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とことん語る。とことん聴く。

どうやって誤解を解こう、などと悩んでいたのは一瞬だった。

「来週から出張なので、スーツケースを買いたいんです。」

智也の気遣いか、少し遠いショッピングモールに到着して、まず、スーツケースを選びに行く。次にネクタイ。小物売り場。移動の合間にお茶したり、ランチしたり。智也はたくさん話を聴いてくれた。お茶もランチも、好みを気にかけてくれて、智也が一方的に決めたりすることはなかった。

今日、智也と過ごしたことで、4歳も年上の竜夫がすごく幼く思えたし、同い年の智也の方がずっと大人に思えた。実年齢よりも、人間性だということを知ったことは、今日の収穫といってもいいだろう。


「今までは、どんな人と付き合ってきたんですか?」「どうして、その人と別れたんですか?」

一見、智也の質問に答えているようで、実は怜羅の溜まっていたものを吐き出していた。

エロ漫画疑惑は何処へやら。その後、一度もその話題が出ることはなく、とことん話を聴いてくれた。そして、結婚に失敗したくらいに落ち込んで「私もう一生、独身かもしれない」とこぼした時には「まだ23ですよね?俺と同い年で、結婚なんて、まだ考えなくてもいいんじゃないですか?」とも言った。


「一つ、聞いてもいいですか?」

とことん話した頃に智也が切り出した。

「何?」

「離れていると、相手の気持ちはつなぎとめられないものですか?」

「そんなことないと思うよ。近くにいて、浮気ばかりする人より、離れていてもちゃんと連絡してくれて、話ができる人の方がいいと思う。」

「そうか。よかった。俺、出張が多くなりそうだから心配になってたんですよ。一生、彼女できないんじゃないかって。」

「そっかー。来週から出張なんだよね?長いの?」

「2週間くらいの予定です。」

「香港だよね?」

「はい。」

「香港から電話しても、いいですか?」

「いいよ。」

そんなことを話しているうちに日が傾いていた。ひんやりとした夜が来る前の、黄金色の日差しは、なぜか二人を切なくさせた。


「ここで大丈夫だよ。ありがとう。」

「玄関前まで送るから、降りないでください。」

怜羅の自宅付近でのこと。もうすっかり暗くなっていたが、万が一を思って、少し離れたところで車から降りようとする怜羅だったが、智也はそれをさせなかった。逃亡に付き合わせた上に、巻き込むわけには、と考えていたのだが、智也は責任感のある人間らしい。

会社では時々、態度の悪いヤツだと思っていただけに、意外に紳士な一面に感心していた。

「ちゃんと家の中に入るまで見ていますから。」

玄関前で車のドアを開ける前にキョロキョロ見渡していると、智也が言った。

「ありがとう。今日は助かったし、楽しかった。出張、気をつけて行ってきてね。」

「ありがとうございます。回り、大丈夫ですか?」

「大丈夫みたい。帰り道、気をつけてね。」

怜羅はサッと車を降りて、玄関ポーチに移動して、智也を見送った。


怜羅と別れてから智也は、気になった場所があったので、そこへ向かった。怜羅の家の近くの、とある路地へ。

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