キス×100。
「お父さん、お母さん。お世話になりました。怜羅は本日、お嫁に行きます。」
白無垢で三つ指をついていることと、日本髪のカツラの重さに違和感を感じる。
「ところで、白無垢、着ないよね?」
「何言ってるんだよ!」
怜羅が言うと、父が怒った口調で言う。
「和装は色打ち掛けだけじゃなかった?」
「だから、何言ってるんだよ!」
ハッと気がつくと、ベッドの上から智也が呆れたように見ていた。
怜羅はベッドの近くのドレッサーの下に潜り込むように寝ていたのだ。カツラの重さだと思っていたのは、ドレッサーに頭がつっかえていたのが原因だったようだ。
…どうりで父の話し方にしては変だと思った。
夢だったことに納得してゴソゴソと起き上がると智也が言った。
「無言で寝たと思ったら、寝言うるさいし。」
昨夜は、お互いに気まずいまま寝てしまったのだった。それにしても寝言を言っていたとは記憶にないだけに恥ずかしくなってしまう。
「怜羅の寝言がうるさくて眠れなかったんだぞ。お仕置きしてやる!」
智也がイタズラ顔で怜羅を抱き上げると、ベッドの上に乗せ、キスをする。
「チュー百回の刑だ!」
悲鳴を上げる怜羅に智也は容赦ない。抱きあって智也の唇を感じていると、急に昨夜のことが思い出され、一瞬止まる。
「…どうした?」
「なんでもない。」
智也を思い切り抱きしめる。
…私は氷室君に“Yes”と言ってない。応えていない。本当は後ろめたいことなんて、ないんだから。
怜羅が自身に言い聞かせるように、さらに強く抱きしめる。智也も抱きしめる。智也もまた、あさ美の感触を忘れたいのだ。
「もう昼になっちまったな。」
智也の“お仕置き”で二人してそのまま眠って、昼になってしまったのだ。前の晩に、お一人様の間に怜羅が買っておいたパンをブランチに食べながら、智也がスマホをいじる。
「あ。兄貴からLINEが入ってる。…『晩メシ食いに来い。お袋が寂しがっている。』だって。」
「ふーん。たまには実家に泊まりに行って来たら?荷物が入ってから、新居ばっかりなんでしょう?」
「俺よりも怜羅に会いたいみたいだぞ?」
「そう?私が一緒だとお邪魔じゃない?やっぱり智也だけで行って来たら?」
「水くさいこと言うなよ。結婚前とはいえ、もう家族なんだから。行こう!手土産は怜羅の好きなスイーツを買おうよ。」
「わかったけどね…。着替えてから行こうよ。」
「あ…。」
二人ともまだ寝起きの格好のままだったことを智也はすっかり忘れていた。
「早く着替えて出かけよう!」
慌ただしく着替えだす二人だった。




