報告。
週が明けて、いよいよ報告のときが来た。定時直後に智也と一緒に報告する予定だ。会議室を予約し、智也に報告する。智也の合図とともに怜羅も会議室に行く手はずなのだ。
定時直後、智也が村田部長を会議室に誘う。移動する直前に智也から声がかかる。
「岡田さん。お茶をお願いします。」
これが合図だ。怜羅はお茶を淹れたお盆を持って会議室に向かう。
「失礼します。」
ノックをして入室したら、お茶を部長と智也の前に置き、怜羅は智也の隣に座る。部長が怪訝そうな表情をしたときに智也が切りだした。
「僕たち、結婚します。」
「え…?」
「私は、結婚を機に退社をします。」
「…これはこれは。知らなかったよ。おめでとう。ところで、結納や挙式は?」
「結納は昨日、済ませました。式は秋に予定しております。」
「あらためて招待状をお渡ししたいのですが、ご出席いただけますか?」
「もちろんだよ!いやあ、驚いた。」
「ところで、岡田さんは転職?もし仕事を続けたいなら、異動でもいいんだよ?」
「ありがとうございます。色々考えましたが、違う職場を経験しておこうと思いまして。」
「そうですか。ところでお仲人さんは、どなたに?」
「式の出席者全員がお仲人さんです。部長には僕の、新郎側のスピーチをお願いしたいのですが…。いえ、ぜひ、お願いします。」
「部署内ではあと何人か招待する?だいたいの役割はもう決まっている?」
「はい。決めてあります。順番にお願いしていく予定です。」
「今から頼んでは、どうかな?」
部長がニヤリと笑う。
「はい?」
「今日は珍しく出張に出ている人間が少ないから、チャンスだよ。どれ、私が内線で呼んであげよう。」
「すまないが、ちょっと会議室まで来てくれ。大至急だ。」
村田部長が内線で何人かを“大至急”で呼んだ。すぐに慌ただしい音とともに、数名の上司が駆けつけた。誰しも怜羅が智也の隣に座っていることに気づいていないようだ。
「すまないね。山下から話があるんだ。」
部長が目配せすると智也が口を開いた。
「僕たち、結婚します。」
「え?」
一同が声を発して、初めて怜羅に気づいたようだ。
「改めて招待状をお渡ししますので、式にご出席いただけないでしょうか?」
「も、もちろんだよ。おめでとう。」
「こりゃびっくりだなぁ。喜んで。」
「山下、いつの間に!やるなあ!」
皆が口々に返事をする。
「ありがとうございます。」
2人で立ち上がってお辞儀をすると、拍手が湧き上がった。
「部長、“大至急”っておっしゃるから、何の話かと思いましたよ。」
一人がいうと笑い声が起こった。
「びっくりさせてすまなかった。今日は人が揃っているから、ちょうどいいと思ってな。」
「当日、楽しみにしていますよ。」
思いがけず、賑やかな報告になった夏の夕方のことだった。




