イヤなことだらけ。
「ごめんな。俺、自分勝手だから…。」
竜夫のその一言でハッとしたときがあった。
…そうだ。自分勝手。だから私は理不尽な思いをするんだ。
そしてことあるごとに言った。
「俺、怜羅に惚れてるんだ。」
そして別れ話をするたびに泣いた。
「怜羅は俺の宝物だから、別れるなんてできない!」「チャンスをくれ!」
その言葉にほだされたり、騙されたりして、何度やり直しただろう。
食事に行っても、怜羅の好きなものは食べさせてくれなかった。竜夫の好きなものばかり。お金は、二人でお金を出し合った“二人の財布“から出しているのに、だ。怜羅のリクエストが通ったのは、「もう別れたい!」と激怒した直後だけ。こんなに怒らないと、好きなものすら食べられないことは窮屈だった。しかも、足りなければ、平気で怜羅の分を取り上げて食べて、知らん顔していた。たかが食べ物のことで、というくらい怒らないと、生返事をして食べていた。食べるのをやめるくらい怒ったときには「そんなことくらいで怒らないでくれ」としょんぼりしていた。
車にしても、怜羅が車を出していても、怜羅の好きな音楽は一切、聴かせてもらえなかった。竜夫の好きな音楽ばかり。竜夫が車を出していても、竜夫の好きな音楽だけ。このことにしても、怒鳴るくらいに怒らないと、お構いなし。大声で怒ったらしょんぼりしていたが、怒った直後に怒りの冷めやらぬ時に好きな音楽をしぶしぶ聴かせてもらっても却って不愉快だった。
そんなようなことがたくさんありすぎて、窮屈だったのだ。竜夫は“自分勝手”だから“宝物”がどんな思いをしていてもお構いなしだった。
持ち物や服装にもうるさかった。竜夫の好みではないものを身につけると「あ。」と指を指した。複数のそれの場合は「あ。あ。あ。」と一つずつ指を指した。髪型にもうるさかった。かといって、竜夫は服や小物を買ってくれたわけでもなく、怜羅が自分の収入で買ったものに文句ばかりつけた。
怜羅があるとき思ったのは、「こんな相手にガマンして生きていく必要があるだろうか。」怒らないと、好きなものを何も楽しめないのだ。
さらに、怜羅がコンビニなどでガムやお菓子を買うと、断りなく勝手に食べ、一度たりともそれを補充したことはなかった。それがイヤで目の前で買わない、車に置かないようにしたら「怜羅、ガム。ガム。」と言ってきたので、一喝したこともあった。デート代はほぼ割り勘なことは納得していたが、どうしておやつ代まで負担しないといけないのか、疑問だった。彼氏が全部、デート代を負担している友達もいたが、そこまで望んでいないにしても、怜羅が買った物を当然のように欲しがる竜夫のことが疎ましくなっていたのだ。
そして、結婚にしても、こんな男のために親の反対を押し切ってまで結婚する必要が有るだろうか。私ひとりで両親を説得しようとしても、そんなことを推し量ることもなく、のらりくらりとしている男と生きていくのは疑問を感じるようになった。