再会。
「帰り、迎えに来て。」
智也はそう言って、車から降りる。同窓会の打ち合わせ場所である、居酒屋の前。怜羅は笑顔で手を振って車を発進させる。まだ間宮あさ美のことが少し引っかかるが、引き止めることはしなかった。
「お迎えってことは、帰ってくるまで飲めないな…。」
ちょっとつまらなそうに呟く。しかし、送迎することによって、怜羅の存在が明らかになるし、ということで送迎を了承したのだ。
「お一人様でもしてこようっと。」
近くのショッピングモールで過ごすことに決めて、ハンドルを握り直す。
夕方から一人でブラブラするのは、なかなか楽しい。服や雑貨などを見て歩き、気が向いたらお茶したり、軽く食事したりしてのんびりと時間を過ごす。
「まだかな。」
時計を見ると、送り届けてから3時間が経過している。まだ連絡がないということは、2軒目に行ってしまったのだろうか。
「ま、いっか。」
近くのカフェで紅茶を注文して休憩することにした。通路が見える、お一人様の席に座る。湯気の向こうの人の流れを眺めていると声をかけられた。
「怜羅…さん?」
振り返ると、見覚えのない同年代の男性。キョトンとしていると、その男性が話し出す。
「覚えてませんか?先日、横山の二次会で…。」
「横山?あ。…真緒の?」
友人の真緒が先日、横山さんなったことを思い出した、と同時に面倒くさい男性に再会してしまったと、怜羅の表情がこわばる。
「はい。そうです。会えて良かったー。怜羅さん、すぐに帰っちゃったから。隣、いいですか?」
やたら隣に座ってくるから、捕まる前に名前も聞かないうちに退散したのだ。そして今日も勝手に隣に座ってきた。
「自己紹介まだでしたよね。僕、氷室剛といいます。怜羅さん、名前だけしか知らないんですけど、名字は…?」
「もうすぐ、山下怜羅になります。」
氷室は反射的に左手に目をやる。
「そうだったんですか…。」
「ええ。今日は彼の用事で、少し時間を潰しているところなんです。」
怜羅は、あえてにっこりと言う。なかなか良い性格のようだ。
「あの、友達として会ってもらうわけにはいきませんか?」
「無理!」
気分を害した怜羅は紙カップを片手に席を立つ。
「そろそろ時間なので、失礼しますね。真緒たちによろしくね。」
氷室がどんな表情をしているのか、確かめる気もなく、逃げるように立ち去る。こんなことを他の誰かに言われたことが、後ろめたい。
一方、智也のほうは、打ち合わせはそこそこに、すっかり出来上がっていた。
「智也とこうして並ぶのって懐かしい~。」
あさ美が智也に腕を絡める。
「よせよ。」
「いいじゃない。ちょっとくらい。」
智也がすり抜けるように腕から逃げると、あさ美が口をとがらす。
「あさ美、やめろよ。」
男性陣から声が上がると、智也がいきなり立ち上がった。
「今日、みんなに話そうと思っていたんだけど、俺、結婚します。」
女性陣からは驚きの声が上がり、男性陣からは拍手が起こった。智也は照れた様子で座り直すと、言った。
「二次会の幹事を江川に頼んであるんだ。みんな、来てくれよな。」
あさ美が、さみしそうな表情で言う。
「そうだったんだ。知ってたら、打ち合わせしなかったのにな…。」
「あさ美、お前のかなう相手じゃないぞ。」
「そうだよ。もう、やめなよ。前に進みなよ。」
男性陣からも女性陣からも声が飛ぶ。特に男性陣は送ってきた怜羅の姿を見ているのだ。
実は、あさ美は失恋したばかり。智也なら優しくしてれるかもしれないと下心があったのだ。
「俺、そろそろ帰るわ。迎えに来てもらう約束してるんだ。」
スマホを手にする智也の背中に、あさ美がすがりつく。
「お願い。少しだけ一緒にいて!」
「やめてくれよ。お前のそういうトコ、昔から付き合いきれない。そういうつもりなら同窓会、俺抜きでやってくれないか?」
「そうだよ。あさ美。過去にすがってちゃダメだよ。」
智也としても、あさ美の感触が背中に残ることが後ろめたい。
ほどなくして、怜羅が迎えに行くと、店の前で同級生に冷やかされている智也の姿があった。智也は素早く助手席に乗り込むと、みんなに手を振る。怜羅が会釈して、車を発進させると、車内が急に静かになった。お互いに“再会”した相手のことで自分は悪くないが後ろめたくて、話しづらいのだ。
「怜羅、怒ってるの?」
「別に…。智也こそ、何も言わないけど、どうしたの?」
「別に…。」
なんとなく気まずい夜だった。




