週明け。
「おはようございます。」
月曜日の朝、会社では普通に挨拶を交わした。もっとも怜羅は、なんだか照れくさくて思わず下を向いてしまったが。
それ以外は、会社のメンバーも智也もいつもどおり。怜羅もいつもどおりの一日が始まった。人の声が、電話がFAXが、メールが飛び交う。トイレのついでに、メイクが崩れていないか、鏡を見る。ドリンクコーナーでお茶を飲む。
昼休みに昼食を摂り、スマホをチェックしたり、返信する。
午後からまたオフィスの音の中で過ごす。
月曜日特有のバタバタで一日が過ぎ、あっという間に定時を迎えた。スマホに理子からのLINEが届いていた。ゴハンの約束をしてあったので、場所の相談をしていたのだ。
『今日はイタリアンの気分だから、“オリーヴ”に6時半でどう?』
すかさずOKのスタンプを返信する。理子とは、カーチェイス以来、LINEでのやりとりだけで会っていないので、話したいことが満載だ。
「理子は、最近どう?」
「俊介くんと、買い物に行ってきた。」
「エ?こないだ、俊介くん、タイプじゃないって。」
「最近、そうでもないの。」
「ホント~?遊びで俊介くんを振り回さないでね。」
「だから、そうでもないんだってば。」
理子が照れくさそうに反論する。
俊介は怜羅の兄の友人なのだが、理子との関係が何とも微妙なのだ。実は俊介の友人からは、怜羅のところに心配の声が届いているのだ。
「ところで、怜羅!土曜日は、どうだったの?」
「何、話を逸らしてんのよ?」
「逸らしてないって。どうだったの?後輩くん!」
「明日から、香港出張だって。」
「えー?そうなの?てゆーか!デートはどんな感じだったの?」
「たくさん話を聞いてもらった。お茶もランチも、私の好みを聞いて、そのようにしてくれたよ。」
「うんうん。それが普通のオトコだよ。」
理子は腕を組んで頷いている。
「ランチって、全部食べると、お腹いっぱいになるんだね。」
「怜羅…。麻痺しているね…。」
理子の憐れむ目を見て、自身の感覚の麻痺を自覚した怜羅だった。
「次に会う約束は?」
パスタをフォークに巻きつけながら理子が訊く。
「してない。けど、香港から電話していい?って言われた。」
「マジ?脈アリよ。絶対!いい?電話があったら次の約束を取り付けるのよ!」
「心配してくれてるだけだよ。優しいな、とは思ったけど。」
「怜羅は、どう思っているの?」
「わからない。」
パスタを口に運びながら、考える。そう。怜羅は今はまだ竜夫の存在に怯えている。次の恋人を考える余裕がない。
話が途切れたところで、怜羅が投げかける。
「ところで。きちんと説明してくれない?俊介くんのこと。」
理子が俯いて赤くなった。
「その、ね。あの…。入っていい?って聞かれて、いいよって言ったの。」
「入ってって…。」
「ホテル…。」
「ソレって、そういう…。」
理子が恥ずかしそう頷いた。懸命にフォークを動かしているが、パスタをいっこうに巻き取れていない。
怜羅は息が止まるくらい驚いた。と同時にホッとした。理子は前の別れ以来、荒れていたので心配していたのだ。
「今、幸せ?」
「うん!幸せ!」
「よかった~。」
「ありがと。次は怜羅だね。」
「私は当分いいよ。」
「そんなこと言わないで~。まだこれからだよ。」
理子とのこんなやりとりをしながら、心からホッとする怜羅だった。