チャペルで。
「お父さん、なかなか言えなかったけど、今までありがとう。」
バージンロードを歩き出す直前。父の腕に手をかけて立った時、怜羅は父に言った。
「入場前にやめんか!」
ひたすら前を向いたまま、小さな声で返す。父の涙は時限爆弾状態なのである。
やがてパイプオルガンがメロディーを奏ではじめ、いよいよ入場だ。参列者が見守る中を父に連れられて、智也のもとへ歩く。父から智也へ引き渡される。父の手から離れる瞬間になんとも言えない気持ちがよぎる。
…小さい時、お父さんとよく色んな所を歩いたな…。
神父の声が厳かに響く中、智也がヴェールが上げ、耳もとでささやく。
「意外と似合うな。」
ニカッと笑う智也を微笑って軽くにらむ。
誓いの言葉とともに、指輪を交換すると二人はいよいよ夫婦になる。指輪交換の間に、長いようで短い一年半がよぎる。
ひょんなことから一緒に出かけたあの日のこと。ペンギンに会いに行ったこと。ピエールで怜羅の母とご対面したこと。
今日は、たくさんの思い出とともに新しいスタートの日。そして智也にとっては、竜夫に宣言したことが実現した日でもある。ー智也が竜夫と対決したことは、この先も、永遠に怜羅に話すことはないだろうー
ライスシャワーの祝福を受けてから、披露宴会場へ移動。式場が用意してくれたリムジンの乗り心地を堪能する間もなく到着すると、色打ち掛けに着替えて、いよいよ披露宴だ。
「可愛らしいお嫁さんだこと!」
通路を行き交う見知らぬ人々からそんな声が聞こえる中を、美容師に付き添われてしずしずと歩く。控え室から会場に移動する途中で、すれ違う花嫁さんと互いに“おめでとうございます。”という気持ちを込めて会釈する。色打ち掛けの花嫁同士、すれ違った時は、「大奥みたい」とちょっぴり思う。
披露宴会場の入り口で智也が待っていた。紋付き袴姿がなかなか様になっている。
「似合うじゃん!」
「素敵な花婿さんだこと。」
怜羅と美容師がほぼ同時に声を上げると、智也がイタズラっぽい笑顔で言う。
「当然だろ。俺は何でも似合うんだ。」
智也の一言に思わず、式場の係員までもが笑い出す。
すっかりほぐれた雰囲気の中、スタッフが大きな扉を開けると、ライトアップされた会場が視界に飛び込んできた。
いよいよ新郎新婦が入場する。




