞いたが、本人も分からないそうだ。

友達の実家の「じんじゃ」とやらで「みこ」の「ばいと」をしている時に、霧に包まれて、気づいたら森にいたとか。

「身元も分からない私を面倒見てくれてありがとうございます」などと言われた時には、涙を堪えるのが精一杯だった。

頼るべき親も仲間もなく、見ず知らずの強面に囲まれて本当に大変なのはサヨだろうに。

おじさんで悪いが、一応はわたしがパーティのリーダーだ。

困ったことがあったら何でも相談してくれ、と言ったら「時々でいいのでぎゅっとしてもらってもいいですか」だと!

勿論だ、と返して早速抱きしめた。

早く親元に返してやりたい…こんなに寂しがっているのに。

ああ、サヨがいい子すぎて辛い。

柔らかくていい匂いがするサヨに少しばかり不埒な気持ちを抱きそうになったので、罰とばかりに日課の腹筋を更に100回足しておく。



サヨの力が分かったのは、更に少し後。

森で出会ったあの日から一年程の事だろうか。

少し難しい仕事の依頼が来た時、サヨが心配して「おまじない」をしてくれたのだ。

正しくは「おみくじ」だったか?

箱に入った棒の先に数字が書いてあり、それを見たサヨが笑顔で「90番、大吉です!」と、言ってくれた。

そんなサヨが可愛過ぎて頭を撫でまわしてしまった。

勿論、腹筋を120回足しておいた。


翌日から一週間ほどかかった仕事は予想以上に大成功で、その仕事以来験担ぎとしてサヨに「おまじない」を頼むのが当たり前になっていた。

不思議な事に、サヨの「おまじない」はよく効く。

サヨが「だいきち」と言った時のデキの良さといったら…。

そういう力を利用しようとしてパーティに入れた訳じゃないんだが。

仕事と平行してやっているサヨの家族探しも上手くいかない。

悪いな、と呟いたら「アルザードさんの力になれて嬉しいから、平気です」…ああもうこの子は健気すぎる。

膝抱っこで抱きしめて、頭も撫でておいた。

こんな事しかしてやれなくて、本当にすまん。

どちらかというとわたしにご褒美だしな。これ。

腹筋ばかりではバランスが悪くなるので、背筋を150回足しておいた。


それからサヨは積極的に「おまじない」をしてくれる様になった。

今までは仕事の内容について、だったのが今はパーティメンバー個人について「おまじない」してくれる。

そのおかげで、事故を免れたり、メンバーにいい人が見つかって結婚したり、子宝に恵まれたり。

サヨには頭が上がらない。

サヨ、わたしはサヨにどうやって恩を返したらいいのだろう。

わたしにしてやれる事なら、何でもするんだが。

「家族になってほしいです」…もう家族のつもりだったんだが、伝わって無かったのか。

「鈍いのにも程があるんですからね!」ってサヨのふんわりとして柔らかい唇がわたしのそれを掠めていって。

頬も耳も真っ赤になったサヨは本当に可愛い。


マジメな熟練冒険者が、幼な妻を手に入れるまで、後少し。




その日、私に不思議な事が起こった。

深く濃い霧。

バイト中に現れたそれは私をあっという間に包んで、気がついたら深く暗い森の中だった。

目の前には、森の中を歩いて来たのか少し汚れた筋骨隆々のオジサマたち。


「ここは…どこですか?」


そんな出会いから半年。

アルザードさん達にはよくしてもらっている。

正直、身元も分からない、森で拾った怪しい女の面倒を見てくれるとか、子供だと思われてるとしても親切すぎて怖い。



「面倒見てくれてありがとう」って言ったら、涙が滲んでたんですけど、ちょろい。

何でも相談してくれ、だって!

アルザードさんの素敵な筋肉を堪能するのに「ぎゅっとして」って言ったら、速攻してくれた。

本当にちょろすぎて、心配です。

夜には日課以上に腹筋をこなしてた。

褒めた甲斐がありました。


私のチートが分かったのはそれからもう少し経ってから。

ちょっと面倒な仕事に行くと言うから、一緒に持って来てしまったお御籤を引いてもらったのだ。

因みに棒に番号が書いてあるタイプ。

「90番、大吉です!」

何が出ても大吉って言うつもりだったけど、頭の中に番号の運勢と内容が浮かぶ。

バイトで巫女やってたとはいえ、全部覚えてる訳じゃないのに。

これが異世界トリッパーのチートってやつですね!


パーティのみんなが仕事に行く度に「おみくじ」で運勢を占って、アドバイスをしていたら、ある日思いつめた感じのアルザードさんが悪いな、サヨって呟いた。

顔には「こんな事をさせる為にパーティに入れたんじゃないのに」って書いてある。

アルザードさんが仕事をしながら私の家族を、帰る方法を探してくれているのを、私は知ってる。

全然手がかりがなくて、費用ばかりかさんでいっているのも。

アルザードさんがいい人すぎてつらたん。

「あなたの役に立てているなら良かった」って言ったら、膝抱っこでぎゅっとしてくれた。

こんな事しかしてやれなくて、すまん。だって。

そのセリフに、ちょっときゅんとしてしまった。

それ以上に、ハムストリングス…大雑把に腿の筋肉なんだけど…にきゅんとした。

その後、何故か背筋を鍛えていた。

いいぞ、もっとやれ。


それから私は本格的にアルザードさんを手に入れる為に考えていた事を実行する。

人の善い兄貴分のアルザードさんは、身内の為にした事だって自分の恩だってカウントする。

パーティに利益があれば私を利用したって罪悪感を持つ。

ラッキーくらいに考えればいいのに、本当にマジメで、全部自分で背負っちゃうんだから。

そういうところも好きだし、利用した私が言える事じゃないんだけど。

「サヨ、わたしが出来る事ならなんでもする」って、そんな事言ってしまっていいの?

「家族がほしい」保護者的な意味じゃなくて。

私は相変わらず逞しい太腿に飛び乗って、アルザードさんの唇を奪った。

激ニブ野郎はこれで分かってくれるかな?



異世界トリッパーが、逞しい旦那さんを手に入れるまで、もう少し。



































































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