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お世話になりました。

「奇跡的に私をもらってくれるという男性ひとが現れましたので、魔法が解けないうちに結婚しようと思います。皆さん、大変お世話になりました。そして今後ともよろしくお願いします。」

怜羅の言葉にドッと笑いが起こる。今日は怜羅の最後の出勤日。定時直後に退職の挨拶をしているのだ。

怜羅は、なかなか性格がきついことでも定評があるので、“奇跡的に”という言葉もあながち冗談に取れない者もいた。そこが好きだという物好きも、智也のほかにも数名いるが…。


幸か不幸か、智也が出張で不在なので、智也がここで注目を浴びる役目は免れたが、この迷スピーチは、後日、誰かの口から聞かされることだろう。

「ご存知の通り、相手は出張で今ここにはいませんが、山下君です。最初、報告を受けた時は私もびっくりしましたが、実にお似合いのお二人です。岡田さん、もうすぐ山下さんですね。お幸せに!」

村田部長の言葉が終わると、大きな拍手が起こり、大きな花束をプレゼントされた。

「みんなからです。」

「ありがとうございます。」

頭を下げていると、また花束が出てきた。

「怜羅、おめでとう。同期のみんなから。」

あの井上香奈が花束を差し出していた。そして香奈の後ろにはいつの間にか、あちこちの部署から同期のみんなが駆けつけ、勢揃いしていた。もちろん田所も。怜羅は放送局の香奈を嫌っていたが、意外な一面に少しだけ見直した。

「結婚式、楽しみにしてるね。」

香奈が言う。カドが立たないように、香奈も招待してあるのだが、正解だったかもしれないと思いながら香奈から花束を受け取る。

「みんな、ありがとう…。」

不覚にも涙がこぼれ落ちる。自他共に認める“温和とは言いがたい”タイプなので、こんなサプライズがあるとは夢にも思っていなかったのだ。

実のところ、結婚のことをオープンにした当初、社内では温和な智也と、気の強い怜羅の組み合わせは、それだけで格好の話題のネタになり、智也が尻に敷かれているのではと懸念する声が、怜羅の耳にも入ってきたくらいだった。


『最後の挨拶は、ちゃんとできた?』

夜になって、智也からLINEが入った。

『うん。なんとかね。大きな花束を二つも貰ったよ。』

花束の写真を撮って送る。

『キレイだね。俺が帰るまで長持ちするといいな。』

『頑張る!』


秋の夜長に月が一層輝く夜空を見上げて、互いの海の向こうの相手を思う夜だった。

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