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ユビワモンドを贈る。

いよいよ明日が結納という、金曜日の夜。智也は母親に言った。

「お袋にユビワモンド買ってあげるってずっと言ってたのに、買わなくてごめんな。」

「いいのよ。そう言ってくれたことが嬉しかったし、こうして覚えていてもらえただけで充分!」

智也の母は、びっくりして、涙ぐむ。

「ありがとな。」

「やあね。お母さんを泣かせないで。」

いつも母の後をついて歩いていた、甘えん坊だった子供の頃を思い出したのだろう。そして、突然、怜羅が現れた、出張帰りの夜のことも。

娘ができる喜びと、息子を取られてしまうことへの嫉妬、甘えん坊がいつの間にか大人になっていた驚き。色々と思うのは、花嫁の父だけではないようだ。


さて、当日。

結納といっても仲人を立てないので、両家の家族だけの簡単な食事会だ。ホテルの一室で執り行うため、両家の両親兄弟が勢ぞろいした。みんなに祝福される中、結納飾りや指輪などなどが飾られたその部屋で2人は正式に婚約した。


「怜羅ちゃんが義妹になるなんてうれしいよ。よろしくね。」

智也の兄、洋一がお酌をしてくれた。

「お義姉さん、口の悪い兄ですが、よろしくお願いしますね。」

「余計なお世話だよ!」

続いてお酌に来た弟の勇人を智也が小突くと笑い声が上がった。

「こんな妹ですが、よろしくお願いします。」

「お兄ちゃん!黙ってて。」

怜羅の兄、すぐるもお酌に来た。

「まあ、こんな娘ですが…。」

「お父さんまで、やめてよー。」

笑い声の絶えない食事会となった。


週明けには上司うえに報告して、それからオープンにするつもりだ。そして、怜羅の転職活動もスタートだ。


去年の花冷えの夜、怜羅が通過した分岐点は、大きなそれだったようだ。あれから一年と数カ月が経った現在、新しい人生のスタートラインに立っている。

岡田家の誰も口にこそ出さないが、全員が、あの頃、本当に心配していただけに、今日のこの日を心から安堵して迎えていた。

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